早いもので3月に入った。
妻の詰子が手帳を見ながら悩んでいる。

「あのさ~オツくん明日の予定に『24』って書いてあるんだけど、何のことだか思い出せないんだよね」
「ハハハハ」
「『24』っていう数字を見れば思い出せると思って書いたと思うんだけど…」
「まぁ、よくある話だな」

当日。
夕暮れが家の壁を薄紫に染める頃、詰子はぽつりとつぶやいた。

「オツトくん、『24』が思い出せないまま今日が終わったけど、結局、何事もなかったわ」
「ハハハハ」
「何だったんだろう?」
「俺も仕事の進捗を忘れるから、何をいつやったか、どうしてそれをやったか、をメモってる。しかもかなり細かく。でも後になって読み返しても、何が書いてあるか分からんもん。いつも『結局どういうことなんだ?』ってなる」
「ハハハハ」
「そんなものだよ」
「ハハハハ」
 

あとがき

メモるときは、あとから絶対に思い出せるようにやたらと熱量を込めて書きますが、全く思い出せないというか、なぜそれが大事だと思っていたのかが分かりません。
くどくど書いた割に、全く意味をなさず、未来の自分には全然伝わらないのです。
書いているときは、「超、大事」と思ってるはずなんだけど、読み返すときは大事でなくて、別の情報が知りたいのです。
厄介すぎますね。

結局、詰子の予定に何も問題はなく、その24というメモが何を意味していたのかいまだに謎です。 

文字という文明の利器を使っても、自分の記憶力には太刀打ちできない、乗り越えることができません。
はぁ~、メモが語ってくれたならなぁ~。
人生100年時代、まだ先は長いのに、老後が思いやられます。

 

妻の詰子が仕事から帰ってきた。
話しかけてくる。

「オツトくん、今日、日経平均がすごい上がってるよ」
「マジで!?」
「うん、でも、私の持ってる株だけ上がらんもん」
「ハハハハ」
 

あとがき

2/26、日経平均が史上初の5万9000円を突破しました。
ちょっと過熱気味ですかね。
まぁ良しとしましょう。

僕たちは老後のために株式投資をしています。
第二の人生において仕事とお金の問題は永遠のテーマですからね。
でも、老後資金をいくら貯めればいいのか、いつから切り崩すか、悩ましく答えが出ません。
難しいですが、夫婦で話し続けること自体が価値になると思っています。

それにしても、株って不思議なことが多いですよね。
自分の持っている株だけが上がらないとか、自分が買うと下がり売ると上がるとか。
たとえ今、詰子の株が上がってなくても回り回って利益になると思っています。

 

印鑑証明をもらうために、妻の詰子と二人で役所に行く。
他の書類が入ったA4のクリアファイルに印鑑手帳を入れる。
しかし、役所の前に来たとき、そのクリアファイルに印鑑手帳がないことに気づいた。

「詰子ちゃん、印鑑手帳がないよ」
「ハハハハ。またか~。絶対にどこかにあるから探してごらんなさい」

詰子の言うとおり、ゆっくり落ち着いて探す。
しかし、カバンの中にも、ポケットの中にも、車の中にも、どこにもない。
確かにクリアファイルの中に入れたはずだが、詰子の言うとおり、最近物忘れや勘違いが多いので、自信がない。

仕方がないので、家に戻る。
リビング、書斎、玄関と探すが見つからない。
どうしたことか?
どこかに落としたとしか考えられない。

もう一度、車に戻るため、マンションの駐車場に向かう。
その途中で駐車場に印鑑証明が落ちているのを見つけた。
役所へ出かけるときに落としたのだ。

詰子に報告する。

「詰子ちゃん、駐車場に落ちてたよ」
「駐車場のどこに落ちてたの?」
「自転車置き場の前あたり、地面に落ちてた」
「ハハハハ。よかったね、飛んでいかなくて」
「お~、危なかった~。無くなってたら超面倒くさくなるところだったわ」
「ハハハハ。もうちょっと大切に扱って~」
「ぴょ~」
 

あとがき

運が良かったです。
奇跡的に拾うことができました。
見つからなければ面倒くさいことになっていました。

もうホントにボケボケ。
物を落としても気づかない体になってました。
そのうち、財布とかスマホとか落としそうで怖いです。
詰子の言うとおり、気をつけないといけないな。

その後、いろいろ調べてみたら、マイナンバーカードがあればコンビニで印鑑証明書が取得できるらしい。
知らんかったわ ~。
 

 

妻の詰子がテレビを見てひとりごとを言っている。
「これ、食べた~い」

独り言にしては、ずいぶんと力強い。
僕は思わず顔を向けた。

「詰子ちゃん、何の番組?」
「ポルチーニ」
「ぽるちいに? ポルチーニってどうやつ?」
「ハハハハ」
「なんで大笑い?」
「ハハハハ」

嫌な予感がしてきた。
「あのさ詰子ちゃん、もしかして、『お前、食べたことあるがや』ってこと?」
「ハハハハ」

ツボのようだ。
詰子が言う。
「だって『ポルチーニってどうやつ?』って300 回くらい聞いてるよ。ハハハハ」

マジか!?
 

あとがき

全く記憶にありません。
300回も聞いてないと思うけどな。
ポルチーニ…やっぱり、はじめて聞く単語だな。

物忘れがひどくなるばかりで、もうあきらめています。
横文字は特に苦手。
関係ないけど、最近は若い女の子もみんな同じ顔に見えて区別ができない。
はぁ~、嫌になりますわ。

さて、ポルチーニはキノコの名前で、「イタリアの松茸」とも呼ばれているそう。
世界三大キノコの一つだそうで、そんなに有名とは知りませんでした。
日本名はヤマドリタケ(山鳥茸)です。

もっと勉強しないとな。

 

 

今日は二年に一度の大腸カメラ検査の日だ。
前日から下剤を飲んでおり、なんとも腹の調子が悪い。
これから病院に行き、さらに2リットルの下剤を飲む。
これが結構辛い。
ポリープが発見されて切除の場合1泊入院し、何もなければ日帰りだ。

妻の詰子が聞いてくる。

「オツトくん、帰れるかどうか、いつわかるの」 
「ん~、たぶん昼過ぎかな」 
「ふ~ん。じゃあ、頑張ってね」 
「うん、頑張るわ~。頑張るって言っても、まぁ、寝てるだけだけど…」 
「ハハハハ」 
 

あとがき

おかげさまで、結果は良好、異常なしでした。
よかった。
10年ほど前にポリープが見つかって、それ以来二年に一度、検査をしています。

今回は麻酔(鎮静剤)を使いました。
ホントに寝てる間に痛みもなく終わります。 
すごい楽です。

いつも検査前に2リットル飲む下剤も進化していました。
120ml下剤を10分かけて飲んで、次の10分で水を250ml以上を飲む。
これを4回繰り返します。
480mlの下剤を40分で飲むことになります。

以前の下剤は2時間くらいかけて2リットル飲んだ記憶。
それに比べると、こちらもすごい楽。

それでも家に帰ってくるとぐったりです。
寝てただけなのにな。
ゆっくり休むことにします。