時計を見るともう9時を過ぎていた。
「そろそろ帰るよ!」
そう私が言うと
「帰るのかよ!泊まっていけよ!昔みたいに・・」
そう木村が不満そうに言った。
「そうもいかないよ!娘は明日、学校だから・・」
そう言うと待っていたかのように友美が立ち上がる。
一瞬、木村が視線が友美の全身を見つめる。
「それじゃ~失礼します!」
そう言いながら私達は階段を上り始めた。
「また来てくださいね!お待ちしていますよ!」
美香がそう愛想笑いを浮かべ呟く。
そんな事、思っても居ないくせに・・
私はそう心の中で呟きながら美香に頭を下げた。
「あっ!袖の所!少し染みになってるじゃない!」
家を出たとたん友美が葵を見ながら怒っている・・
「良いじゃないか!それくらい!クリーニング出せば落ちるよ!」
「も~う!あなたは・・この服、幾らしたと思っているのよ!」
友美の怒りは収まらないようである。
そんなに高かったのか?思わず聞きたくなる。
でも止めた・・めんどくさいから・・
「なんか・・疲れたわ!これなら家でハンバーグでも食べた方が気楽・・」
ポツリとそう呟いた友美の言葉・・
きっとそれは本音だったに違いない。
私もなんとなく友美と同じ気持ちであった。
所詮、貧乏人は貧乏人なのか?どうも金持ちの家は苦手である。
「ほら!葵・・肩車してやるよ!」
駅に向かう道を私は娘を肩車しながら歩いた。
本当の幸せは金では買えない・・
そう思い知らされる事になるとはその時の私には想像も出来なかった。
帰りの電車の中でふと私は考えていた。
美香のある言葉を・・
「最近ね!うちの旦那・・なんかおかしいの?
坂本君、なにか気がつかない??」
そう美香に言われ私は不思議そうな顔をする
「おかしいのは昔からだぞ!」
そんな冗談を言ったが美香は無表情で私を見つめる。
「おかしいって何が??」
「えっ・・なんか女の匂いがするのね・・」
「女の?女癖が悪いのは昔からだろ!今に始まった事じゃない!」
「それは商売女でしょ!今、夢中になってるのは素人よ!
それも普通の・・女・・」
だから??だから何だよ!
そう心の中で何度も呟いた。
だから何なんだ?俺には関係が無いだろ!
「で?俺にどうしろと?」
「少し探ってもらえないかな?その女のこと・・
何時もの事だと今回はなんとなく流せないような気がするのよね・・」
「俺が??勘弁してよ!嫌だよそんなの!それにそれ・・裏切りだろ?」
そんな私に美香は何か言いたそうであった。
その女は私と何か関係があるとでも言いたいのか??
もしかして・・今日子??
ふとそんな女の名前が浮かんだ。
「無理にとは言わないけど・・お礼はするから・・・」
そう呟きながら美香は私の右手を自分の胸に運んだ・・
「昔みたいに・・ね・・」
これは・・きっと脅しである。そう私は感じた。
これは依頼という名の・・脅しであると
「ああ・・わかったよ!それなりに調べてみる・・」
「お願いね!誠ちゃん・・」
この女と私は合わない。
昔も今もそれは変わらない。
私は美香にそう告げるとその場を後にした。
今日子と木村の関係??
でも、今日子は・・水商売の女だよな??
なんとなく訳がわからない。
なら、今日子が私に近づいてきたのは木村の指示だと言うのか?
何のために??何の得があると言うのか??
まったく訳がわからない。
「下井草~下井草~」
そんな事を考えていると電車はいつの間にか下井草の駅に到着していた。