発表会レポート ~反省と今後に向けて~ | 四十路テナライストのヴァイオリン練習部屋

四十路テナライストのヴァイオリン練習部屋

音楽や楽器とはおよそ縁のないまま四十路を迎えた中年男性がヴァイオリンを習い始めた。
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どうぞ遠慮なくお入りください。

 長かった発表会レポートもこれが最終回。最後に残しておいた個人演奏のレポートだ。
 今回の発表会に選んだ曲はコレルリのシャコンヌ。2年前の発表会が終わった直後に、次はこれ、と決めていた曲だ。2年間かけて仕上げてきた曲だから思い入れも深い。ヴァイオリンの2パートが会話をするように掛け合う。その掛け合いが初々しいカップルがデートをしているような感じなのだが、ドレスアップして普段にもまして美しい先生とのデートは巧くいくのか。

 当日の衣装はドレスアップしている先生に合わせてダークスーツを着用。先生はそのまま披露宴にでも行けそうなドレスなので、礼服に白のネクタイとしたいところなのだが、ネクタイをするとどうも楽器をグリップ出来ない。最近は会社でもクールビスなので、ここはネクタイなしで勘弁してもらう。そのかわり、襟元にワンポイントのあるクールビス用のシャツを着る。ボタンダウンで、普段は開けておく第1ボタンも飾りボタンになっており、襟が二重になっていて内側が薄い青色をしているところが全体の印象に変化をつける。これでネクタイがないのはカバーできる。スーツは、黒ではないが、シンプルな濃い色で少しステッチが入っているもの。会社に来ていくときもあるが、何か式典があるときなどのための「とっておき」ってところ。もちろんジャケットも着る。これで、舞台に先生と並んでお辞儀するところは様になっていたはずだ。

 そしてピアノが最初の和音を奏でる。音楽ってとても不思議なのだが、こうして最初の和音が出ると、あとは結末に向けて次々に音が出てくる。その音には無駄がなく、そうなるしか他にないように、そう展開することが必然にように次々に音が現れてくる。最初の1拍が出たら、2拍目からファーストヴァイオリンが主旋律を載せていく。ヴァイオリンが語っている。言葉を発するように旋律が現れてくる。それに応えるようにセカンドヴァイオリンが言葉を重ねる。意外と緊張していない。いい感じだ。ああ何てことだ。2年間、先生と一緒に作ってきた曲をいまみんなの前で披露している。何か本当に先生とデートしているような気持ちになってくる。この邪念がいけなかったのか、途中から右手の震えが止まらないようになってしまった。まずい。いちど変に緊張しだすともはや平常心に戻すことはできない。そのまま曲は進んでいく。そうだ、ここは笑おう。まったく予定していなかったのだが、途中で顔を作ることに。そんなことをしても緊張が収まるわけではないのだが、なんとなく余裕ができる。緊張している自分を客観的に見ている自分。右手が震えているので移弦が難しい。後半で移弦が激しいところは多分できないだろう、と思っていたらやっぱり出来なかった。出来なかったけれど冷静でいられた。

 なにはともあれ、こうして最後までは弾けた。練習で出来なかったことは、本番でも出来なかった。練習で出来たり出来なかったりしたところは悉く出来なかった。だけど、練習で出来ていたのに本番で出来なかったところはなかった。練習で調子のいい時が80点、調子の乗らないときが60点とすると、しっかり60点の演奏は出来た。本番で調子に乗らなかったのではない。調子には乗っていた。だけど緊張していた。それでも楽しかった。この60点を80点にするのは練習やレッスンではない。そこが人柄だと思う。人徳だと思う。80点の演奏が出来なかったのはその所為だけれど、60点の演奏ができたのもその所為だと思う。もっと練習をすれば、MAX80点をMAX90点に上げることはできるかもしれない。だけど、それは60~80点が70~90点になるのではなく、60~90点になるだけ。人間的なところを磨かないと、結局は60点の演奏しかできない。それでも今回はその60点の演奏に満足している自分がいる。上手に弾けたかと言えば、けっして上手ではなかったと思う。この前にアップしたリハーサルの演奏がいちばん良かったかもしれない。だけど、ヴァイオリンが弾けることへの感謝、この瞬間にこの場所に居合わせることへの感謝、そういう気持ちが湧いてきて、とても満たされた気分になれた。それだけでも2年間で随分成長したものだと思う。

 発表会が終わって、ヴァイオリンをやっていて良かったと改めて思う。四十路になれば身体も衰え、精神的にも記憶力が薄れ同じことを長時間続ける集中力とか忍耐力もなくなってくる。そんな中で自分の成長を実感することがあるなど、どんな素晴らしいことかと思う。いましか出来ないことをいまやろう、そういう気持ちにさせてくれる。ヴァイオリンのお蔭でいろんな方に出会えて励ましてもらえる。いまこのときにここにいる自分の在り様が確かなものになっていくような気がした発表会だった。また2年後に向けてヴァイオリンを続けていきたいと思った。