O   さあ、というわけで始まりました。もう何回目ですかね?数えきれないぐらいやってますが、対談です。我々の対談もついに平成から令和の時代に入りました。

 
T   現在放送中のテレビ朝日版『白い巨塔』について話していきましょう。
 
O   テレビ朝日の開局60周年記念ドラマですね。
 
T   この前も『二つの祖国』がテレビ東京の開局55周年記念でやってたけど、開局記念といえば山崎豊子作品がふさわしいですね。
 
O   何周年のときには先生を担ぎ出さないとならないわけですね(笑)。
 
T   とりあえず何十周年のときには山崎作品をやっとけみたいのがあるね(笑)。
 
O   たしかフジテレビで『白い巨塔』をやったときも開局何十周年記念とかだったよね。
 
T   そうそう。やっぱり周年行事には山崎先生をおいて他にはないんですよ。
 
O   とりあえず先生の作品やっとけば高尚な感じがするからいいだろうと。あ、決してディスってるわけではなく(笑)。
 
T   局を代表する番組になるわけだから、格が求められるよね。でもよく『白い巨塔』をやったと思うよ。前回のフジテレビ版が今から16年前の2003年。それでいて、フジテレビ版はものすごく評価も視聴率も高くて、完成された作品だったから。ドラマとしては3作目みたいで、最初のは見てないから何とも言えないけど、あの唐沢版のパーフェクトと言ってもいいぐらいの作品の後に、あえて他の局が挑むと。絶対比べられるわけだし、それだけハードルが高くなるのに。
 
O   たしかにフジテレビの『白い巨塔』は良かったね。半年クールでやってて時間がある分、丁寧に描けるし。
 
T   キャストも豪華だったし。
 
O   昔のドラマ版は見たことないけど、映画版は見たことある。原作が完結する前のタイミングの作品だから、財前が医療裁判勝つところで終わるんだよね。教授選も勝って、裁判も勝って、財前無敵という状態で終わるんで、あれ?って思った。
 
T   山崎先生が継ぎ足したらしいからね。この終わり方だとあんまりだという読者の声もあったみたいだし。でも、果たして殺すまでする必要はなかったんじゃ?とも思うけど。
 
O   裁判負けさして終わってもよかったと思うんだけど、それだと良くなかったのかな。あんな状態だったから、裁判負けたら財前は自殺しちゃったかもしれないね。
 
T   『二つの祖国』ならぬまた主人公が自殺する話か(笑)。
 
O   パターン同じだね(笑)。
 
T   でも財前が亡くなる展開だったからこそ、「里見、無念だ」の名ゼリフが生まれたわけだけど。
 
O   テレ朝版はまだそこまでいってないから、最後どうなっていくのかは気になるね。
 
T   そうだね。まだテレ朝版は終わってないから、今回は教授選の部分までを踏まえて対談したいと思います。
 
O   まずは全体的なところで言うと、山崎豊子原作と銘打たれてはいるものの、それぞれの時代に合ったアイテムとかが織り込まれているから、厳密に言うと、『白い巨塔』を原作にした新しいドラマなんだよね。
 
T   たしかにね。令和バージョンとでも言うべきかな。当時のままでも面白みがないしね。
 
O   実は原作は読んでないから何とも言えないけど、財前はオリジナルでは食道がん手術の権威とかだったはずなんだよね。それが、今回では専門はなんだかわからないけど、とにかく最新の技術を取り入れていく人ってなってる。
 
T   そう、専門は変わってるみたいだね。
 
O   今の時代に食道がん手術が合わないのかな。思うに、現代のアイテムってどうしても画面に映り込んじゃうと思うのね。だから、昔の時代をそのまま届けようとすると、それに合ったロケ地を探さないとならないし、逆に大変だと思うんだよね。『不毛地帯』はそのパターンだったけど。そうなってくると、設定を現代に置き換えちゃったほうが、作る側としては楽なのかなと。
 
T   『不毛地帯』は時代背景が直接ストーリーに影響してるからね。シベリア帰りだったり、中東戦争だったり。だからその時代に合わせて作らないとならないけど、『白い巨塔』は必ずしも昔の時代じゃなきゃならない理由はないからね。むしろ、現代に置き換えることによって、『白い巨塔』にあるようなことが現代にも残っているように思わせられるし、テーマの永遠性を感じる。
 
O   時代に左右されない、昭和から令和の時代にも残っていく作品ということだね。
 
T   ちなみに調べたところによると、今回の財前の専門は腹腔鏡手術で、唐沢版は食道外科となっているね。
 
O   だから今の時代だとふく…言えませんね(笑)、腹腔鏡手術が技術がいる手術ということで、それを専門にしたのかな。
 
T   そうみたいね。それに、医療現場でもみんなタブレットで見てたりするし、現代の医療に置き換えられているね。
 
O   スマホも使ってるし。『白い巨塔』は電話が別にストーリーに関係あるわけじゃないから問題ないけど、松本清張のミステリーとかだと、電話がトリックに関係あったりして、スマホだとトリックが完成しないとか、そういうのもあるかもしれないね。
 
T   だけど逆に、医療ミスとかは現代においても起こりうることなんだよね。あと、個人的に気になったのが、第3話で財前がインタビューを受けるシーンがあるんだけど、手術時間を短くして患者に負担をかけないってことを「患者ファースト」って表現してて、いかにも今風だと思った(笑)。流行語を入れて、テレ朝もウケを狙いにきたなと。
 
O   でも「患者ファースト」とは言いつつも、財前は自分のことしか考えてないわけだよね。昨日チラッと見た第4話に、花森ケイ子のセリフで「里見先生は患者さんのために病気を治すお医者さん、財前先生は自分のために病気を治すお医者さん」といったセリフがあって、前回にはなかったうまいセリフだと思った。
 
T   あとこれは完全に小ネタなんだけど、第3話で里見が財前を探しに行くシーンがあって、松山ケンイチの里見が「財前は?」と言ったところでCMに入るんだけど、その一発目が前回の里見だった江口洋介のビールのCM(笑)。あまりにもうまくできすぎてて、狙ってるんじゃないかと思った。
 
O   第3話は録画してまだ見てないけど、CMも注意して見るようにしないと。主演俳優が出てるCMを入れるケースとかはよくあるよね。今回も財前先生が「ギガ放題」とか言ったりしてる(笑)。
 
T   岡田准一だとファンもたくさんいるだろうから、その効果を狙ってのことだろうね。
 
To Be Continued...
O   本を読んだのはだいぶ前なので、内容的には忘れてることが多かったんだけど、今回ドラマで見て改めて思い出すこともあったな。奥さんがアル中になっちゃうのとか。
 
T   エミーの演技はうまいと思ったな。アル中でアメリカかぶれな感じが。酒飲んで絡むところとか、うざいなって思わせる演技が良かった。
 
O   仲里依紗ね。たしかに彼女はうまいね。もうエミーとしてしか見えなかったからね。
 
T   東京裁判を割愛した分、家族のシーンにはウエイトが置かれていたね。
 
O   たしかに、家族のシーンは十分すぎるくらい出てきた(笑)。
 
T   あとは梛子とのシーンとかも。賢治と梛子、小栗旬と多部未華子のキスシーンが濃厚すぎるってネットで話題になってたよ(笑)。
 
O   多部未華子もいい女優さんだね。山崎作品だと『不毛地帯』で壹岐さんの娘役をやってたけど、あのときはまだ幼い感じがして、後に結婚してお母さんになる役だったけど、お母さんというよりは娘さんという印象だった。それが年を重ねて、大人の女性としてまた良くなったんじゃないかな。
 
T   でも改めて考えると、家庭は崩壊しちゃうし、最後には主人公は自殺しちゃうし、すごく暗い話だよね。初見の人は何が面白いんだと思うかもしれない(笑)。
 
O   山崎先生の作品って主人公が自殺しちゃうとかあまりないような気がしたけど、思い返してみたら意外とあるか。『華麗なる一族』とか『女の勲章』とか。ネタバレしまくってるけど(笑)。
 
T   でも『二つの祖国』のモデルになった人は実際は自殺したりしてないから、そこは完全に山崎先生の創作だね。
 
O   主人公が死ぬのは前半の作品には多いかもしれない。『白い巨塔』の財前も、あれは病死だけど、死んじゃうでしょ。後半の作品になると主人公が死ぬ展開はなくなってくるかな。『不毛地帯』とか『沈まぬ太陽』とか『運命の人』とかは別に死にもせず…。死にもせずって言い方はないか(笑)。
 
T   死なないことが悪いみたいな言い方だな。今日は失言が多いな(笑)。あと、俳優だとチャーリーをムロツヨシがやってるのが気になったかな。いつも三枚目の役のムロツヨシが珍しくシリアスな役をやってた。
 
O   僕はムロツヨシ自身をよく知らないから、とくに違和感なく見れたけどな。
 
T   お笑い役のイメージが強かったから、表情を消して演技してるのに最初は違和感があったな。だんだん慣れてきたけど。
 
O   そんな、俳優さんを評価できる立場にないですから。皆さん演技が素晴らしいですよ(笑)。
 
T   なんだよ、その取ってつけたような軽い言い方は(笑)。それと、小栗旬はもともと好きな俳優だけど、味が出てると思ったな。
 
O   僕にとっては逆に小栗旬は小栗旬としての印象が強くて、天羽賢治というよりも小栗旬として見えちゃってたな。
 
T   天羽賢治の持つある種の高潔さみたいなものはよく演じられてたと思うよ。
 
O   山崎先生の作品はやっぱり主人公が強いですね。天羽賢治からも仕事や生き方に対する責任感とか、そういった強いものを感じるし、小栗さんの演技からもそれを感じ取れましたよ(笑)。
 
T   無理やり評価しようとしてないか(笑)?あと松重豊も良かったな。苦労してきた日系一世の雰囲気がすごく出てて、個人的には一番良かったかな。
 
O   やっぱり味のある俳優さんはいいね。
 
T   誰とも話したくないからって、死体と向き合う仕事をするところとか。
 
O   アモウランドリーを経営しながらね。そういや天羽って名字は読みにくいよね。初見ではまず読めない。小説にはふりがなが振られてたからわかったけど。そうじゃなければ「テンワ」とか読むのかと思ってたな。
 
T   アメリカ人的には発音しやすい名前だと思うけどね。
 
O   もしかしたら山崎先生もそんな理由でこの名前にしたのかもしれないね。タナカとかにしちゃうといかにも日本人っぽい感じがしちゃうから(笑)。
 
T   名前で言ったら梛子って名前も珍しいよね。これも読めない。あとはアメリカ人役が面白いキャストだった。セイン・カミュに厚切りジェイソンに、ダニエル・カールも出てた。
 
O   セイン・カミュは久しぶりに見たけど、年取ったね。でも見てすぐにわかったよ。厚切りジェイソンも出てたね。セリフに「ホワイ、ジャパニーズピーポー!」とか入れてほしかった(笑)。
 
T   でも厚切りジェイソンって、IT企業の役員とかなんだよね。だからか、軍服着ててそれなりに雰囲気が出てた。
 
O   やっぱり日本で成功する人ってそれなりに頭良くないとできないよね。
 
T   パックンとかもそうだね。
 
O   ああ、パックンも出てたね。
 
T   いや、パックンは出てないよ。
 
O   あれ?出てなかったか。勝手な想像だった(笑)。そのあたりの外国人タレントはみんな出てた気がしちゃうな。
 
T   でもたしかにそのへんで固めてきたって感じはわかるよ。そういった意味でもキャストは豪華だったよね。
 
O   外タレと洋楽をとにかく突っ込んでみましたって感じだったな(笑)。
 
T   そして改めて思うのが、テレビの開局何周年記念のスペシャルドラマには山崎豊子作品が合うね。
 
O   我々が敬愛するだけありますね。
 
T   テレ東もお金かけて力入れて作ったと思うし、良い作品に仕上がってた。
 
O   池の水抜いてる場合じゃないと(笑)。
 
T   (笑)。そうだね、池の水を抜くばかりがテレ東じゃないよと。
 
O   池の水抜いた分、人の心は満たしますね。
 
T   最後うまいこと言って終わらせたな。
 
The End.
O   これまで悪口しか言ってませんでしたが、東京裁判のところとかすごく良かったと思うよ。小説を読んでるだけだと画が浮かびにくかったけど、それを映像で見せてもらえたのは良かった。
 
T   東京裁判のシーンは、市ヶ谷の防衛省の施設を使って撮影したらしいからね。
 
O   あ、そうなんだ。やっぱりこだわって作ってるんだね。さすがスタッフの皆さん、丁寧な仕事をされてますね(笑)。
 
T   あれ?さっきと言ってることが違うようですが(笑)。
 
O   最初に落としてしまった分、ここからは上がることしかないから。
 
T   たしかに東京裁判のシーンは雰囲気がすごく出てたな。
 
O   通訳の日本語の微妙なニュアンスを訂正していくんだよね。「そこまでは言っていません」とか。
 
T   少し間違えただけでそれが被告人の量刑にかかわってくるから、一言一句間違いのないように訳さなきゃならないし、一瞬も気が抜けないね。
 
O   何でもそうだけど、言葉ってかなり大事だね。余計な一言がつくかつかないかだけで印象が全然違ったりもするし、前提が覆っちゃうこともあり得るからね。
 
T   実際、東京裁判でもそういう場面はあったらしいね。東條英機が天皇に戦争責任があるように受け取れる発言をしちゃって、天皇に戦争責任を負わせたいロシアがその発言に食いついたんだけど、後からあの発言はまずかったと訂正したことがあったらしい。
 
O   東條英機といえば、ドラマではビートたけしが東條英機をやってたのはすごく気になった。
 
T   それもだけど、大川周明を鶴瓶がやってたのは完全にネタだと思った(笑)。たしかに大川周明が東條英機の頭を叩いたのは歴史的事実としてあるけど。
 
O   あ、あの場面は事実としてあったんだね、知らなかった。だからビートたけしの頭を叩ける人ということで、鶴瓶がキャスティングされたのかな。
 
T   そうそう、そういうことだと思うよ。発言もたしか一言ぐらいしかなかったはずだし、叩かせるというネタだね。
 
O   そしてビートたけしはハゲで戦犯という役柄が、どうしても『戦場のメリークリスマス』を連想しちゃうんだよね。初めて見たときのデジャヴ感がすごかった(笑)。
 
T   ああ、たしかにね。曲にもデヴィッド・ボウイが使われてたし。
 
O   そういえば、いろいろとリンクしてるね。
 
T   せっかくなんで、モノマネをやってもらいましょうか。
 
O   メリークリスマス、ミスターローレンス(笑)!
 
T   活字にするとまったくわからない(笑)。
 
O   『戦場のメリークリスマス』はあのエンディングが良かったからね。あの映画のことを思い出そうとすると、ほぼあのシーンしか出てこない。
 
T   ビートたけしは存在が大きすぎて、全部持ってっちゃうからね(笑)。今回も東京裁判はそこまでの主題ではなかったと思うけど。とくに小説版は東京裁判の流れを史実に基づいて詳細に書いていたと思うけど、ドラマは時間の関係もあって、裁判の内容にはあまり触れられてなかったね。
 
O   たしかに小説で一番印象深かったのも東京裁判のところだな。広島の原爆のことも描かれてるし、あの当時の戦争全般に触れてる作品ではあるんだけど、この中でも東京裁判の部分に力が入ってるって感じるな。
 
T   山崎豊子ならではの作品だね。フィクションの中にノンフィクション、史実を入れていくという。『沈まぬ太陽』のときの御巣鷹山編とかもそうで、モデルになったJALの方は御巣鷹山には携わってないんだけど、あえて携わったことにして実際の御巣鷹山事件のことを小説に書いた。
 
O   『運命の人』も沖縄のことを書きたかったから、そこにつなげるために西山事件を引っ張ってきて小説にしたって何かで読んだことがある。書きたい主題が何かあって、それにまつわる事件とかを集めてきて小説に構成する、そんな作り方をされてたんだね。ドラマに話を戻すと、東京裁判では他にリリー・フランキーが広田弘毅をやっていた。
 
T   けっこう良い感じの雰囲気を出してたよね。広田弘毅も小説版ではもっと詳しく取り上げられてた。
 
O   広田弘毅というと、城山三郎の『落日燃ゆ』の印象が強い。
 
T   あれは広田弘毅を主人公にした小説だからね。
 
O   『落日燃ゆ』は実は小説では読んでなくて、昔テレビドラマで見ただけなんだけど、それで唯一の文民で死刑になったこととか、本当は戦争責任はないんだけど、受け入れて死刑になった理不尽さとかを知ったな。そしてそれに翻弄される家族とか。今回のドラマでも家族のショットは出てきたね。
 
T   最低限、そこは入れてあったね。広田弘毅は極刑はないからと、天羽賢治が通訳を代わってもらったんだよね。たしか東條英機と。
 
O   東條英機は確実にデス・バイ・ハンギングだからね。
 
T   もともと広田弘毅の係りの人は、広田弘毅と同郷だから代わってほしいと言ってたんだよね。そして代わったら広田弘毅もまさかのデス・バイ・ハンギング。天羽賢治もショックを受けてたよね。勝者によって初めから裁判結果が作られた裁判だと。でも、ドラマでは東京裁判の詳細は触れられてなかったから、予備知識なしに見た人は、何で広田弘毅の罪状に天羽賢治がショックを受けたかはわからないかもしれないね。
 
O   たしかに自分も広田弘毅のバックにあるものを知った状態で見てたから違和感はとくになかったけど、初見の人にはあのハイライトっぽいワンシーンでは伝わらないかもしれない。
 
T   だからしょうがないとはいえ、不親切といえば不親切なのかな。
 
To Be Continued...