いつからだろう(1)a | 小説 介護される日々

小説 介護される日々

介護される 介護する 寄り添う気持ちとともに。

大きい地震のあった日だったと思う。

娘が朝早く 我が家に来た。


娘一家と懇意のレストランで食事をして以来だから

ひと月ぶりくらいか。


玄関に入るなり

「それでお父さんの具合はどうなの?お母さん。」と

大きな声で言っているのが聞こえた。


居間で新聞を読んでいた私は

何をそんなに慌てているのか、と思いながらも新聞に目を落としたままでいた。


娘は私の姿を見つけるなり

「それで病院ではなんて?」と聞いてきた。


思い出した。私はケガをしたのだった。

一昨日か、その前の日だったか

朝ゴミを捨てようと外に出た時に数段の階段で転んだのだ。


頭を切ってしまったので、病院で縫ってもらった。

タクシーを呼んで行ったし、脳の検査も大丈夫だったから

心配することはない、と娘に説明した。


母さんも「たいしたことないから、大丈夫よ」と笑っていた。


私も「まだまだこんな事くらいで寝込むこともない。大丈夫だ。」と笑った。


娘はなぜか心配そうな顔をしたまま、私の頭の包帯を見ていた。


母さんがお昼食べて行ったら?と言ったが

娘は仕事があるので急いで戻らないとならない、と帰っていった。


この日、2011年3月11日、娘は帰宅できて良かった。

昼過ぎまでこちらにいたら帰れなくなっていただろう。


その後ひと月はこちらにも来られなかった。


食料や日用品を頻繁に送って来て

電話もしょっちゅうしてきていたが、

老夫婦ふたりの暮らしだから、買置きもあるし心配ないと答えていた。


実際、まったく問題なく生活していたし、私達は大丈夫だった。