【以下ニュースソース引用】
屋外の屑カゴを破壊、車を破損……発達障害の中学生に「力の指導」をしてはいけないこれだけの理由
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「増えている」と言われる子どもたちの発達障害。
中学校にも一定の割合で特性がある子が在籍している。
ときおり「問題行動」を起こしてしまう彼らに、どう接すればいいのか。
学校として、どんな支援体制をつくるべきか。
現役の中学校教諭である著者が、自らの実践をレポートする。
私が見てきた「荒れた中学校」の実態
いわゆる「荒れた」中学校での勤務を、これまで何度も経験してきた。
ある年に赴任した学校の、某学年の不登校率は2割を超えていた。
授業が始まっても、全員が揃っていることなど皆無である。
遅刻して出社することを「重役出勤」などと冷やかし気味に言うことがあるが、その比ではない。
チャイムが鳴り終わり、ずいぶん経ってから悪びれもせず教室にやってくる「社長出勤」の子が、クラスに必ず何人かいた。
ある学校では、体育の授業がまったく成り立っていなかった。
体育の授業が始まると、必ず何人かの生徒が20分。
体育倉庫に閉じこもる。単にサボりたかったのか、意図的なボイコットなのか、私にはよくわからないが、とにかく体育の授業が毎時間「閉じこもり」から始めるので、実質、年間の時数の3分の1程度しか授業ができていなかった。
虐待された経験のある生徒が大勢通っている学校もあった。
彼ら(彼女ら)は、あるいは親から捨てられ、あるいは親元から引き離された状態で暮らしながら、中学校に通ってきていた。
どの子も親から深く深く傷つけられた経験があった。
本当にナイフで切り付けられた、という子もいた。
どの子の心なかにも。大人への不信感が炎のように渦を巻いていた。
授業中の奇声、暴力、教師への挑発、級友への差別的言動が日常茶飯事……などという時期もあった。
通報を受けて学校に駆け付けた刑事につかみかかって、その場で現行犯逮捕された生徒もいた。
いろいろなものを背負った(背負わされた)そんな子どもたちのなかにあって、ひときわ肩身を狭くし、自傷行為、場面緘黙、円形脱毛症といった身体症状すら出るほど弱り切っている子たちもいた。
たくさんとは言わないが、各学年に必ず1~3人くらいは、そんなふうに心身ともに疲弊しきった〈重傷〉の子どもたちがいた。
多くの場合、そういう子たちは自閉スペクトラム症だった。
彼らは、根は悪い子ではない。
勉強ができない子もいるが、全員がそうというわけでもない。
ただ、独特な「特性」があるせいでストレスに弱く、「いじめ」も受けやすく、だからこそ、学校の「荒れ」の影響を受けやすい。
しわ寄せが彼らに集中した結果、「不登校」というかたちでドロップアウトしてしまう子もいる。
あるいは、教師による指導をきっかけに、たまりにたまったストレスが爆発して自ら荒れてしまう子もいる。
教師による「力の指導」が招いた悲劇
ある年の4月7日、入学式前日。新三年のある男子が構内で大暴れしてしまった。
入学式準備と校内清掃のさなかである。
発端は、この男子が相談室に無理やり入ろうとして、その拍子にドアが外れてしまったことにあった。
大きな音を聞きつけて、近くにいた教師4名が集まってきた。
どの教師も、その年新たに赴任してきた方々だった。4人は口々に男子を叱り、
「(外れたドアを)直せ」
と迫った。
男子生徒は教師の話に聞く耳を持とうとしない。
それどころか、教員に対して手を上げるような動作にすら出てしまう。
その言動を腹に据えかねた教師の一人が、彼の腕を強く握った。
結果、男子生徒は完全にキレてしまった。
廊下の壁、ドア、あちこちを殴る蹴るしながら、学校を飛び出した。
学校を出て数十メートル、4人のうち最も若い教員が追いつき、後ろから羽交い絞めにするが、この行為が男子生徒をさらに原稿させた。
教員の腕を振りほどき、学校のそばにある電気店の、その駐車場にある金属の屑カゴを蹴飛ばした。
生徒の力が強かったのか、古かったのかわからないが、足蹴にされた屑カゴは吹っ飛んで宙を舞い、近くにあった車に当たってそのボディを傷つけた。
校内の一指導事案が、おもわぬ「こじれ」を見せて物損事故にまで拡大してしまったわけである。
当時、生徒指導主事として別件の指導に当たっていた私が、この事故を知ったのは、彼が出て行って数分してからだった。報告を受けてすぐに追った。
暴れてしまった男子を連れて、帰ってくる先生方に出くわした。
「担任の先生が追いついて、声をかけながら歩いている」 と言う。
この担任は、男子生徒を入学したときから面倒見ている先生だった。
その先生なら、彼への接し方は心得ている。任せておいてもいいだろう。
ふたりが戻る前に、私は傷ついた車のほうを何とかしておかねばならない。
キレた子ひとりだけでの問題ではない!
私は電気店に入り、持ち主を探すしたところ、幸いにも見つかった、事情を説明したうえで、
「学校に戻り、生徒を指導し、保護者とともに再びお詫びにうかがう」
と約束したところ、快く応じてもらうことができたのは幸運だった。
学校に戻ったあとも対応は続く。報告や打ち合わせなどに追われたが、しかし、この件は、その日中に解決の目処が立った。
午後の職員会議で私は、 「生徒指導、教育相談という従来の二本柱のほかに、特別支援教育という柱を持たねば学校教育は成り立たない」
と述べ、特別支援教育の研修を行うことを提案した。
事はただ、今日キレた男子生徒だけの問題ではない。
日ごろ学校でさまざまなストレスに曝されている子、生活のなかで困ったときどう振る舞えばいいかわからない子など、特有の課題を抱えた子はまだまだいるのだ。
そんな子たちを、「腕を力いっぱいつかんで止める」といったような「力の指導」で「服従」させてはいけない。適切な対応を取らなければ、彼ら・彼女らの暴走を助長するだけで、ましてや生徒たちの将来にはつながらない。
我々教員は、真摯に学び続ける必要がある。
その生徒、その生徒に合った対応ができるよう、実力をつける必要がある。
「力の指導」は一瞬で終わる。それに比べて、特別支援教育の知識や技術の習得には何倍もの時間と労力がかかる。だが、「力の指導」とは比べ物にならない「結果」を得られるはずだ。
だから、やろう…………賞金会議では、そう話した。
校長が言った「学校が壊れる」の真意
後、夕刻になって校長室を訪れたときのことだ。
校長からこんなことを言われた。
「長谷川さん、会議で、グッドタイミングでずばり必要な意見を言ってくれたよ。
特別支援の対応じゃなかったから荒れたんだ。
新しく来た先生方にもぜひ学んでもらわなければ、学校が壊れる」
学校が壊れる……、まさにその通りだと思う。
自閉スペクトラム症などの発達障害があるこが「増えている」と言われる昨今、特別支援教育の技術なしに、教育現場はもう成り立たない。
中学校教師だけでなく、中学校と地続きの小学校に勤める教師にとっても、必須の知識だと言っていいだろう。
細かな技術論に立ち入るつもりはない。
専門家が作成した書籍、動画、ネット記事などのコンテンツはいくらでも見つかる。
一例として、同志ともいうべき小嶋悠紀氏が昨年刊行した『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全』(講談社)だけを取り上げて、具体的な「技」に興味がある読者への情報提供としておこう。
私はむしろ、この先、何回かにわたって、私は発達障害がある中学生への関わりと、彼らの身に起きた「事実」について報告したい。
【「学ばない教師」が学級崩壊を招く! いま中学で求められている「特別支援教育」のスキルとは】に続く
長谷川 博之
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