バイバイ・・そんな言葉・・ | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

晃はボロボロになりながら自宅に戻った。


家には既に義明か帰宅をしており夕食の支度をしていた。


「おい!晃・・随分と男前になって帰って来たな!」


義明はそう笑いながら晃の頭を数回、ポン!と叩いた。


「う・・・うん!ちょっと・・」


義明は特にこんな時に晃を追及する事は無かった。


子供には子供の世界がある。


そして幾ら幼い子供でもそれを解決して行くの自分自身なのだから・・


だから、晃が話せば親身に聞くけれど彼が話さない時は何も聞かない・・


それが、親子のルールであった。


「お前!泥だらけだぞ!風呂にでも行くか!」


義明は手際よく夕食の支度を済ませると風呂に行く用意をした。


彼らの家には風呂が無かった。


この長屋に住む全ての人間の家に風呂は無い。


町営の温泉場が近くにあり町の住人は無料でその温泉に入る事が出来た。


自宅から数分の所にその温泉はあった。


湯船に浸かり義明は晃を抱っこしながら鼻歌を歌い出す・・


「晃!何があったか知らないけど・・

その悔しさを忘れるんじゃないぞ!

良いか!力だ!全ての望を叶えるのは力だ!

それを忘れるな!

力さえあれば・・悔し涙を流さなくて済む人生を送れるのだから・・」


晃はただ、何も言わず小さく頷いた・・


次の日の早朝に晃は山田屋に向った。


手には真子から貰ったキーホルダーと同じタイプの色違いの物を握り締めていた。


山田屋の前に小型のトラックが止まっていて真子の荷物を積み込んでいた。


堤防の上から晃はその光景を眺めていた。


すると一瞬、外に出て来た真子と目が合った。


晃は目で真子に合図をした。


「こっちに来いよ!」と・・


真子は大人の目を盗むようにその場を抜け出し堤防を登って来た。


「見送りに来てくれたの??」


「ああ・・どうせ見送りに来てくれる奴なんて居ないと思ってね!」


「うん・・別に誰にも言っていないし・・

それにそんな友達も居ないし・・

でも、晃君が来てくれたから!私、嬉しい・・」


そう呟きながら真子は笑った・・


「っつたく!これ!」


晃は照れくさそうにズボンのポケットに手を入れた・・


「これ!やるよ!お前に・・」


チリン~~~チリン~~~


数回、鈴の鳴った・・


「あっ!私があげたのと色違いだね!

お揃いだね!

大切にするよ!絶対に・・

そうだ!多分、今度、会う時は二人とも凄く大きくなっていると思うから・・

この鈴を目印にしようよ!

今度会う時に絶対にこの鈴を持って来てね!」


「ああ・・解ったよ!お前・・ガンバレよ!」


晃はそう呟いた。


「真子~~~何処に居るんだ!真子~~出発するぞ!」


そんな真吾の声が聞こえた。


「行かないと・・本当にお別れだね・・」


「ああ・・お別れだ・・」


不意に晃の右の手の平に優しい温もりが伝わる・・


「握手・・・」


真子はそう微笑みながら言った。


もしも、二人が大人だったらきっと、別れの口付けをする事だろう・・


お互いの心を忘れないように・・・


しかし、そんな行為をするにはまだ、二人は幼すぎたのかもしれない・・


走り去るトラックを堤防の上から見つめながら・・


晃は大きく右手を上に上げだ・・


「バイバイ・・真子・・」


そんな言葉を呟きながら・・


あと数日で小学校に入学する・・


そんなある春の休日の話であった。