《虎落笛》という季語考 | ouroboros-34のブログ

ouroboros-34のブログ

こころに映りゆく由無しごとを其処は可となく書き付けて
ごうなっだのでありますぐるらめ。

  《虎落笛》という季語があります。

俳句を作るようになってしばらくすると、この一見ものものしい言葉が目に留まり意味がわかると一句これでまとめたくなります。

「虎落笛」は俳句愛好者の一種通過儀礼のようなものです。

「もがりぶえ」とは竹垣に北風がつよく吹き付けるときに鳴る風切り音です。

近時は電線に木枯らしといった組み合わせでしかみられませんが、ほんの以前には一般的だった木造家屋が古くなると立て付けにガタがきて障子やガラス戸の隙間から風が吹き込み、ひゅうひゅうと音がしたものです。

木と紙の南方仕様の建屋からコンクリートとアルミの北方仕様の建築に変わると住環境から「もがりぶえ」は無くなりました。

へやの中が屋外とほとんどかわらない状態になるという寒暑の厳しさから解放されるとともに自然の営みの風情からも疎遠となったのです。

俳句は自然観照の時代から構成詩としての役割に変貌を遂げることになりました。
そこで冒頭の「虎落笛」がさしたる理由もなく顔を出すのは実に不思議な現象です。
文字づらのまがまがしさが構成詩の色彩感とでもいえる要請に合っているのかもしれませんし、単に俳人の虚妄的権威好みを満足させているだけなのかもしれません。

「もがりぶえ」の「もがり」の語源は「もぐ」からきています。逆らうものから無理やりはぎとることで、「もがる」は逆らう・反対すること。つまり障子の破れ紙が風の通過に逆らって発振する音を「もがりぶえ」というのです。
「もがる」というコトバ自体が無くなりました。「もがりぶえ」の余命宣告ももう間がないでしょう。
漢字の「虎落」は虎を捉えるのに割竹を組んで罠にしたという中国のはなしを、割竹を編んだもがり垣に当用したものだと考えられます。


俳句の句会の兼題はたいてい、季節題と自由題の組み合わせですが、この日の季節題が「虎落笛」でした。「冬」の季語です。

句会は俳句の勉強を兼ねているので主催の親心が当日の季題としたのでしょう。
親心子知らず。トリオドシというのは聞いたことがあるけどトラオトシってなんだ?
字が正しく読めなければ歳時記だってただの百均本です。

かつて虎落笛の四重奏はおろか、オーケストラの出前演奏もかくやあるべし、だった実家の我が家は、母も死んで無人、空き家のまま十年以上を経ていますが、それでもアルミサッシュの戸や窓は締めれば完全タイトで、虎落笛など消息不明の失踪宣告確定のバカ息子といった状態です。
で、ガキの頃の思い出を探ることから始まりました。

   極月や一寸戸咎む地獄耳      ウロ

   一寸戸…戸や障子をぴったりしめないですこししめ残すこと。行儀のわるいこと。
   風の音がすれば虎落笛。
   地獄耳…ひま(隙間)風の音をこれは耳さとい。
   極月(十二月)の「ゴク」と地獄耳の「ゴク」を掛けて…
   アレッ、漢字が同じじゃないんだな。ま、いいか。


去年の暮れに勉強で調べたことを書いたものですが、確か、ブログに出していないので、出しますバッテ、後出しじゃんけんじゃけんど、ゴメンシテクンサイ!