大きい地震のあった日だったと思う。
娘が朝早く 我が家に来た。
娘一家と懇意のレストランで食事をして以来だから
ひと月ぶりくらいか。
玄関に入るなり
「それでお父さんの具合はどうなの?お母さん。」と
大きな声で言っているのが聞こえた。
居間で新聞を読んでいた私は
何をそんなに慌てているのか、と思いながらも新聞に目を落としたままでいた。
娘は私の姿を見つけるなり
「それで病院ではなんて?」と聞いてきた。
思い出した。私はケガをしたのだった。
一昨日か、その前の日だったか
朝ゴミを捨てようと外に出た時に数段の階段で転んだのだ。
頭を切ってしまったので、病院で縫ってもらった。
タクシーを呼んで行ったし、脳の検査も大丈夫だったから
心配することはない、と娘に説明した。
母さんも「たいしたことないから、大丈夫よ」と笑っていた。
私も「まだまだこんな事くらいで寝込むこともない。大丈夫だ。」と笑った。
娘はなぜか心配そうな顔をしたまま、私の頭の包帯を見ていた。
母さんがお昼食べて行ったら?と言ったが
娘は仕事があるので急いで戻らないとならない、と帰っていった。
この日、2011年3月11日、娘は帰宅できて良かった。
昼過ぎまでこちらにいたら帰れなくなっていただろう。
その後ひと月はこちらにも来られなかった。
食料や日用品を頻繁に送って来て
電話もしょっちゅうしてきていたが、
老夫婦ふたりの暮らしだから、買置きもあるし心配ないと答えていた。
実際、まったく問題なく生活していたし、私達は大丈夫だった。