ブライアン・ウィルソンのいるビーチ・ボーイズが来日したのは33年振りだという。僕はまだ生まれていない頃なので、当時のことは知る由もない。ただ、1979年というと、彼らはすでにヒット曲を生み出すことが困難になっていたが、ベスト盤『エンドレス・サマー』(1974)の大ヒットによって、“ライブ・バンド”として絶大な人気を誇っていたころだ。


1983年、映画『断絶』(1970)で好演した次男坊デニス・ウィルソンが他界、1988年には、映画『カクテル』効果で『Kokomo』が奇跡的に大ヒットを記録するも、1998年、美声の末弟カール・ウィルソンも他界、兄弟はブライアン・ウィルソンのみとなった。


だから、星野源やAMERICAの素晴らしいライブ中も、ブライアン・ウィルソンとビーチ・ボーイズがともに来ることに全く実感が持てず、白昼夢を見ているかのようだった。しかし、スタジアムにライトが灯る頃、風とともに彼らは現れた。ブライアン・ウィルソンは、ビーチ・ボーイズは、本当に実在したのだ。


まさに伝説だった。いや、リアルタイムな世代にとって伝説なのだから言ってみれば“伝説の伝説”だった。『Surfer Girl』『Litttle Deuce Coupe』『Srfin' USA』『Don't Worry Baby』『California Girls』『I Get Around』……。"夏のサウンド・トラック”の素晴らしきハーモニーに酔いしれ、『Forever』をデニス・ウィルソンに、『God Only Knows(神のみぞ知る)』をカール・ウィルソンに捧げる演出(2人が歌う映像をバックにメンバーがコーラスを歌う)に涙腺がゆるむ。そして、アル・ジャーディンのビーチ・ボーイズ魂……。カールが不在な今、マイク・ラヴの鼻声が主導になるのは当然とはいえ、ビーチ・ボーイズを真に底から支えているのは、アル・ジャーディンの渋い声であることがよくわかった。とくに『Help Me Ronda』が素晴らしかった。アルがいなければ、ビーチ・ボーイズはとっくになくなっていたのではないか。かなり控え目なフランク・シナトラのような風貌がまたいい。


伝説といえば、20世紀の傑作『Heroes and Villains(英雄と悪漢)』と『Good Vibrations』を聴けたことの衝撃は果てしない。とくに『英雄と悪漢』のシュールすぎる“ザ・ブライアンズワールド”には文字通り震えた。手拍子もできず、ただ心の中で「終わらないでくれ!」と叫んでいた。『Good Vibrations』の美しすぎるハーモニーとともに“奇跡の音楽”であると再確認。『Kokomo』から『Fun Fun Fun』に至る王道のアンコールも素晴らしかった。欲を言えば『Darlin'』を聴きたかったが。


忘れてはいけないのが、『That's Why God Made the Radio(神の創りしラジオ)』だ。今、ビーチ・ボーイズの新作(ストック作品のようだが)を、それもブライアン・ウィルソンの関わった傑作を聴けるという幸福。しかし、この曲には、まるで神のいる天へと昇っていくかのような、不安定な哀しみが漂っている。同じ“God”でも『God Only Knows』の方はどんなにトんでても戻ってきて確実に着地するというのに、こちらはそのまま地上に帰ってこないのではないかと不安にさせられる。なにより、同アルバムの最終曲は『Summer's Gone(過ぎゆく夏)』。鈴木慶一氏の言うように、「潮時が今」ということなのか? それとも……。いや、それこそ「God Only Knows(神のみぞ知る)」だろう。そして、God(神)とはもちろん、カールとデニスのことだ。(ひ)




ビーチ・ボーイズジャパンツアーオフィシャルサイト


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