「その話は確かか? 」
仲川宏は私を覗き込む様に尋ねた。もっとも、これこそ私にしてみれば咄嗟についた「方便」だったのだから「違います」と言ってしまえば彼はきっと逆上するだろう。しかし、この時ついてしまった「方便」をそのままつき通した。
「勿論」
「…… 」
あっさりそう言い切った私の顔を見て、仲川宏の表情が少しだけホッとしたように見えた。
「お前も大したタマだな」
「え!? 」
「そうやって最初から誰がここを教えたか話すつもりはなかったんだろう。汚ねぇぞ、お前」
彼は苦笑いしながら言う。
「すみません。私はこの仕事を続けていく以上、この鉄則を崩す訳にはいかないんです。どうか勘弁して下さい… 」
「…フンッ! 」
煙草の煙を鼻から吐き出し、彼はニヤリと笑う。そんな時、ナツミさんが彼の肩口にそっと手を置いて語り掛ける様に言う。
「もういいんじゃない。他人が私達をどう思っていようと。私達は私達で頑張っていけばいいんだよ」
「…あぁ… 」
彼女も仲川宏と2人、長い間この事で苦しんできたんだろうと思えた。旦那の苦悩を一番傍で見てきて、ずっと言いたかった言葉だったのかも知れないとも。
「分かったよ…分かった」
「…… 」
「啓二の居場所だろう。教えてやるよ」
「本当ですか!? 」
「あぁ… 」
やっと核心に辿り着いた。待っていた言葉そのものだった。
「しかしな…実は俺ももう、1年くらいは連絡を取っていないんだ。それでもいいか? 」
「勿論です!お願いします!! 」
私がそう言うと、彼はナツミさんに紙とボールペンを持ってくるよう促す。ナツミさんは「わかった」と言ってすぐにそれを持ってくる。
そして、あまり上手とは言えない手つきで持って来た紙に「佐賀市 老人ホーム紡ぎの里」と書いた。
「俺がヤツから聞いたのはここで働いているって聞いたのが最後だ。それも1年前、久しぶりにヤツが電話したきた時の事だ。そこからもし、仕事を変わっていたとしても俺にはわからんよ… 」
「…はい」
「おっと、電話番号はさすがに教えられねぇ。言っている意味が分かるか? 」
「勿論」
「一応個人情報ってヤツだ。それと… 」
「はい? 」
「それにヤツがその…お前が言う、産みの母親って突拍子も無い情報をどう感じるかも分からない。だから、この居場所だって俺から聞いたという事は言うな。それも条件だ」
「…… 」
「お前がさっき言っただろう。俺に。遠くへ行く選択肢だってあったんじゃないかって」
「確かに言いました」
「ヤツこそ、まさにそうだった。全てをやり直す為に県外へ1人で出ていったんだ。だからヤツの行き先は俺を含めてもほんの数人、限られた人間しか知らない筈だ」
「そうなんですね… 」
「だからもし、ヤツがその場所にいたとしても、出来るだけ刺激しないでやって欲しいんだよ」
もっともな話だと思った。
「分かりました。これから先も慎重に進めていきます」
「頼むぜ。ヤツの気持ちも汲んでやってくれ」
「はい」
やっとの思いで仲川宏と話をして、団地を出た時、既に辺りはすっかり暗くなっていた。
(続く)
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