【１３時４５分】
国道３号線を熊本市街地方面へと進んでいく赤い車。
意図して間に１台の無関係な車を挟んで、ひーと私は尾行を続けている。河野京子の運転は、相変わらず乱暴で前しか見ていない印象は変わらないのだが、今日はいつにも増して何か先を急いでいる様に感じていた。
「ねぇしゃちょう、なんだかすごくいそいでるみたいだね」
【１３時５５分】
隣に座る妖怪のレーダーにも同じように映った様だ。
「あ、しゃちょう、ひだりにまがるよ！ 」
「みたいだな… 」
河野京子の乗る車が左折のウィンカーを点滅させる。その少し先には、CMで名の知れたホームセンターが見えた。
「買い物か？ 」
このホームセンターも広い敷地の中にあり、スロープを上れば屋上にも駐車場がある。単純に買い物と見るか待ち合わせと捉えるべきか、判断に迷う場所だ。
河野京子は店舗の出入り口から、割合近い場所に車を停めた。私達も同じように敷地の中へと入り、少し離れた場所に車を停める。
「買い物みたいだな」
「うん」
「店に入ったら、何を買っているのか少し様子を見てきてくれ」
「わかったよ」
そんな会話をしながらも、彼女の動向を注視していた。経験上、不倫なんかの待ち合わせでは、後ろめたさからか広大な駐車場の隅に停めるケースが多くを占める。しかし、買い物ならば出来るだけ出入り口近くに停めたくなるのは当然だろう。
注視していた理由は、買い物ならば時間の制約は受けない筈だ。だからまだ、どちらとも判断出来ずにいた。しかも河野京子は車外へ出ず、未だ車の中にいる。
「どっちだ…どっちだ… 」
気持ちばかりが逸っている最中に、ゆっくりと赤い車が再び動き出した。
「やっぱり待ち合わせみたいだな」
直感的に行く先は「屋上」だと思っていた。
「多分…屋上…行くぞ」
「うん」
ハンディカムを握って撮影しながらひーに呟く。俄かに信じ難いのだが、このホームセンターを裏口から通りに出れば、ラブホテルがほんの数件だが点在している。しかし、私が今まで見てきた河野京子のイメージと郊外にある古いラブホテルはどうにも結びつきはしない。
【１４時０３分】
予想通り、河野京子が乗った赤い車はスロープを上って屋上駐車場へと移動を始める。
「いいかひー！出来れば誰かの車に乗る所をしっかり押さえろよ」
「なんだかこわいなぁ… 」
「大丈夫、頑張れ！ 」
問答無用でひーにハンディカムをを持たせて同じようにスロープを上がっていく私達。
「うっ！！ 」
「おっ！？ 」
屋上駐車場へ上がってすぐに、河野京子が乗る赤い車は目についたのだが、昼間だからか、他の車がほとんど停まっておらず、人は私達と河野京子以外誰も目につかない。
「うわっちゃ～やっちゃった… 」
残念な事に、目を凝らして見れば、彼女と待ち合わせしていただろう車も、ここからハッキリと見える。
先日、福岡の商業施設で見た「A」の関係者が乗っていた高級車とは違い、白いどこででも見かける国産の小型車だった。乗車している人物の顔を何とか確認したかったが、こちらからは河野京子の車がブラインドになり、よく分からない。
「ここからじゃよく見えないな… 」
そんな事を言っているうちに、ドアを開けた河野京子は素早くその車に乗り込んだ。
（続く）
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