「梅ちゃん! 」
狩野省吾先生が開いた瞼の底に見える眼光に思わずドキッとしてたじろいでしまう。しかし、次の瞬間には、いつもの温和な表情に戻り口角を上げて微笑んだ。
「まぁまぁ梅ちゃん。探偵さんが冷静さを欠いてはいけないよ… 」
「申し訳ありません。少し興奮してしまいました… 」
「話は分かった。色々、細かい所まで見てくれている様だね」
「いえ、たまたま分かった事実です」
「何より、君は君なり色々考えてくれているようだ。その思いには感謝するよ」
「いえ… 」
何故だか、駄々をこねる子供が窘められたような気がして少しだけ不貞腐れてしまった。そもそも先生は私に何かを期待してこの調査を託したのではないのか?しかし、いつも先生は私に何も教えてはくれない。
「私的には、それもひとつの方法論だとは思うのですが如何でしょうか? 」
何も言ってはくれない狩野先生に結論を尋ねる。毎回、何も聞かないままで終わってしまうのは不本意だからだ。
「そうだね… 」
狩野弁護士は背もたれにゆっくりと身を預け口を開いた。
「まず…梅ちゃんには大変申し訳無いが、その方法論を採用する訳にはいかないなぁ… 」
「…… 」
いきなり「不採用」を告げられたので少々ガッカリしてしまう。では、この案件をどう可決へ導くのか?後学の為にもここは何か持ち帰らなければならない。
「では先生、僕は今後何を目指して調査を行えば宜しいのでしょうか? 」
単刀直入に尋ねた。
「まずね梅ちゃん、僕は法律屋だ。弁護士という職務上、モラルを逸脱して交渉をする事は出来ない」
「いや、先生分かります。分かりますが、何も法律を逸脱して欲しいと言っている訳じゃないんです。あくまで… 」
「梅ちゃんの言う事は分かる。でもね、それはフェアじゃない。そんな江戸の仇を長崎で討つような真似は出来ないよ」
「…… 」
「クライアントである会社側が社員個人のプライバシーを侵害する訳にはいかないだろう?だから、あくまで僕は梅ちゃんが挙げてきた材料、特に本人の日常的な動きや、生活習慣を元に交渉するだけだよ… 」
私が想像していたような「隠し玉」が存在する訳では無かった様だ。そして先生はあくまでご自身の「武器」である「法律」を駆使して戦おうというのである。言い換えれば、法律というリングの中だけで正々堂々とやりあうという事なのだろう。
普段が「場外乱闘」に「凶器攻撃」みたいな常識に捕らわれない闘いしかしてこなかった私にとって、先生の弁護士としての姿勢には脱帽してしまう反面、あまりに潔良過ぎてしまい、少し引っ掛かるものも残っている。
「分かりました…では契約期間一杯、今のままの調査を続けろと先生は仰るんですね? 」
「うん、それで構わない。また何か分かったら教えて下さい」
あっさり自分の考えを却下されて、意気消沈しながら私は狩野弁護士の事務所を後にした。
(続く)
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