母は昨年末に脳梗塞を患った.
あのときは覚悟を決めたが、今では奇跡的に復活した。
たまにボケたことを言うが、それが病の後遺症なのか、ただの老化なのかは定かでない。

そんな母から電話がかかってきた。
「ドコモからメールが来たんだけど読んでも意味が分からんから一度来てほしいんだわ」
「わかった。たぶん営業メールだからそのままにしておいて」
それだけを伝えて、電話を切った。

3日後に実家に行ってみる。
「ただいま〜」
「あら? 何しに来たの?」
母は首をかしげる。

「メールを見に来たんですけど……」
そう言うと、母は少し斜め上を見つめ、考えるように間を置いた。 
そして、ゆっくりとした調子で言う。。
「何のメール?」
「ーーーー」
 

あとがき

母は、とりあえず元気です。
母は昔からボケたことを言う人、つまり天然なので、今回の出来事も山田家では通常運転です。

脳梗塞になる前にも似たようなことがありました。
妹の誕生日の日、母と妹が電話で話を終えようとしたとき、妹が「今日、誕生日なの」と伝えたところ、母は間髪入れずに「誰の〜?」と答えたのです。

すごいでしょ?
強いでしょ?
僕の母はそういう人です。

そして妻の詰子に言わせると、僕と母はそっくりなんだそうです。
全然、似てないと思うけど……。

脳梗塞を患ったわりに、まだ身体は元気なので、このまま普通に日常生活を送ってほしいです。

 

 

妻の詰子が、背中が痛いと言う。
筋を違えたようだ。
ここ最近、このような不調が続いていて辛そうだ。
きっと運動不足か食事が偏っているか、生活の歪みが積み重なっているように思えた。

そんな詰子は、今日、月に一度の診察日で血液検査を受ける。
病院の駐車場で待っていると、詰子が診察を終えて戻ってきた。

「詰子ちゃん、検査はどうだった?」
「安定してるって。肝臓も中性脂肪も大丈夫」
「良かったじゃん」

車を走らせて家に向かう途中。
赤信号で止まったとき、ふと横を見ると、詰子が眉をひそめていた。

「詰子ちゃん、どうしたの?」
「オツトくんがブレーキを踏むと背中が痛いだわ」
「ハハハハ」
 

あとがき

血液検査の結果は良かったのですが、背中がダメでした。
世の中、難しいですね。
ひとつ良くなると、ひとつ悪くなる。
健康も仕事も人間関係も、どれも全てが思い通りになることはありませんね。
わかっているけど求めてしまう……悲しい性です。

さて、いつも診察後、美味しいランチを食べに行きます。
今回は詰子が背中が痛いと言うので、手っ取り早く食べられるマクドナルドに行きました。
ビッグマックって美味いな。

詰子ちゃん、背中が治ったら別の美味しいランチに行こうね。

 

2泊3日の南紀白浜の旅も、最終日の朝を迎えた。
妻の詰子と朝食会場に足を運ぶと、部屋のカードキーがないことに気づいた。
僕には昔から、手に持ったものをどこかへやってしまう悪癖がある。

「あれっ、カギがない」
慌てる僕に、詰子は落ち着いた声で言う。
「おいオツト、よく探してごらんなさい」
ポケットを探ると、すぐに硬い感触が指先に触れた。
「あったわ」
詰子は呆れ顔で笑う。
「ハハハハ。あのさ〜、オツトくん、毎回言ってるよ」
「あっ、そう?」
「ないんじゃなくて、あるに決まってるの。今までになかったことがないの。いちいち騒ぐのはやめて」

いつものやり取りで朝は始まったが、詰子がいてくれるから僕は安心して慌てられるというものだ。

チェックアウトして帰路につく。
途中、道の駅に立ち寄る。
みかんや柿、産地の野菜などが所狭しと並び、秋の色彩が目に鮮やかだ。
しかし、何かがおかしい。

「あれっ、スマホがない。クルマの中かな?」
「またか」
詰子の声は冷ややかだ。
ポケットを探る。
「あったわ」
「おいオツト、いい加減にしろよ」
 

あとがき

詰子の言うとおり、見つからなかったことはありません。
でも、そのときは本当に無いと思ってプチパニックになっているのです。
出川哲朗のように「ヤバイよヤバイよ」となっているのです。
詰子は絶対にあるから落ち着けと言いたいようですが、反射的にそうなってしまうのです。

さて、おかげさまで、無事に帰ってきました。
帰りは京奈和自動車道を使ったのですが、この道路、橿原高田ー橿原北が繋がってない。
15時頃とあって、渋滞にはまりノロノロ運転。
先に言ってくれよ~、という気分です。

でも、京奈和道で帰ってきたおかげで、途中に寄った道の駅「青洲の里」で直産の果物を買うことができて、詰子は大喜び。
和歌山は柿とみかんですね。

詰子ちゃん、また行こうね。


みかん





ホテルから見える美しい夕日
 

 

マリオット南紀白浜。
朝食は、旅の楽しみのひとつ。
特にこのホテルの焼きたてクロワッサンは、僕の中で殿堂入りしている。

けれど、僕は朝が苦手で、いつもギリギリまで布団にしがみついている。
妻の詰子はというと、朝食会場に一番乗りしたいタイプで、僕の寝起きの悪さに呆れながらも、毎回律儀に待ってくれる。
そんな僕が、今日は珍しく先に目を覚ました。
隣を見ると、詰子はまだ寝ている。

「詰子ちゃん、8:30を過ぎたよ」
「うん」
詰子がまだ眠たそうに、ゆっくりと体を起こす。

「目覚まし鳴った?」
「鳴ったよ。8:00と8:30に」
「ふっ……」

鼻で笑うその仕草に、"たまに早く起きたくらいで調子に乗るなよ" という言葉が透けて見える。
その笑い方が、ちょっと意地悪そうなのだが、詰子らしくて僕は好きだ。

朝食会場では、期待通りのクロワッサンが僕らを待っていた。
外はサクサク、中はフワフワでしっとりの食感がたまらない。
詰子も僕も、朝から幸せを噛みしめた。

部屋に戻ると、部屋のノブに清掃中の札がかかっている。

「詰子ちゃん、もう清掃が来てるよ」
「マジで?」
「どうする? 荷物も散らかってるし、スーツケースも開けっ放しだぞ」

そこへ、清掃員が近づいてきた。

「タオル交換だけなので、すぐに終わります」
清掃員は素早く作業を終えて帰っていった。

「前にもこんなことがあったな」
「朝ごはんから戻ってきたら掃除が終わってたこと」
「あったね。あれはあれで助かるんだけどね」
 

あとがき

見られたくないものを見られた気分で恥ずかしい思いでした。
朝食時に清掃が入るなら、そう言ってほしかったな。
まぁ、朝食が美味しかったのでOKということで。

詰子が寝坊とは珍しいことです。
いつもは僕が怒られるパターンなのに、今回は逆でした。
聞けば、あまり眠れなかったらしいです。

この日は調子に乗って食べすぎました。
昼はラウンジで、手毬寿司と熊野牛のポロネーゼ。
もちろん、どちらも美味い。

そして夜もパンパンになるまで食べて飲んで、結局、最後に胃薬です。
はぁ〜、また、やっちゃったな
でも、それもまた詰子と一緒に来た旅の思い出になります。


朝食の詰子のデザート

 


手毬寿司

 


熊野牛のボロネーゼ

 


カクテルタイムにビールを飲みながら

写真を見直すと、クロワッサンの写真がひとつもない……。
 

 

南紀白浜に行く。
ゴールデンウィーク以来、半年ぶりの再訪だ。

名阪国道を走り、針テラスでひと休みする。
肉まんを買って腹ごしらえをすることにした。
妻の詰子が飲み物を買いに行ったのだが、どういう訳か手ぶらで帰ってきた。

「詰子ちゃん、どうしたの?」
僕が尋ねると、彼女は少しむくれた顔で言った。
「ほうじ茶が欲しかったんだけど、温かいのしかないもん」
「温かいのでいいでしょう?」
「ダメだよ」
「どうして?」
「だって、グビグビ行きたいもん」
「グビグビ!?」

詰子の言葉は時々、僕の理解を軽々と飛び越えていく。

南紀白浜までは車で約5時間。
長い道のりだったが、無事に到着した。
さすがに疲れる。
部屋に荷物を置いたあと、ラウンジでひと息つく。
詰子が氷をたっぷり入れたグラスに炭酸水を注ぎ、音を立てて飲み始めた。

「詰子ちゃん、うまい?」
「うん、ほぼビール」
「ビール!? どういうこと?」
「グビグビ行けるからね」
「グビグビ!? ちょっと何言ってるかわかんないだけど……」
「なんでわからん?」
「ハハハハ」
 

あとがき

南紀白浜に来るのは半年ぶり。
今回も南紀白浜マリオットホテルに宿泊しました。

 


 

今年(2025)の6月に、アドベンチャーワールドのパンダが中国に返還されて話題になってましたね。
南紀白浜に来てもアドベンチャーワールドには一回も行ったことがなく、結局パンダもお目にかかれませんでした。

さて、詰子は飲み物を飲むとき、グビグビ行きたいみたいです。
冷たい飲み物が喉を通る瞬間がたまらないんだとか。

僕は胃腸が弱く、炭酸飲料や冷たいものをたくさん飲むとお腹を壊します。
なので、冷たい飲み物をグビグビ飲む詰子を見ると、ちょっと羨ましい気分になります。

今回の旅も特に予定はないので、ダラダラと過ごすつもりです。

 

冷たいほうじ茶がなかった、針テラス