現場出動異聞
寝室は血の匂いが充満していた。
警部は懐中電灯の光を手元に戻し、横の壁スイッチを押した。
「おい、玄関のブレーカーを見て来い」
命じられた部下は、小馬鹿にした態度をとる。
「壁スイッチじゃないっすよ。ほら、あれ」
照らし出した先の部屋の蛍光燈からは40センチほどの引き紐チェーンが揺れていた。
老警部は顔をしかめる。
「いいか。壁スイッチでキッチンの電気がつかないのは、ブレーカーが落ちているからじゃないか。とっとっと見て来い」
軽率な部下を見にやったのが万事に慎重な警部に似つかわしくない落ち度であった。
ブレーカーのトグルスイッチを上げた瞬間火の海に取り囲まれることになったのだから。
殺人の証拠隠滅を警察にさせる犯人の意図は、こうして達成された。