「今、うち・・やばいのよね!」
そんな美香の言葉の意味は直ぐにわかった。
今まで木村の家はもの凄い金持ちだと思っていた私は呆気にとられた。
「やばいって?どの位?」
そう私が聞くと美香は笑いながら言った。
「あなたが知ってるうちのマンションも土地も全部無くなったわ!
今、あるのはあの家だけ・・
そう言えばどの位かお解かり頂けるかしら?」
笑顔でなんとも重い話をするものだと思った。
「何で?あんなに順調だったじゃないか?
木村もよく自慢していたんだぜ!俺は天才だ!なんて言って・・」
そんな私の言葉に美香は私を睨みながら言った。
「あなたが・・木村を捨てたからよ!」と
捨てた?何時俺があいつを捨てたんだ??
今だってこうして付き合いはあるじゃないか?何時?それは言いがかりだろ!
「俺が?何時・・馬鹿な事を言うなよ!」
私の真剣な表情に美香は少しだけ後悔したように呟いた。
「ごめんなさい!言い方が間違っていた・・
あなたと連絡が取れなくなってから・・かな?」
この2年程、私は殆ど木村と連絡を取る事を避けていた。
「留守電大魔王!」
なんて木村が私に嫌味を言う気持ちもよく解る。
私は殆ど、木村かの電話に出る事はなかったのだ。
なぜなのか?正直、自分でも解らない。
確かに仕事が忙しかった事は確かである。
でも、それは多分、言い訳でしかない。
きっと、私は木村と言う人間から逃げたかったのかも知れない。
なぜ?と聞かれたらはっきりと理由を言う事は出来ない。
でも、多分、私は木村と言う人間から逃げたかったのかもしれない。
「あなたの携帯が何時も留守電でね!
電話をする度にあいつは悲しそうな顔をしていた。
なんか意味不明よね!あんたの事なんか親友だなんて思ってないくせにね!
でもね!私にはなんとなく解るのよ!その時の彼の気持ちが・・
あなたは彼にとって絶対の人間だったの!
絶対に自分の前から消えない人間だったの・・きっと
別にあいつと遊べなくっても関係ない!なんて強がりをよく言っていてわ!
そしてどんどん、悪い仲間とつるむようになった。
たかられてね!何時もあいつの財布には100万くらいの現金が入っていた。
でも、たまにお金を払うあいつを見ると嬉しそうじゃないのよ!
若い頃、あなたにおごってあげていた頃のあいつの顔じゃ無かった・・
もしかしたらあいつは、あなたの代わりを必死に探していたのかもしれないね!
それから今まで夜、飲みになんか行かなかった男が毎晩のように出かけて行った。
埋めたかったんだろうね!心の隙間を・・
坂本誠と言う人間が消えた隙間をきっと何かで埋めたかったんだと思う。
本業以外にも不動産とか株とか色々と手を出すようになった。
もう止めなよ!って一度、言った事があるのよ!
そうしたらあいつ何て言ったと思う!
あなたを見返してやるんだ!って言うのよ!もっと金持ちになったら・・
あいつは戻って来るから・・って
それが全部、失敗してね!それに追い討ちをかけて本業の水道屋の方も傾いて・・
あいつの目論見が何か知りたいんでしょ!
あいつはね!一番、大切な物を捨てて、生きる事を選んだのよ!
でも、私はあいつを責められない!
だって私も共犯だもんね!あいつに食べさせてもらってるんだから・・
可愛そうだと思わない?金も無いのに見栄ばかりで生きてる男なのよ・・
あいつは・・」
私は居たたまれない気持ちで美香の話を黙って聞いていた。
私が・・私があいつから去った事があいつを変えてしまったと言うのか?
私が・・
「加藤と言う男を知っているかい?最近、木村とつるんでいる奴なんだけど?」
「加藤?なんか聞いた事があるわ!何でも彼の父親は政治家と太いパイプを持った
不動産屋でね!きっと、都の指定業者にでも潜り込ませてもらいたいとお願いをしたのでは無いかしら?とりあえず指定さえ取れれば仕事は安定するから・・」
友情を捨てて・・生きる事を選んだ。
その為に俺を加藤に売ったと言うのか?
ならば、買った加藤の目論見は何なんだ?俺への嫌がらせか?
そんな単純な事でこんな大掛かりな仕掛けを仕向けて来るだろうか?
加藤の目論見が見えなかった。
木村をそそのかして私を苦しめるあいつの本当の目論見が・・
「ねぇ~坂本君!別にあいつを許せとは言わないけど・・
あいつを嫌いにならないでくれないかな?きっとあいつなりに苦しんでいると思うから」
美香はそう呟き、私の手を握った。