欲しいもの
ぬくもりが、腕に肩に、何より胸にゆっくりと染みる。己の体温よりも低いはずの熱源は、温度ではなくその存在で、わたしの全身を温める。静かに腕を払われ、抜け出す体温代わりに忍び込む朝の冷気。いつも目を覚ますのはバルフレアがそっと帰り支度をする気配。なのに今朝は、ぬくぬくと丸まったバルフレアがわたしの横で眠っている。その重みで目が覚める。あたたかい。時計など見なくても、カーテン越しに射す陽の長さでわかる。夜明けはとうに過ぎている。そうか。今朝は寂しい無言の別れをせずに済むのか。あの辛い別れを。本人に言えばきっと彼は鼻で笑うだろう。どれほどオレが長居をしても、アンタきっと寂しがる。どうせ帰るしどうせ来る。だったら黙って帰った方がすっきりするってもんだ。第一よっく考えても見ろ。ジャッジマスターの部屋に長居が出来るわけないだろう?空族のこのオレが。ここから出しなに別のジャッジにでもとっ捕まって、アンタの前に引っ張り出されでもしたら、それこそ立場ってもんがないだろうが。アンタじゃない、若き皇帝様が、だよ。なのに今朝は、こうしてわたしの腕の中にバルフレアがいる。無防備な寝顔はこういってはなんだが、幸せそうではないか。緩やかなカーブのまつ毛の先に触れる。一瞬眉をしかめる。僅かに開いた唇を指でつつく。ぴく、と震える。唇の輪郭を指でなぞると、ちろ、と指先を舐められた。ゆっくりと開かれた緑の瞳と眼が合う。口に含んだわたしの指先を、バルフレアはそのまま小さく齧る。全身に快感が走る。なんと罪作りな男だ。これから仕事に向かうわたしを惑わせてくれるな。おはよう?平凡だ。今日はめずらしいな?だめだ、へそでも曲げられたら困る。もう何年も付き合っているのに、朝の挨拶すらドキドキする、とは我ながら情けない。言葉にはならない想いを込めて、ただ額に口づけた。決死の思いで身体を離し、ベッドから降りようとする身体を引き留められる。「あと5分」何を言う。キミは好きなだけ寝ていればいい。「行くな」ベッドから降ろす足が止まる。「今日はこのままここにいろよ」振り向けない。「なぁ、たまにはサボれ。さぼってオレを甘やかせ」腕に腕を絡め、一定のリズムをつけて、背中に全身の体重をかけてくる。「離れたくないんだよ」あぁ、なんという。わたしだって行きたくないし、このままここにいたいし、離れたくない。まさに一心同体。こんな言葉を聞かされて、わたしはどうすればいい。……どうしようもない。時計を睨む。思い切り抱きしめる10秒間を己に許す。11秒に突入してはいけない。離れられなくなる。身支度をするわたしを、毛布の隙間からバルフレアが見ている。一挙一動を翡翠のまなざしが追ってくる。マントを羽織る。ジャッジマスター・ガブラスの鎧を小脇に挟む。ベッドの上で、膝を抱えわたしを見送るバルフレアが「切ないねぇ」頼りなげに小首を傾げ、ぽつんと呟く。愛する人のこんな言葉に、なんと返せばいいのだ。今朝目覚めてから今まで、わたしは一言も声を発していない事に気づく。何も、言えない。部屋を横切り、扉に手を掛けた途端、驚く程素早く、もっとも彼の身のこなしは、最速の空族の異名に恥じる事無くいつも軽やかだ。するりと私の背後に忍び寄り、「これがオレからのプレゼント」さも満足そうに囁いた。「プレゼント?」思わず振り向く。「そ。今日はクリスマス。だからアンタにプレゼント。恋人らしい朝のお別れ名場面」「なんだって。では、その、嘘というか演技というか…騙していたのか、わたしを」「そういう事。いいから行けよ、皇帝ちゃまがお待ちかねだろう。おっと怒るなよ。アンタ結構嬉しかっただろ?いいから、お説教は帰ってから聞く」胸を突かれ、後ろ向きに部屋から追い出され、文句を言う前に、目の前で扉が閉じられ、ご丁寧に内側から鍵を掛ける音がする。なんという事だ、あの可愛らしい言葉もいじらしい仕草も全部嘘か。人を馬鹿にするにも程がある。わたしは大股で執務室に向かう。途中、すれ違うジャッジらと朝の挨拶を交わすのも、バルフレアに対する怒りで上の空だ。説教は帰ってからとか言っていたな。おもしろい、覚悟をしてもらおう。もう何年も付き合っているが、こんな屈辱は初めてだ。部屋に戻ったら、言いたいことを言ってやろう、お望み通り。いつまでも我慢をしているからこんな目に合うのだ、わたしは。いっそ、あの事を叱ろうか、この事を問い質そうか…バルフレアにぶつける言葉をあれこれ考え、ふと、気づいた。そうか、今日は一日あの部屋にいるのか。自分のねぐらに帰らず、あの部屋でわたしの帰りを…待っていてくれるのか。そうか。それが彼からわたしへのクリスマスプレゼント、なのか。少しわかり難く、かなり怪しい、でも最上のバルフレアからわたしへのプレゼント。お返しは…そうだな、今日は一日中キミの事を考えていた、ではだめだろうか。素直でない彼だから、不貞腐れつつ、喜ぶ自分に狼狽えてくれるような気がする。( 2012.12.24 NEW )はい、またもやへぼ文出ました。ばるちゃんもバッシュも、部屋を横切っただけ。起承転結的に解析すると…起?それだけ?ホントにそれだけ、起きただけ。それでもクリスマスらしい、わたくし的には。いっつも同じネタだね、よく飽きないね。でも、一生懸命、30分位で書きました、まる。ほのぼの…でもないしいちゃいちゃ…でもないが幸せな二人ではある、らしい。よくわからんがそうなんだろう。