歴史上人を一番殺した動物は何かという問いがあります。
答えは「蚊」だそうです。
蚊は危険な感染症を広めます。
マラリア・デング熱・日本脳炎・・・ 数えきれません。
多少の血を吸われてもあのかゆみさえなければと思いがちですが
かゆみを感じさせるのは蚊ではなく
自分の体なのです。
もし人が蚊に刺されても何も気にしない生き物だったならば
私たちはとっくに滅びてここに存在していないかもしれません。
自分自身の身体が「私」に強いかゆみでもって
「アイツには気をつけて!」という強いシグナルを送っているのです。
同じように人には痛みを感じる能力というものがあります。
痛みには「体」と「心」の両方があります。
普段、「体」に対しては
私たちは痛みや熱があれば鎮痛剤・解熱剤をつかおうとします。
痛みや熱があまりにも耐えがたい場合はしようがありませんが
鎮痛・解熱は体が知らせる危険のシグナルを邪魔するものと言えます。
かえって、それが自分を危険にさらす原因になることもよくあります。
心の痛みでは「慣れ」という方法で気にならなくしてしまいます。
「慣れ」は加害者・被害者双方で起きることです。
被害者の「慣れ」は言ってみれば
自分の精神を守るための適応と言えないこともありません。
被害を受けても回りとの関係を失いたくない
自尊心を守りたいなどの感情で
大人でも子どもでも「慣れる」ことを選ぶのは珍しくないことです。
加害者でも
最初からどこか欠けている人
欠けさせなければ生きて来れなかった人を除けば
「慣れ」なければ人を傷つけ続けることはできません。
あのアウシュビッツ収容所でも看守たちは相手を人と思わないことで
自分の精神を保っていたという証言があります。
それがその後の破滅を招いたことはよく知られたことです。
人が「痛み」を感じなくなることは滅びへ向かっているということなのでしょうか?
人が生きのびるためには「痛み」というシグナルを感じ続けるしかないようです。