ここへ辿り着いて、たった10分程度しか経っていないのに、視界に入る介護職員の数だけでも10名を超えている。想像以上に大きな箱だと感じていた。
先入観の中では「仲川宏のツレ」というイメージがあるからか、ちょっと柄の悪い人間を探してしまうのだが、実際には男性職員のほとんどは体格的にも華奢で、そんな「昔は悪かった」みたいに見える男性は皆無の様にも見える。
「いるのかな…? 」
何をした訳ではないのだが、実際に施設へ出向いて確かめる事が怖くなっていく気がしていた。勿論、すぐにでも結論を出し、ダメならダメですぐに別の方法で追わないと木下幸代さんにも悪い。しかし目の前に突き付けられた彼女の「命の時間」を前にして、どうにも今回の調査に限っては変にナーバスになってしまっている自分がいる。
「いや、こんな所で時間を喰っている場合じゃないや… 」
そう、自分に言い聞かせ車を施設の駐車場に停めた私は、車を降りて歩き出した。いきなり対象者である洲本啓二が在籍していれば、何故自分を尋ねてきたのか聞いてくるのは明らかだ。そこで「拒絶」されてもそれはそれで仕方が無い…とは割り切れない自分がいる。
よしんばそうだったとしても、何とか説得し、洲本啓二を木下幸代さんに会わせたい。そんな欲求が強くなればなるほど私の心はビクビクしてしまう。
それは一方で、依頼を受けた私が仕事として、もう一方の洲本啓二の意向を全く無視した形でここまで辿り着いてしまった事も大きいだろう。今更ながら、私達の仕事は全ての関わった人達を満足させる事が難しいものだと思い知らされてしまう。
施設の門を潜った時、老婆が乗る車椅子を押した女性職員が私の方を不思議そうに見ている。せっかくだ、彼女に洲本の事を尋ねようと決めた。
「こんにちは」
「こんにちは… 」
初めて見る顔に違和感を感じているのだろう。一見にこやかだがどこか固い。
「すみません…ちょっとお尋ねしたいのですが… 」
「はい、何でしょう? 」
「こちらの職員の方でお尋ねしたいのですが… 」
「はい? 」
「あの…洲本啓二さんって職員さんは、こちらにお勤めですか? 」
自分の高まる心音が聞こえるようだった。何度やってもこの作業だけは緊張感から逃れられない。そう尋ねられた女性職員は車椅子のレバーを握ったまま、まなこを上に向けて考え込んでいた。その表情を見る限り、どう考えても知っている様には見えない。
背中の中を脂汗が流れていくのが分かる。調査は振出しに戻ってしまった事を覚悟した。
「あ、洲本主任の事ですか? 」
「え!? 」
彼女は意外な言葉を発した。
「はぁ…よくは分かりませんが、洲本啓二さんって仰る方です」
「あぁ、フルネームではあまり聞き慣れないから、私、最初誰の事を言っているのか分かりませんでした」
彼女はそう言ってぺろりと舌を出した。
(続く)
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