O   5年ほど前に取り上げたテーマの続きになるんですが、『男はつらいよ』をもう一回やってみようと思います。

 
T   まずは、なぜ一度取り上げたテーマをもう一度取り上げようと思ったのか、そのあたりから教えてもらいましょうか。
 
O   一つには、前回取り上げたのが『男はつらいよ』にはまり始めて間もない頃で、そんなに作品数も見てなかったタイミングだったので、その後、何作品も見たり、柴又を訪れたりもした今の状態で、当時は知らなかったことも踏まえて改めて記録に残したいと思った。
 
T   たしかに当時の対談を読み返してみたけど、僕もまだ10作目ぐらいまでしか見てない段階で話してるから、話題の中心は初期の作品に寄ってるとは思ったね。そういえば、前回は柴又に行ってみてくださいというところで終わってたね。
 
O   あれから実際に柴又を訪れてみたし、昨日も今日の対談に備えて気持ちを作るために再度柴又に行って予習してきたところだよ。
 
T   ガチ勢だ(笑)。
 
O   それがどこまで役に立つのかはわかりませんが(笑)。T君は全作品を見たんだね。
 
T   BSで毎週放送してたのは全部見たよ。
 
O   さすがですね。僕は全部見てません(笑)。つまみ食い的にしか。たぶん半分以上は見てると思うけど。
 
T   毎週見てれば全部見れるのに。
 
O   今日見てみようと思い立ってテレビをつけると前も見た回だったりするんだよね(笑)。だから見たことない回がある反面、何回も見てる回があったりする。
 
T   今回追加で語りたいのはどんなことですか。
 
O   まず前回のを見返して思ったのが、恋愛の部分に重きを置いた対談になってたってこと。失恋男のバイブルなんてことも言ってたけど、『男はつらいよ』は恋愛だけじゃなくて、人生についての教訓のような視点もあるから、そういう話はしたいと思うね。寅さんでも生きてるんだから僕らも頑張ろうみたいな(笑)。
 
T   あれだけ長い作品だから、初期の頃と後のほうでの色合いも違ってきてるよね。前半はたしかに寅さんの恋が中心なんだけど、最後のほうはマドンナっぽい女性は出てくるものの、満男の話がメインだったりしてくる。
 
O   最後のほうは渥美さんの体調が悪くなってきてたから、寅さんの出番を減らす意味もあって、寅さんの役割を満男に持たせてるんだとは思うけどね。
 
T   そもそも寅さんも年を重ねて、あまり色恋沙汰って歳ではなくなってきてるよね(笑)。
 
O   シリーズが始まったときに寅さんは何歳だったのかが気になって調べたことがあるけど、始まった時点ですでに40を超えてたんだよね。40過ぎてからあれだけの色恋沙汰を繰り返してるんで、その時点でもうだいぶいかれてらっしゃる(笑)と思うんだけど。
 
T   そして最初の何作かまでの寅さんは本当に痛い男なんだよね(笑)。とくにさくらの結婚のときのKYっぷりも、今だったら絶対受け入れられないと思う。
 
O   本人はウケようとしてやってるんだけど、育ってきた環境が違うから、他の人には全然通じないんだよね。
 
T   空回りしちゃってる。
 
O   それに改めて家族が心配する理由がよくわかる。スタート時点で40過ぎだから、中盤以降の作品では50代になってると思うんだけど、その歳になっても所帯を持たず、相変わらず惚れた腫れたを繰り返してる寅さんを見ると、さすがに実の親ではないおいちゃんおばちゃんでも「何やってるんだ」と思うよ(笑)。
 
T   それは我が身にも置き換えてのことですか(笑)?
 
O   我が身に置き換えてああいう生き方はしちゃいけないと思うね(笑)。
 
T   フーテン暮らしだし。
 
O   でも心のどこかではあんな生き方も楽しそうだと、羨ましく思う気持ちもないわけじゃないけどね。
 
T   いつまでも現役っていう感じだよね。
 
O   よく「風の吹くまま気の向くままよ」なんてことも言ってるけど、暖かくなってきたから北へ行ってみようとか、そのときの気分で自分の仕事とかを決められるのが羨ましいな。
 
T   寅さんも年を経るにしたがって、すごく味が出てきているね。良いセリフが自然にふっと出てきたり。
 
O   家族と食卓を囲みながら、情景描写を交えて語るシーンなんかすごく良いと思うな。「旅先を歩いていると、向こうから女性が...」みたいな。
 
T   渥美清の語り口がまた良いんだよね。『男はつらいよ』はまた新作が作られるみたいだけど、渥美清なしでどこまでやれるのか、不安でもあり、楽しみでもあるな。
 
O   もし寅さんがいたら、僕も話を聞いてもらいたいな。僕の身の上を聞いてもらって、「おまえ、気にすることぁねぇよ」とか言ってもらいたい。
 
T   「人間って、なんのために生きてるんですかね?」って?
 
O   出ましたね、名言。その満男の問いかけと寅さんの返しのシーン、最初に聞いたときはすごく感銘を受けたんだけど、聞き慣れたからなのか自分が年をとったからなのかわからないけど、逆にクサいかなって思うようになった。それよりも今は、「やりたいことやったらいいよ」とか、何気ないセリフのほうが良く思えるようになってきた。
 
To Be Continued...
T   よく言われるのが『君の名は。』との比較で、ハッピーエンドなのが『君の名は。』で、バッドエンドなのが『秒速5センチメートル』。『君の名は。』はハッピーエンドと言っていいかわからないけど、最後に再会して終わるからね。
 
O   たしかにどっちの作品もラストシーンは似てるね。ただ『秒速5センチメートル』はバッドエンドと言っていいのかな?明里ちゃんは結婚してるわけだし。それか、本当は貴樹くんと結婚したかったのに、親の決めた閨閥結婚的なやつで、本人は嫌だったのかな(笑)。
 
T   最後の明里の表情はそんな感じじゃなかったけどね。もう貴樹くんのことなんか忘れちゃってるさ。
 
O   そんなもんや。恋愛に関してはよく、男は名前を付けて保存、女は上書き保存なんて言ったりもするしね。貴樹はもう消されちゃったな。
 
T   だから第1部の流れからしたらやっぱりうまくいかなかったということじゃないかな。現実には中学から付き合ってる人と結婚する人なんて少ないんだろうけど。
 
O   付き合ってるとは言っても、全然会ってなかったわけだしねぇ。
 
T   でもそういう意味で、僕は『君の名は。』よりも『秒速5センチメートル』のほうが切なくて好感を持てた。
 
O   そしてやっぱりBGMになってる山崎まさよしの『One more time, One more chance』。これがいいね。この曲のためにある映画なのかって思うぐらい。
 
T   本当にそうだよ。普通は映画のBGMって、映画があった上で主題歌を作ると思うんだよね。でも『風立ちぬ』でのユーミンの『ひこうき雲』もそうだったけど、もともとあった曲を映画の主題歌に使うこともある。この映画もそのパターンなんだけど、曲が先にあったにもかかわらず、この映画のために作られた曲のような気がしてしまうところがすごいと思う。
 
O   僕が想像したのは逆で、曲に合わせて映画を作ったのかと思った。
 
T   何かで読んだけど、新海誠監督がコンビニに入ったときにこの曲が流れてて、これだって思ったらしいよ。だからもしかしたら近づけたところはあるのかもしれない。
 
O   僕はもともとこの曲が好きでよく聴いてたんだよね。大学の頃先輩に、フられたからカラオケ付き合ってくれって言われて、そこであえてこの曲を歌うという意地悪行為をしたこともあった(笑)。
 
T   One more time, One more chanceって、めちゃくちゃ名残惜しい感じになっちゃうじゃん(笑)。
 
O   この曲の女々しい歌詞とか悲しげな歌い方とかがすごくいいんだよね。失恋者の心には響くと思うよ。
 
T   もともと名曲なのが、この映画によってさらに際立つよね。
 
O   映画の最後の部分なんて、この曲のプロモーションビデオみたくなってるもんね。作品と曲のシンクロ率がすごい。
 
T   逆にこの曲がなかったらこの作品はそこまで良いと思わなかったかもしれないね。
 
O   それはあるかもしれないな。でもこの曲がかかるのって、たしかオープニングとエンディングの2回だけなんだよね。エンディングのほうは、コンビニの店内で流れてるところから映画のBGMに移っていく演出がかっこいい。
 
T   自分も男だからどうしても貴樹目線で見ちゃうんだけど、貴樹のやるせない思いがすごく伝わってくるな。
 
O   僕は今回このために映画を見返したけど、やっぱり貴樹の気持ちがわからないんだよね。社会人になった今でも明里ちゃんを思い続けているのか、ストレートにそうとも思えない。貴樹が投げやりになってる原因が明里ちゃんのせいなのか、たまたまそういう境遇に置かれてるうちにそうなっちゃったのか。
 
T   これで悩みの原因が別のところにあったら第1部・第2部は何だったの?ってなるよ(笑)。
 
O   たしかに三段落ちの三段目で落ちなくなっちゃうね(笑)。
 
T   映画通してのストーリーがあるわけだから。
 
O   言われてみれば『One more time, One more chance』にある「どこかに君の姿を探してる」という歌詞と明里ちゃんへの想いがつながって、最後の踏切のシーンになるのか。電車が通過して貴樹は振り返るけど、女性のほうは振り返らないと。
 
T   すれ違ったときに「君の名は?」って言えばよかったのにね(笑)。
 
O   『君の名は。』のラストでは二人は会えてたからね。でも『秒速5センチメートル』では二人の間に電車という障害物があって、会えないんだね。
 
T   すべての原因は電車にあるね。雪で遅れたのも電車だったし。
 
O   たしかに!新海先生は電車に恨みでもあるのかな(笑)。
 
T   ただ、踏切のシーンの時点ではもう明里ちゃんの結婚は決まってるんだし、出会えたとしても手遅れだったけどね。
 
O   そうなってくると明里ちゃんの結婚相手もJRの職員とかかもしれないな(笑)。
 
T   お父さんもJRの職員なんじゃない(笑)?
 
O   あ!つながった(笑)!明里ちゃんのお父さんはJR東日本の職員さんなんですね。だから東京にもいたし、小山にも転勤になった。
 
T   つながったって、僕らが妄想で勝手に決めつけてるだけじゃん(笑)。
 
O   やっぱり青春作品に現実的な視点を持ち込んで妄想するのは僕らのお家芸ですね。
 
The End.
T   そしてさんざん時間かかって目的の駅に着くんだけど、明里ちゃんは待っててくれてる。
 
O   でも中学生でよく行くと思うよ。僕なんて大人になっても新宿駅で迷っちゃう。僕だったら小山市はおろか新宿駅を抜け出せなくて終了だな(笑)。
 
T   すぐそうやって話を現実世界に持ち込んで茶々を入れようとする(笑)。
 
O   そうなってくると明里のお父さんの職業も気になってくるんだよね。なぜ小山市近辺の田舎に転勤になってるのか。
 
T   それなら貴樹のお父さんの種子島への転勤も気になるでしょ。
 
O   種子島はJAXAでしょ。貴樹くんのお父さんはJAXA、明里ちゃんのお父さんは脱サラして急に農業を始めたくなった人かな(笑)。
 
T   だとしたらそれに巻き込まれて親友と離れなきゃならない明里ちゃんかわいそう(笑)。
 
O   でも明里ちゃんもよくあの雪の中を駅で長い時間待ってたよね。
 
T   その後、雪の中で二人キスするシーンもいいよね。
 
O   そこでもすごく気になるのが、明里ちゃんの最寄り駅に着いてるはずなのに、なぜか明里ちゃんの家に行かずに、そのへんの納屋に泊まっちゃう。
 
T   親には内緒だったんでしょ。
 
O   でも親は心配するでしょ。中学生の娘が一晩中帰ってこないんだよ。
 
T   すぐまた現実的な問題に結びつける。ロマンチックさがないなぁ(笑)。
 
O   そして納屋で一夜を過ごした後、第2部へ。第2部は貴樹が種子島に引っ越すことになり、種子島での生活が描かれる。第1部で明里に会いに行ったのも、種子島に引っ越すことが決まって会えなくなってしまうので、その前にということだったね。
 
T   種子島に行くと種がまけなくなってしまいますね(笑)。
 
O   すべってますね。しかも嫌なすべり方です。下ですべるって最悪ですね(笑)。
 
T   第2部になると視点が変わって、貴樹の目線ではなく、花苗という貴樹の同級生の女の子の視点で物語が進んでいく。
 
O   花苗ちゃんね。あまり名前呼ばれてた印象ないな。彼女はお姉ちゃんの影響でサーフィンを始めちゃったんだよね。そして、原付で学校に通ってる。
 
T   原付の通学は印象的だね。あと、ロケットが打ち上がるシーンも印象的だった。
 
O   ロケットを運ぶのに時速何キロって、また速度の話が出てくるんだよね。テーマだから仕方ないんだけど。
 
T   その花苗ちゃんは貴樹くんに片思いをしていて、思いを打ち明けられずにいる。で、貴樹くんはいつも誰かにメールを打っていることが気になってるんだけど、実は後でわかるのが、メールは打ってるけど送ってないんだね。
 
O   あ、そういえばそんなのもあったね。でもその話って第2部だっけ?第2部の段階では明里ちゃんとメールしてるのかと思ってたよ。送らないメールは明里ちゃんに向けたもの?
 
T   そうだと思うよ。
 
O   この作品の時代設定がよくわからないんだけど、ここまできてようやく携帯電話が登場するんだよね。その前までは手紙だったり家の電話だったりが連絡手段になってる。種子島では車の中や店のBGMでリンドバーグがかかってるし(笑)、本当に時代設定がわからない。
 
T   まあ、田舎だからかもしれないし。そして貴樹は宛先のないメールを入力しては送信することなく消す行為を続けてた。
 
O   うわ、変態行為だ(笑)。
 
T   それが花苗ちゃんの誤解を招いたんだね。
 
O   ここでも一種の天沢聖司現象が起きてるんじゃない?『耳をすませば』での本を先に借りる行為も天沢聖司だから美化されただけで、この送らないメールを書く行為もすごい根暗なやつがやってたら気持ち悪い扱いにされちゃうんじゃないのかな。
 
T   でもそういうのを大量にやってたら気持ち悪いけど、送れずに消してるだけだから、これは違うんじゃないかな。
 
O   そうか、送りたいと思って書くものの結局送れないということか。趣味じゃなくて(笑)。
 
T   ひねくれすぎだよ(笑)。『秒速5センチメートル』の一つのテーマはそういった三者のすれ違いにあると思うな。「桜花抄」ではハッピーエンドだったけど、第3部では明里ちゃんは他の男と結婚してるし。
 
O   あの流れで見てくと結婚相手は貴樹くんなのかなと思いきや、全然別の人なんだね。
 
T   でも貴樹くんは今でも明里ちゃんを想ってるみたいだね。
 
O   だけど貴樹も社会人になってから他の女性とはお付き合いしてたみたいだね。結局別れちゃったみたいだけど。
 
T   そのときの彼女のセリフが「あなたとは千回にわたるメールをしても心は1cmほどしか近づけなかった」。
 
O   うわぁ、また距離出た(笑)!
 
T   そうやって最後のメールに書かれて破局したんだね。
 
O   最後の山崎まさよしの『One more time, One more chance』をバックに貴樹の生活がハイライトっぽく流れるシーンで一瞬、その彼女らしき人とベッドで寝てるシーンが映るんだよね。1秒もないぐらいの一瞬で。僕は頑張って一時停止して、そのシーンを確認した(笑)。
 
T   ただのエロ親父じゃん。下ネタですべるのはやめてくれるかな(笑)。
 
O   やばい、自分に返ってきちゃった。カウンター攻撃だ(笑)。
 
T   でもセフレみたいなもので、抱いてても心ここにあらずだったんだろうね。
 
O   最悪だな。天沢聖司以下だ(笑)。この作品はさっきから言ってるように速度だとか距離だとかがよく出てくるけど、僕がトータルで見て思ったのは、秒速5センチメートルというのは人生の速度の象徴なんじゃないかな。ゆっくりながらも人生は進んでいるよと。
 
T   なるほど、深いね。
 
O   心が日々潤いを失っていくといった語りも入っていたし、きっとそういう徐々に侵食されていく感じも表してるんだよ。
 
T   いつかは貴樹くんにも幸せが訪れるのかな。
 
O   でも貴樹くん社畜だからね(笑)。結局は会社を辞めるんだけど。
 
To Be Continued...