O 今までやってきた対談の中には最近気になっているものからテーマを拾ってきたことも何回かあるわけだけど、今回もそんな感じでT君が最近凝っているという美術館について話してみたいと思います。

 

T 僕は今東京に住んでるけど、こっちに来てから美術館によく行くようになったね。近くにたくさんあるし。

 

O 東京には大学のころもいたと思うんだけど、そのときには行ってなかった?

 

T 行ってなかったね。実は美術に興味が出てきたのは本当にごく最近のことで、諸先輩方のレベルに比べたら全然なので、こんな風に語るのもおこがましいんですが。

 

O 大丈夫だよ。どうせ諸先輩方は見てないですから(笑)。

 

T きっかけは海外旅行なんだよね。例えばパリに行けば美術に興味ない人でもルーブル美術館に行ったりすると思うんだけど、僕もそんな感じで、海外旅行に行ったときについでに見ておこうかなぐらいの感覚で美術館に行ったんだね。そうしたら美術って意外と面白いものだということに気がついて、日本でも行くようになった。

 

O なるほど、最初は観光から入っていったんだね。観光名所を巡っているうちにモナリザさんに惚れちゃったとか、そんな感じなのかな。

 

T まあ、ルーブルは行ってないんだけどね。スペインでピカソとかを見たのがきっかけかな。だから今も西洋絵画に的を絞ってて、西洋絵画を見れる美術館を東京近辺で探して見に行ってるね。

 

O 僕は全く逆のパターンで、今はほとんど行かないけど、大学で関東に住んでたときは一時期よく行ってたことがあった。ちょうどそのころ自分に興味のある人たちの展覧会をやってたのもあるけど。ただ、社会人になって全然行かなくなっちゃったから、もともと美術にはあまり興味がないのかもしれない。

 

T ちなみに、そのとき興味があった画家っていうのは、誰なの?

 

O ダリとか、シュールレアリズム系が好きだったね。いわゆる風景画なんかの見た物を見たまま描いている絵よりも、そこに作者のアイデアが加わっているような絵が好きだった。むしろそのアイデアのほうに興味があって、だから一般の絵画好きとは違った視点で絵を見てたかもしれない。

 

T シュールレアリズムから入るのも珍しいね。

 

O 他にもマグリットとかエッシャーとか、トリックアートっぽいのも好きだった。まあ、僕は亜流な一派として捉えてもらえたらと。

 

T 僕が好きなのは、ある意味ミーハーだけど、印象派の時代なんだよね。日本人は大好きだし、世界的にも人気がある時代だと思うけど。

 

O 印象派というのも実はどういうものかよくわかってないんだよね。たぶん今日対談していくうちに、本当は僕は美術に興味がないってことがよくわかってくると思う(笑)。印象派というのは何をもって印象派と言うの?

 

T 僕がここでそれっぽく説明すると事実誤認が多いだろうから、その道の人に怒られそうだけど…

 

O だからその道の人は見てないから大丈夫だって(笑)。

 

T 例えばモネなんかがそうだけど、黒の色というのは実は自然界には存在してなくて、その黒を排除して光の加減とかをうまく使って表現したり、あとは直線を使わず曲線で描いたり、そんなのが印象派の特徴かな。

 

O その話は面白いね。たしかに自然に存在している黒いものって、よく見るとすごく濃い茶色だったりするもんね。

 

T 印象派の基本的なトーンとしては明るい色が多いんだよね。だからこそ人気があるのかと思う。でも僕も最近美術に興味を持ったからこそ印象派がどういうものかわかってきたけど、それまでは全然知らなかった。そう考えると、学校の美術の授業でももっと西洋美術史とか学ばせてくれてもよかったのにと思うな。

 

O 実は僕は大学の普遍科目の一つとして美術史の授業を受けたことがあるんだよね。たしかにそれで興味を持ったというのはある。もちろん印象派だとかそういう系統の話も教えてくれたと思うんだけど、僕はどちらかというと絵の見方とか、そういう話のほうが面白かった。後ろ姿が描かれてたら作者が自分と同じ視点で見せようとしてるとか、こういう物が描かれていると作者のこういう気持ちを表現してるとか、そんな絵を見るテクニック的な話が面白かった。

 

T だけど学生の頃の美術の授業って、ひたすら絵を描いてるだけだったよね。作品を作って、完成したらまた次の作品を作ってって具合に。鑑賞するって視点がなかったように思う。

 

O それに僕らの高校は美術が選択性だったから、選択しない人は全く美術に触れなくなっちゃったしね。

 

T そもそも大人になって絵を描く人なんてほんの一部じゃん。だから絵を描く技法というのはそんなに必要なくて、むしろ絵を見る視点を学んだほうが有意義だと思うんだけどな。そのへん、美術の教育課程を見直したらどうかと強く問いたい(笑)。

 

O お、T君ならではの発想が出ましたね(笑)。

 

To Be Continued...

O あとは別のパターンとして寅さんがパス出しちゃうってのもあるよね。寅さんが思いを寄せる女性に思いを寄せる他の若者が出てきたりして、最終的に寅さんがそいつにパスを出しちゃう。

 

T 僕はそっちのパターンのほうが好きだな。深い感じがする。自分はできないくせにアドバイスだけは一丁前にして、それでうまくいっちゃったりするんだよね。

 

O それもなかなかできないことだよね。誰でも自分が思いを寄せている女性がいれば、まずは自分が幸せになりたいだろうに、そこをあえてライバルを助けちゃう。

 

T 自分はシュートを打たないけど、センタリングだけ上げてる感じだね。

 

O つまりはサッカー選手で例えると誰ですか?

 

T ・・・

 

O あ、すみません、深夜ならではの無茶ぶりが出てしまいました(笑)。

 

T まあ、とにかくゴールはないけどアシストが多いんだね。

 

O そういうところにも愛されるゆえんがあるのかな。それに、寅さんがゴールを決めちゃったら、48作も作られないうちに『男はつらいよ』が終わっちゃうからね(笑)。

 

T それを言っちゃあおしめぇよ(笑)。寅さんって、普段はいきがってるくせに、好きな女性の前だと急に笑顔で優しくなって、どこかわざとらしくなっちゃうんだよね。

 

O 第1作のウィンクの場面なんかとくにそうだね。博には女は目で落とすんだみたいなアドバイスをしておきながら、いざ自分がウィンクをやってみると、「目にゴミが入ったの?」とか言われちゃう(笑)。

 

T 第3作のコタツのシーンもあった。コタツの中で手を握るといいってアドバイスをして、実際にやってみると、男同士で手を握っちゃってたりして(笑)。

 

O そういうシーンを挙げていくと、やっぱり笑いのセンスが卓越してることがわかるね。これも脚本の力なのかもしれないけど。ちょうどいいところを突いてくる。これって今のお笑いでもなかなかできないことだよ。

 

T 渥美清のキャラによるところも大きいだろうね。他の人がやったら同じようにはならないと思う。

 

O 「下駄みたいな顔して」とかよく言われてるけど、渥美清はどういう気持ちであのセリフを聞いてるんだろう(笑)。それがいつも気になるんだけど。

 

T たしかにね。だけど渥美清は既婚者なんだよね。

 

O あ、そうなんだ。そういう基本情報は全く知らないで話してたよ。寅さんやってた頃から奥さんはいたの?

 

T そうみたいだよ。だから逆に言うと、既婚者の立場でありながらフーテンの独り者の気持ちを代弁できていたのはすごいんじゃないかな。

 

O じゃあ余計「下駄みたいな顔」とか言われてるのを奥さんはどんな気持ちで聞いてたんだろう(笑)。

 

T でも何と言っても渥美清は国民栄誉賞ももらってますからね。あとは、各地方に行って、当時の時代風景を垣間見れるのも『男はつらいよ』の面白さの一つになってるよね。僕らがまだ生まれる前の昔の風景も映ってたりして。

 

O 各地が舞台になってるんだけど、47都道府県全部は制覇できてないんだよね。少なくとも高知は舞台になってないみたい。僕は父親が高知の出身だから、それでそんな話を聞いたことがある。

 

T 高知なんて真っ先に舞台になりそうなのに、意外だね。僕は近場が舞台になってないのかと思ったけど。

 

O 近場は何となく舞台になってるのかもしれないね。東京なんかはまず除外されるだろうし。

 

T 朝ドラですら全都道府県回ったと言うのになぁ。全48作だから、数字の上では行けるはずだよね。

 

O だから2回舞台になってる場所もあるんだよね。リリーさんなんかは何回も出てくるから、リリーさんが出てくる作品の場所は複数回舞台になってたりするのかな。

 

T リリー・フランキーさん?

 

O 君、いくら深夜だからって何でもありってわけにはいかないんだよ(笑)!

 

T あ、あとそう言えば、僕は寅さんの地元である柴又を訪れたことがあるよ。通りはあのままの感じで残ってたし、それに寅さんの格好をした人もいた。

 

O 今はそんなCMもやってるけどね。

 

T あのCMいいよね!リチャード・ギアにやらせてるところが何ともいい。柴又にいた人もどこで調達してきたんだって思うようなブラウンのジャケットに水色のシャツ、カバンも同じようなのを持ってて、みんなに写真をせがまれてた。帝釈天や矢切の渡しも行ったし、博物館もあってけっこう楽しめたよ。

 

O では機会があったら僕も行ってみるとしますかな。

 

T 次は行ってみての感想を語らい合うのも面白いかもしれないね。

 

The End.

T おいちゃんは3人代わってるんだよね。俳優が代わってるから当然かもしれないけど、雰囲気も変わっていると思う。初代はチャキチャキの下町のおじさんという感じだけど、3代目になるともっと落ち着いた感じになる。

 

O あと、第1作でもう一つ注目してもらいたいのは、さくらと博が結婚するにあたって博がさくらに告白をする場面があるんだけど、その告白が何とも気持ち悪い(笑)。

 

T 気持ち悪い?ピンと来ないなぁ。

 

O いつも工場からあなたのこと見てましたとか言うんだよ。窓から洗濯物を干すところとか、雨の日に読書をするところとか、いつも見てましたって。それって気持ち悪くない?

 

T まあ、まかり間違えばストーカーになるようなことだな。

 

O これは前に『耳をすませば』のテーマで天沢聖治くんについて散々話したことにも通じるよね。

 

T でも博もなかなか面白い立ち位置にいるよね。寅さんと博がぶつかるシーンもまた面白かったりするんだけど。

 

O 「おい、職工!」とか言ったりして(笑)。あと、『男はつらいよ』のもう一つの魅力は何といってもセリフだね。山田洋次監督が脚本も書かれていると思うんだけど、日本語がすごくきれい。世界遺産とかじゃないけど、まさに後世に残したい言葉という感じがする。

 

T 声に出して読みたい日本語といった感じかな。いわゆる口上っていうのもうまいよね。

 

O 「四谷赤坂麹町、チャラチャラ流れる御茶ノ水、粋な姐ちゃん立ちションベン。」とか。

 

T また渥美清もうまいんだよね。何かで読んだことがあるけど、渥美清自身も実際そういうことをやった経験があるみたいだね。

 

O そうなんだ。意外と源ちゃんみたいなポジションで使い走らされたりしてたのかな。あれを見てて思うのが、寅さんは源ちゃんにけっこう無茶な使いをさせてたりするんだけど、ああいうのが上下関係だったりするのかな。

 

T それが渡世人のつれぇところですよ(笑)。

 

O お!出ましたね、名言!

 

T 好きなセリフが「それが渡世人のつれぇところですよ。」と「それを言っちゃあおしめぇよ。」なんだよね。

 

O 「それを言っちゃあおしめぇよ。」もよく言ってるよね。僕がとくに好きなセリフは、後期の作品で満男が大きくなってから寅さんに「人は何のために生きてるのかな?」みたいなことを尋ねるシーンがあるんだけど、それに対して寅さんが答える「あぁ生まれてきて良かったな、って思うことが何べんかあるじゃない。そのために人間生きてんじゃねぇのか。」ってセリフなんだよね。この感じわかるかな?

 

T やっぱり寅さんのそういう人間くさいところはいいよね。寅さんは主人公ではあるけれど、完全無欠というわけではないし、むしろ欠点だらけで、家族にも迷惑かけてる(笑)。

 

O この前見た3作目だったと思うけど、寅さんが赤の他人の結婚をとらやで祝う話があったんだよね。すごい料理をたくさん注文して、人もいっぱい呼んで、贅の限りを尽くし、最後は新郎新婦をハイヤーで送り出してやった後に、家族に金を払えって言う(笑)。あれは僕も見てて理不尽だと思った。

 

T 寅さんも今で言うところの空気の読めないKYな行動が多いよね。だから寅さんは良いこと言うんだけど、必ずしも自分が善人で完璧な人間かというと全くそんなことはなくて、逆にそういうところが共感を呼ぶんじゃないかな。

 

O それに弱い者を放っておけない気持ちが人一倍強いんだろうね。そのときに自分の能力は忘れちゃうんだけど。さっきの話だと2人に幸せになってほしいって気持ちが先に出ちゃって、普通の人だったらそこで金が無いからと諦めるんだけど、寅さんは金は無いけどとにかくやってみようとなる。

 

T そこはやっぱり任侠の人って感じなのかな。だから気分が落ち込んでるときに『男はつらいよ』を見ると、救われると言うか、がんばろうって気になるよね。

 

O 『男はつらいよ』ってタイトルもうまいよね。あくまでも寅さんの根底にあるのは「つらさ」であって、だから結局はいつもうまくいかない。

 

T たしかにハッピーエンドとは言えないし、むしろ毎回バッドエンドという見方もできるかもしれない。

 

O だいたい寅さんはその気になって、ルンルン気分になるんだけど、最終的には落ち込んで、しょうがねぇってなるんだよね。さっきの「まくら、さくら出してくれ。」のシーンも、枕を出そうとして押し入れを開けると、押し入れの中で寅さんが泣いてる。

 

T とくに初期の作品だと、女のほうが寅さんをたぶらかしてるようにも見えたりするよね。寅さんをその気にさせておいて、実は男がいましたみたいな。

 

O もう寅さんへの同情が止まらないよ(笑)。

 

T どちらかというと初期の作品って、さくらと博の結婚だったり、2作目のお母さんに会いに行く話だったり、マドンナとの絡み以外のところに主眼が置かれてたりするから、マドンナとの経緯が省かれて、余計寅さんが簡単に捨てられてるような印象を受けちゃう。

 

To Be Continued...