大阪マリオット都ホテルにやってきた。
はじめての場所はワクワクする。
あべのハルカスの上層階にあるホテルで、それだけで非日常感が強い。

夜、ラウンジの灯りが柔らかく揺れていた。
カクテルタイムのざわめきの中、妻の詰子がスモークサーモンをつまんで言う。

「スークサーモン、美味い」
その満足げな声に、思わず笑ってしまう。

「あ、そう。よかったね」
「これ、昼間、ここに来てパニーニ食べたときも思ったんだよね」
「パニーニ?」
「昼間、パニーニ食べたでしょ?」
「パニーニって何だっけ?」
「昼間にスモークサーモンが挟んであるパンを食べたでしょ。あれ」
「ハハハハ」

詰子は呆れたように笑い、僕もつられて笑った。
横文字はどうも苦手である。
 

あとがき


パニーニ。具材をパンで挟み、専用のプレス機で両面をこんがりと焼いたイタリアの温かいサンドイッチ。

僕は横文字に弱いです。
というか何でも横文字にすればウケる、流行るという雰囲気はどうかと思う。
が、外資系のホテルなのでそれがあたりまえなのかもしれませんね。

どれを食べても美味しいのはさすがなのですが、それにしてもはじめて聞く横文字が多い。
例えば、鶏肉とクスクスのなんとかかんとか。
メモるのを忘れました。

 


鶏肉とクスクスのなんとかかんとか

クスクスを知らないので詰子に聞くと「スーパーフードみたいなやつ」と答えが返ってきました。
すうぱあうふど?
ここでもわけの分からない横文字に出くわしました。

クスクスは小麦を水で練って粒状にして乾燥させたもので、パスタの一種だそうです。
食物繊維とビタミンB群が豊富で美肌効果が期待できるため「スーパーフード」として注目されているんだそうな。
詰子ちゃん、よく知ってるな。

次にイヴォワール。



イヴォワール

詰子も知らないらしく食べてみると…。
ただのホワイトチョコレート。
AIに聞いてみると「高い作業性を誇る、プロ向けの上掛け用ホワイトチョコレート」と返ってきました。
僕たちが無知なだけでした。
とほほ。

それにしても、美味いおつまみを食べながらのビールは最高に美味いな。

 

おつまみいろいろ

蟹ごはんも美味かった。

 


蟹ごはん


横文字じゃないとすぐに覚えられるから不思議です。


ラウンジ

 


部屋からの眺望

 

 

 

 

リビングの扉を開けた瞬間、ふわりと香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
炒め物の匂いだ。
油が跳ね、肉が焼け、タレが焦げるあの幸福な香りだ。
妻の詰子に聞く。

「詰子ちゃん、何食べたの?」
「ハハハハ。あのさ~、私が何を食べたか聞くのやめてくれる?」
「なんで?」

問い返すと、詰子はまた笑う。
その笑い方は、何かを隠しているとき特有のものだ。

視線を台所に向けると、まな板の端にキムチのパックが置かれている。
赤い汁が少しこぼれ、まるで「ここに答えがあるよ」と主張しているようだった。

勘が働く。

「豚キムチ?」

詰子が考えながら答える。

「う~ん、違う。牛キムチ」
「ぎゅ~きむち?」
「ハハハハ。そう、ぎゅ~ 」

牛とは意外だった。
豚キムチは定番だが、牛キムチは聞いたことがない。

「美味かった?」
「うん、美味い。豚より格段に美味いよ」
「なるほど。牛は豚を軽く超えてくるね」
「超えてくるんだよな~、ハハハハ」

詰子は満足げに笑って、超ご機嫌である。
 

あとがき

詰子も僕の常識を軽く超えてきます。
牛キムチとは思いもよりませんでした。

やっぱり牛は美味いですね。
ステーキ、しゃぶしゃぶ、焼肉…どれも幸福感を連れてきます。

もちろん、豚も鶏も美味いですよ。
トンカツ、豚丼、焼き鳥、鶏の唐揚げ…どれも魅力的です。

でも、やっぱり牛は豚や鶏にない何かがありますね。
詰子曰く、牛を食べると脳から幸せホルモンが分泌されるのが分かるらしいです。

まぁ、それで幸福感が倍増されるなら、それはそれで素晴らしいことだと思います。


 

 

 

リビングに足を踏み入れた瞬間、空気がピリッと張りつめた。
ソファの上では、妻の詰子がスマホを片手に、何かと闘っている最中だった。

「めんどくさいな〜。字が見えんがや〜」

小さく唸りながら、役所から届いた案内状を睨みつけている。
どうやらマイナンバーの更新手続きらしい。
その表情は、まるで見えない敵と一騎打ちしている武将のようだ。

近寄るな、声をかけるな。
そんなオーラが、部屋の温度を数度下げていた。

しかし、どうしても渡さなければならない書類がある。
このまま引き返すわけにもいかない。
僕は深呼吸をひとつして、覚悟を決めた。

「詰子ちゃん、これ」

そっと差し出すと、詰子は視線をスマホから外さないまま、無言で受け取った。

「詰子ちゃん、闘ってる途中?」
「闘ってる途中」
「ハハハハ」

返事は短いが、会話が成立しただけで奇跡だ。

しばらくして、詰子がスマホを置いた。
肩が少し落ちている。
どうやら終わったらしい。

「これでいいのかな?」
「詰子ちゃん、できた?」
「たぶん」
「よかったね」
「これ、年寄りできるんか? めんどくさいな〜」
「ハハハハ、そんなに怒らないで〜」

詰子の眉間には、まだ戦いの余韻が残っていた。
 

あとがき

こういうときは、触れてはいけません。
あえて地雷を踏みに行く必要はありませんからね。

なんでもスマホひとつでできて便利なのですが、その機能や仕様に戸惑うことが多いです。
アプリの機能、ボタンの位置、 ログイン方法など、覚えてもすぐに変更されてしまいます。
企業の都合で改悪される場合が多いですね。
その変化についていくほど暇ではない。
若者はそれが当たり前で、億劫に感じないのですかね。

さて、今回はマイナンバーですが、役所関係も適当というか、中途半端というか、そんな気がします。
まぁ、いろいろやって苦情を言われるくらいなら、最初からやらないほうがマシということもあるのでしょう。
民間ならそんなことを言ってられないんですけどね。
そうことも理解できないのだと思います。
もちろん、政治家もダメ。

詰子の怒り→オツトの愚痴→役人と政治家のダメさ加減…。
ん~、いい感じで纏まりましたね。

 

実家に帰る。
母は1年前に脳梗塞を患い、それ以来記憶がおぼつかない。
様子を見るために定期的に帰ることにしている。

「ただいま〜。調子はどう?」
「変わりないわ。」
「それは良かった。」

困っていることがないか母に確かめると、電波時計を指して言う。

「この時計、たまに勝手にくるくる回るんだわ」
「あぁ〜、それでいいんだよ。電波時計だから」
「ほぅ」
「勝手に時計を合わせてくれる、そういう時計なの」
「ふ〜ん」

母は納得したようなしないような、曖昧な表情を浮かべた。
理解できないのか、忘れてしまったのか。
その事実だけを受け止めるしかなかった。

あとがき

母はボケたことをいうので、ただの老化なのか、認知症なのか、脳梗塞の影響なのか判断できません。
そもそも電波時計とは何かを理解できてないのかもしれないな。

まぁ、今より症状が良くなることはないだろうと覚悟しています。
なるべく健康的に過ごしてほしいと思っているが、歳だから仕方ないかもしれません。
それにしても、いつか行く道だからな。

世の中は衆議院が解散して総選挙。
選挙になると突然出てくる消費税減税。
ん~、うさんくさいな。
選挙後には医療費や社会保障がどうのこうので、しれっと増税路線のような気がします。
個人的には、いい加減、尊厳死について議論をしてほしいと思っています。

まぁ、どこもかしこも党利党略に明け暮れていますね。
嫌になるな。

琵琶湖マリオットホテルに来ている。
朝食会場には、色とりどりの料理が並び、まだ眠気の残る身体をやさしく刺激してくる。

ソーセージをひと口かじった瞬間だった。  
前歯に、鋭い痛みが突き刺さる。

「あぁっ、ダメだ」  
思わず声が漏れると、妻の詰子が顔を上げた。

「どうしたの?」  
「ソーセージをかじったら、歯が『グギッ』ていった」  
「ハハハハ」  

笑われるほど情けない痛みだったが、本人は必死だ。
実に辛い。

朝食後、部屋に戻って荷物をまとめ、昼過ぎにチェックアウトした。  
名古屋へ向かう帰路は、サービスエリアで休みながらのんびり進む。

土山SAでトイレ休憩を済ませ、空腹を覚えた僕らは御在所SAで食事をとることにした。  
詰子が四日市名物のトンテキを食べると言い出し、僕もつられて同じものを注文する。

運ばれてきた皿からは、香ばしい匂いが立ちのぼる。  
しかし、ひと口食べた瞬間、別の意味で衝撃が走った。

「うぅ~っ」  
「どうしたの?」  
「硬いわ~」  
「大丈夫?」  
「ハサミで切るわ~」

そう言って、僕はバッグの奥から“秘密兵器”を取り出した。  
普段は恥ずかしくて使わない介護用のハサミだ。  
だが今日ばかりは背に腹は代えられない。  
トンテキをサイコロ状に細かく切り分けていく。

そして、恐る恐る口に運んだ。

「食べれるわ。美味い」  
「良かったね」  
「うん。ハサミってスゴイな」  
「ハハハハ」

笑い声がテーブルの上に弾んだ旅の終わりである。

 

あとがき

羞恥心よりも実用性が勝ちました。
だって、しょ~がないじゃないか~。
噛めないんだもん。
ん~、噛めないのは辛いですね。

さて、無事に帰ってくることができました。
毎年、この時期の春先に琵琶湖マリオットホテルを利用します。
実は3月にも再び訪れる予定です。
しかも上旬と下旬に分けて、2回も。
このホテルは名古屋から近くて、温泉やプールがあり、快適なので気に入っています。

では、写真をアップします。

土山サービスエリアにて

 


オツトの朝ごはん

 


詰子の朝ごはん

 


とんてき定食。四日市のご当地グルメ。美味いが僕の歯には硬い。