大仁駅 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「次は~大仁~大仁でございます」


私は何気に後ろを振り向いた。


流れる窓からの景色の中に一瞬、周りの建物から飛び出しだホテルが見える。


「大仁ホテル」である


今から丁度、15年前、私はこのホテルで盛大な披露宴を行った。


私の妻の実家はこの大仁駅から3つ目の「韮山」と言う駅の辺りで大きなイチゴ園を経営している。


その町の大地主と言う奴だ。


紅ホッペと言うイチゴの栽培に成功してひと財産築き、韮山でも有名なイチゴ栽培農家になった。


そんな家の1人娘の結婚式である。盛大で無い訳が無い・・・


東京でしがないタクシーの運転手をしていた私の父はそんな盛大な式にうろたえていた・・


今でもたまにあの日の事を思い出す・・・


嬉しそうに笑っている私の顔を・・・


そして幸せになりますと・・目に涙をいっぱい溜めて微笑んでいた彼女の顔を・・


しかし、今となってはそんな淡い想い出もまるで陽炎のように感じられる。


私と妻が知り合ったきっかけは今から20年前の事であった。


当時は企業がこぞって、自己開発セミナーなるものに社員を送り混んでいた。


今、考えるとそれが効果を表したのかどうかは疑問であるが・・


群馬の山の中の開催されたそのセミナーに私も参加をしていて・・


同じ班に妻も居た。


一週間、缶詰になり毎日、毎日、同じメンバーで泣いたり笑ったり苦しいメニューを消化する。


私と妻はその間、ペアーと呼ばれる組になっていて・・・


そんな中で何時の間にか恋心が生まれたのかもしれない。


今もそうだが、妻は農協の職員なのだが田舎の女ではなく・・・


凄く洗練された美人であった。


その後、数年、東京と静岡との遠距離恋愛を経て私は結婚する1年前に静岡に移り住んで来た。


結婚して15年が過ぎたんだ・・・


私は窓からもの凄いスピードで消え去る「大仁ホテル」を眺めながら・・・


「長いんだか・・短いんだか・・」と呟く。


私の前の席に座った女性は、黙々と手に取った文庫本に熱中している。


ふと、彼女を見つめていると彼女と目が合ってしまった・・


彼女は慌てたように開いていた足を閉じた・・


そして、私を少しだけ軽蔑したような眼差しで睨みつける・・


どうやら・・勘違いをされたようである・・


いや・・少しだけ彼女の綺麗な足を見つめていなかったと言えば嘘になるが・・


それが、男の悲しいサガと言ってしまえる範囲の事であると私は思う。


私は慌てたように目をそらした・・


私の第一印象はきっと今日子にとって最悪の物であったに違いない。


キキキキ・・・・・・・・・ッ


そんな事をしているうちに列車は大仁駅に到着した。


今までと比べ物にならない程の多くの人間が列車に乗り込んでくる。


しかし、その1人1人はやはり、何時もと同じ顔ぶれで・・・


自分の何時もの定位置を彼女に取られていた一人のサラリーマンが不機嫌な顔して・・


牧野郷から乗り込んだ例の巨漢の男の横に座った・・


「ゲップ・・・ゲプッ・・」


巨漢の男は食べ過ぎたのか2回ほど大きな何とも下品なゲップを繰り返す。


隣に座った彼は怪訝な顔をした。


そのゲップを合図にしたかのように列車は静かに走り出す。


そして次に停車駅の「田京駅」を目指し始めた・・