『レディ・イヴ』のヘンリー・フォンダは、のそっと立っている感じがどうしても好きになれなかったが、『アパッチ砦』では、“髭”が功を奏したのか、とてもいい味を出していた。こちらは言うまでもなく西部劇の神様ジョン・フォードによる、『黄色いリボン』『リオ・グランデの砦』と続く騎兵隊三部作の第1作目だ。モニュメント・バレーの壮大な自然美を拝啓に、騎兵隊とインディアンの抗争が描かれる。
都落ちしアパッチ砦の新任司令官となったサースデイ(ヘンリー・フォンダ)は、武骨で頭の固い彼は、前任のコリングウッド大尉(ジョージ・オブライエン)やヨーク大尉(ジョン・ウェイン)と対立する。一方サースデイの娘フェラデルフィア(シャーリー・テンプル)は、父と同じくアパッチ砦に赴任になったばかりの若きオローク中尉(ジョン・エイガー)と互いに惹かれ合うようになる。そんな中、サースデイはアパッチ族への総攻撃を指令。アパッチ族への裏切りともなる卑劣な行為に反対するヨーク大尉だったが…。
ダンスあり、歌あり、恋あり、迫力あり、上司と部下の対立あり…と、戦争エンターテインメントとして申し分のない作品だ。カラリと晴れた西部に涙は似合わないが、多くのフォード作品と同様な暗さが漂っているようだ。何より、「男の映画」でありながら、男たちの帰還をじっと待つ「女たちの映画」なのであるから。たしかにヘンリー・フォンダの寡黙で真面目な司令官ぶりには、格下げされたいらだちを感じるし、ジョン・ウェインの伝道師のような微笑みも素晴らしい。それにもちろん和気藹々としたフォード組の男たち。しかしコリングウッドの妻(アンナ・リー)をはじめとする、夫を待つ妻たち(そして未来の夫を待つシャーリー・テンプル)の存在が無くては男たちは何も為すことができないだろう。妻たち――女たちのために男は闘う。後退移動ショットが美しい、ダンスパーティシーンの素晴らしさは、それがカップルたちの別れの儀式となっているからではないか。独り身のジョン・ウェインが参加できないのはそのためで、将来を担う若き夫婦も表でこっそり愛を確かめ合った。それ故、アパッチ族との戦い中に、ジョン・ウェインが「あの娘と結婚しろよ」とジョン・エイガーを街に送り返すシーンは感動的だ。それはウェインではなく、全ての女たちの声だからだ。伝道師としてのウェインは、フォンダの〈伝説〉を記者たちに語り、戦死した男たちを鎮魂することを忘れない。
ところで、『レディ・イヴ』と『アパッチ砦』はヘンリー・フォンダ主演の2本だが、どちらも鏡によってカップルが誕生しているのは偶然なのだろうか。バーバラ・スタンウィックは鏡に映ったヘンリー・フォンダを見ながらいかに騙すか策を練り、シャーリー・テンプルも同様に鏡を使い、父親に知られないようにこっそりと馬上のジョン・エイガーに夢中になる。どちらも冒頭間もないシーンだ。(ひ)
「特集:映画史上の名作7」渋谷シネマヴェーラにて
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