以前になりますが、句友から
「”水涸るる”の地選の句、〈沼涸れて此処は墓だつたのですね〉
が、NHK俳句(夏井いつき先生選)の虫時雨の一席の句、
〈ここは沼だったのですよ虫時雨〉と似ているのです。選評も結構似ています。たぶん気づいてる人も多いと思います。」
というハナシをきいたことがあります。いわゆる「類句」の話ですが、今日はこの問題を取り上げてみましょう。
まずは、俳句ポスト第199回兼題「踊」の最も手近な資料からひろってみましょうか。
下駄ぬげば畳やはらか踊の夜 凡鑽
踊下駄脱ぎて畳の柔らかく しゃれこうべの妻
下駄脱いで畳柔らか盆踊 シュリ
三周で思ひ出したる踊りかな 幹弘
三周もすれば手拍子合う踊 江口小春
踊の輪手拍子揃う三周目 ペトロア
祭服の神父飛び入り盆踊 いもがらぼくと
飛び入りのおじさん鞄を下げ踊る 山内彩月
遠路来て飛び入り参加で踊る子ら りすぶん
飛び入りの旅の途中の踊かな ひろろ
タイ人の一家を踊りつつ招く 一阿蘇二鷲三ピーマン
踊る手の手の手の招く星あまた 小野更紗
踊りの輪友が手招く遠くから はら美華子
「畳やわらか」「三周」「飛び入り」「手招く」…いずれも工夫した語彙で選者の目に留まり選に入った句です。
ここでは4例に留めましたが、その他も類句類想の山です。
〇踊の輪犬鉄棒につながれて ウロ
〇平成の踊りをさめや母祖母と ウロ
これはいずれも出句しなかった自選ボツ句ですが、「犬」は12件もありました。(ほかに「いぬ」が1件)「祖母」17件「母」56件です。こういう句材はあらかじめ涙のタネを仕込んでおくいわゆる「予定調和の句」でイヤシイ意図の見え透いた技法です。
決して悪いと言っているのではありませんが、これで共感を呼ぶことはできなさそうです。「天・地位選」の句はみごとでしたね。
恍惚の口より佛出て踊る 杏と優
「天」位選の句です。こういう句を目指したいものです。
さて、類句の多さに嘆いたのは、なにもいまにはじまったことではありません(『去来抄』ほか)。
十七音短詩というきわめて限定された小さなうつわにコトバを盛るアソビである以上、逃れることのできない宿命なのです。
類句が多いのは好ましいことではないが咎めることはできないと思います。上の例の13句はそれぞれ似通ってはいるが作者それぞれの「オレの句」なのです。
ニホンゴの音の数は50音と有限なのでその組み合わせは限られたカズであり、子規は俳句の命数は明治年間で尽きると予想していました。いまだに俳句が洪水のように生産され続けられるのは奇跡としか思えませんが、俳句を延命させる方法がないではないですがここで述べることではありません。
樫の木の花にかまはぬ姿かな 芭蕉
桐の木の風にかまはぬ落葉かな 凡兆
其角は凡兆の句を「等類」と言ったのに対し去来は、似ているけれども意味が違うから「同巣」だと弁護したそうです。
「等類」というのは、着想・趣向・表現が他の句と類似すること、です。「類句」ということですね、早い話が。
「同巣」というのは、いわば、換骨奪胎です。つまり、「手法を借りて別の素材を当てはめること、です。
このエピソードを聞いたとき、「同巣」のほうが盗作に近い気がして悪いと思ったのですが…
古沼や神輿飛び込む水の音 ウロ
〈古池や〉の「同巣」ですが、決して褒められたことではなさそうですね。去来は同巣であっても真似したほうが優れていれば結果オーライだと言いました。そんなもんですかね。
句片のどれひとつ自分で作ったものは無い、すべて先人の句の断片(パーツ)を拾い集めてアセンブリしただけだと嘆いた上田五千石。そこまで考えればヤッテランナイとなりますが、次の句を、ごろうじろ――――
浜風になぐれて高き蝶々かな 石鼎
谷風に吹きそらさるゝ蜻蛉かな 鬼城
一湾をたあんと開く猟銃音 誓子
秋の谷とうんと銃の谺かな 青畝
凩や星吹きこぼす海の上 子規
凩や海に夕日を吹き落とす 漱石
われわれがヤッたら刺されます。よい子はマネしないでね、というしかありませんね。
結論。類句はしかたがない、というのは簡単。発想をトバそう!盗作はダメ。贋作もダメ。剽窃は絶対の×。
自分の句でなら…いや、ダメです。発表公開されたらその句は独り立ちするので後の句は「類句」なのです。
芭蕉は自作の句
清滝や浪にちりなき夏の月
を、後年、
白菊の目に立て見るちりもなし 芭蕉
ができたので〈清滝の〉は破棄するといいました。〈清滝や〉は世の中に存在しない句になったのです。
ウロはひとつの兼題について20句ぐらいは作りますが、全部捨てきれずに「保存」しています。凡人の悲しさですかね。
パソコンの立ち上がりがニブくなりましたが そのセイかな?
マイパソコンの調子が悪くみなさんのブログに訪問すると必ずフリーズするようになりました。自分のブログに寄せられたコメントさえも開くことができません。ツキアイがわるくなりますが、お許しください。