自分の道は自分で決めれば良い | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

私生活では色々とあったが仕事は別に何の変化も無く淡々と進んでいた。


「坂本!たまには飲みにでも行かないか?」


そんなある日、私は帰宅を急ぐ会社のロビーでそう一人の男から声をかけられた。


彼の名前は加藤進と言う私とは同期である。


現在は営業5課で課長をしている。役職的には加藤の方が上である。


しかし、立場的には1課の主任の私の方が上であった。


私はめんどくさそうに急ぐ足を止め振り返る。


「加藤!久しぶりだな!元気か?そうだな・・飲みにでも行くか?」


そう言って会社の近くの馴染みの店に行こうとする私を加藤は静止するように言った。


「たまには新宿にでも出ないか?昔のように・・」


そんな彼の申し出を聞いて会社の人間には聞かれたくない話をしょうとしている事が察せられた。


面倒だ!本当に・・


歌舞伎町の大手の居酒屋に入り二人席に腰掛けたのは7時を少しだけ廻った頃だと思う。


注文した生ビールを美味そうに加藤は一気に飲み干した。


そしておかわりと適当なつまみを注文する。


「久しぶりだな!お前とこうして飲むのも!若い頃はよく同期の皆で飲みに行ったな!

なんか、寂しいよ!結局、同期で本社に残れたのはお前と俺だけになってしまった。」


加藤はそう呟くように言うとタバコに火をつける。


「まぁ~二人残ったと言っても坂本と俺じゃ~次元が違うけどな!お前は1課で俺は5課だから・・

それも俺は必死に頑張っている!出来れば3課くらいまでには登りつめたいと思ってるんだ!」


オイオイ・・仕事の愚痴かよ!浪花節は他の奴としてくれ!


「お前、結婚しないのか?社内でお前を狙っている女なんか、結構、いるぞ!

それに、今回も結構、大きな契約を成立させたそうじゃないか?結婚しろ!結婚!

男は独身じゃ~半人前だ!」


お前はおっさんか?勘弁してくれ・・


「なんだ!そんな事を話為に俺を誘ったのか?最近、遅いんだろ?家族が待ってるぞ!」


そう私が言うと加藤は少しだけ顔をしかめながら言った。


「帰りたくないんだ・・家に・・」と


「何だよ!俺には結婚しろ!って言いながら自分は家に帰りたくないなんて矛盾してるだろ!それ・・

何かあったのか?」


「ああ・・実はな!嫁さんが浮気をしてるんだ・・」


「浮気?そいつはまた、重い話だな・・でも、そんな事を同じ会社の俺に話しても良いのか?

そんな事が社内で噂になったら、お前の出世に響くだろ!」


「いや・・俺はお前を信じてるから・・そんな奴じゃないって!それに5課の俺をどうこうしてもお前には

何の旨みも無いだろ!でも、浮気相手には旨みがあるんだ!」


加藤の嫁さんは順子と言う加藤より5歳ほど年下である。


所謂、社内恋愛と言う奴で彼は結婚をした。


順子が新卒で入社した時の研修の指導員が私と加藤であった。


その時、加藤が順子に一目ぼれをして、順子が秘書課に配属されてからも頻繁に飲みに行くようになった。


二人が結婚をしたのは今から6年前で所謂、できちゃった婚と言うやつでその時、既に順子のお腹の中には

子供が居たのだ。


「浮気って・・何か証拠でもあるのか?そんなに安易な事で言える事でも無いだろう?」


「ああ・・実はメールを見てしまったんだ!たまたまだったんだ!あいつと俺の携帯は同じ機種でな!

寝ぼけてたまたまあいつの携帯の中身を見てしまった・・

そうしたら、待ち合わせ場所と時間のメールがある男から入っていた。

俺さ!致命的な過ちを犯してしまったんだ・・行ってしまったんだ!その時間にその場所に・・」


「お前・・・それは・・・」


「そうしたら、見慣れた顔のオッサンが立っていた!あいつは嬉しそうにおっさんにキスをして腕を組むと・・

ホテル街に消えて行った・・それと・・」


それと・・加藤はそう言うと次の言葉を言う事を躊躇っているようであった。


しかし、ここまで聞いてしまったら全部聞かないとどうも歯切れが悪い。


「それで?何だ!」


「それでな!そいつの顔を見て今までの疑問が解消されてしまった!」


「疑問?話が回りくどいな!早く言えよ!」


「ああ・・すまん!実はな息子の弘なんだけど、俺とまったく顔を似ていないんだ!小さい時にさほど気にもして居なかったんだけど、最近な!特にそう感じるようになって来たんだ・・

そっくりなんだよ!そのオッサンと・・うり二つなんだ・・息子の顔が・・」


私は話の続きを聞いた事を後悔した。そして、こんな面倒な話を私に持って来た加藤を少しだけ恨んだ。


「それで、その浮気相手だけど・・・」


「ああ・・お前もよく知ってる奴さ!」


「俺がよく知っている・・・男か!」


「ああ・・そいつはな・・」


「まっ・・まて!その名前を聞いたら厄介じゃ事になるんじゃ無いだろうな!


「いや!お前にとっては悪い話では無いと言っただろ!悪い話ではない・・」


「そうか・・それで誰なんだ?」


「ああ・・お前の課の大久保課長だよ!」


大久保・・・まさか?あんな気持ちの悪い男と順子が?


もしも、息子の父親が大久保だとしたら、もう、6年以上も付き合っている事になるじゃないか!


それに順子と大久保の接点が無い!二人が出会うきっかけが無いじゃないか!


「冗談だろ?」


そう私が言うと加藤は真剣な表情で・・「本当だ!」と辛そうに言った。


「証拠も無いのに安易に決め付けてはいけない!息子の顔だってお前の思い込みって事もある。

今は直ぐにDNAで解るらしいぞ!なんだったら信用できる会社を紹介する事も出来る!」


そう私が加藤に言うと


「何回も考えた!息子の髪の毛を何時も財布に入れている!でも怖いんだ!弘が俺の本当の子供で無いと

解るj事が!俺はあいつを愛してる!でも、でもな!最近、俺、あいつを抱いてやれない!

家に帰って嬉しそうに駆け寄ってくるあいつを昔みたいに抱きしめてあげれないんだ!

辛いんだ!それが、あいつを素直に抱きしめてあげれない事が・・

あいつが俺の子供でなく大久保の子供だと思うと辛いんだ!」


加藤はそう言いながらグラスのビールを一気に飲み干した。


「でも、それじゃ~一生、呪縛から逃れる事は出来ないぞ!息子さんも不幸だ!はっきりさせないと!」


そんな私の言葉に加藤は決意したように自分と子供の髪の毛を差し出した。


きちんとした封筒に入れられて居た事から、加藤が初めから、私に託そうと考えていた事が感じられた。


人間は弱いから・・誰かに背中を押してもらいたいと思っているんだ・・


そうだろ!加藤・・そうだよな!


私はその封筒を加藤から受け取った。その時、急に私の携帯が鳴った。


表示を見ると友美からのであった。


「悪い!仕事の電話だ・・」


私は急いで封筒を鞄にしまうと席を離れる・・


俺にはきっと、こいつの悩みを聞いてあげれる資格は無いのかもしれない・・


いや・・きっと、俺には無い。


そんな事を思いながら私は静かに電話を耳にあてた・・