ここでは知能の現実の意味を考えてみます。特にあやまった考え方は人を苦しめます。すでにオトナであるあなたを苦しめているかもしれませんし、もしかすると自分の子どもを苦しめることになるかもしれません。まず、ここでは子どもが不得意なことからみていきましょう。
◇おおよそを知る
遺跡に説明書きがありました。「この遺跡は約2000年前のものである・・・」説明書きの日付を見るとちょうど30年前に作られたものでした。
すると、この説明書きをみていた小学生の子どもは得意げに言いました。「じゃあ、この遺跡は2030年前のものなんだ」
あなたはこの子どもにまちがいを説明できるでしょうか。
「この約というのは~ぐらいという意味なんだ」
すると、子どもは
「~ぐらいって、どれぐらい?」と聞きます。
「~ぐらいって、・・・」
実は、これを正確に説明するためには工学的知識がないと説明できないのです。
有効数字という考え方があります。数学の計算問題で有効数字は小数点〇けたと指定があったりしますが、数学の考え方では有効数字という考え方は生まれないのです。(確かに数学でも統計学という分野があります。でも、純数学とはいいがたく、わたしは工学的な扱い方だと思います)
たとえば、円周率は無理数です。数字としてあらわすことはできません。計算がめんどうだから円周率は3.1416に決めていいよというわけにはいきません。
実際、小学校の学習指導要領で円周率を3でいいとしたところ、数学の世界では大騒ぎになり、東京大学では「なぜ円周率は3ではいけないのか」という問題を数学の入試二次試験で出しています。
工学は実用の学問(技術)です。ですから、実用上無意味であれば切り捨てます。それが有効数字の意味です。計算で円周率を使うとき無限に計算するわけにはいきませんから、実用に影響がないところで切ります。それを見極めるのが工学の知識です。
ところが、オトナは意味がわからなくてもムダかどうかわかります。
「2000年という数字からから考えるときっとこれは100年が単位だ。だから30は100よりずっと小さいから、まだ、2000年前でいいんだ」
いいかげんですが、きっとまちがいではないでしょう。いいかげんがあるから私たちは細かいところを気にしなくてもやっていけるわけです。むしろ、オトナであればいいかげんを上手に使えるのは能力が高い証拠です。
子どもはおおよその数を使うのが大変不得意です。「〇〇を200円ぐらい買ってきて」と300円渡すと、「何円買えばいいの」と子どもは困った顔をします。子どもは指示されたことには忠実ですが、自分から意味を考えることに慣れていません。オトナの場合概算といって、いちいち計算をしなくても、今3000円しかないから300円ぐらいのもの10個の凹凸をならして買えば、持ち金に収まるだろうと判断できます。これは算数ができないオトナでもけっこうやっています。
オトナはすべてのことを指示できないのを知っている(それがわからない人はオトナとはいえませんよ)。だから、指示の意味を考え、知り、判断する必要を認めます。
でも、実際オトナでもおおよそを判断するのはむずかしい。それでも、オトナという知能の発達段階と経験・訓練がそれを可能にすることができます。