小指
不意の気配に、咄嗟に銃身でモンスターの牙から身を守るのが精一杯だったオレの眼の前に、バッシュが飛び込んできた。何か言っていたようにも思う。言葉は聞こえなかった。オレとモンスターの間に割り込む、と同時に片手でオレを背に庇い、瞬時に残った片手で剣を大きく振り、瞬く間もなくモンスターの首が宙に飛ぶ。一瞬の出来事。残された胴体は、暫く迷っているように右に左に揺れていたが、諦めたように後ろに倒れ始めた。口を付いて出かけた安堵の溜息を、無理に飲み込む。例え戦闘のプロにでも、男として庇われた事が少し口惜しい。「悪ぃ、油断した…」敢えて余裕あり気に一歩バッシュに進んだオレと「どこか痛めたところは?」いつになく早口で一歩オレに進んだバッシュと重なったのは言葉だけでなく、互いの足だった。「い・痛っー!」「す、すまない!」バッシュの足はしっかりとオレの足、右の小指の上。「すまない…。本当にすまない。思い切り踏んでしまった…歩けるか?」頻りに謝るところを見ると、相当手応えならぬ足応えがあったんだろうよ。正直踏まれた瞬間は、涙が出る程痛かった。情けない顔ですまないを連発するバッシュは、先程のモンスターを前にした時とは別人だ。「ウェアウルフが飛び掛っているのを見て、てっきり傷を負ったかと」「よしてくれ、そんな柔な男じゃない。ああ、くそ。結構痛いぞ、アンタのせいだ」これならモンスターに噛み付かれたほうがマシだった。毒づくオレの前に跪き、バッシュはオレの右足を恭々しく自分の膝に乗せ、見せてくれと靴を脱がす。オレはバッシュの肩に両手をついて足を預ける。支えている左足がだるくなるほど、散々時間をかけて小指を調べ、「折れてはいない様だ…良かった…」そう言ってオレを見上げるバッシュの蒼い瞳が、良かったと言うよりは何故か苦しげで、足先を包み込む指が、掌が、オレの足から何時までも離れないので、「もういい」邪険に肩を突いて身を引いた。この痛みが続く間、オレはバッシュの事を考える羽目になる。からだの先の一番小さな足の小指が疼く度、この足に直に触れたバッシュの皮膚を想い出す。必死に眼を逸らしていた感情が、痛みと共にじわじわと、染み出してくるのをオレはもう、自分の事なのに止められない。この痛みが消えるまで、バッシュの側には寄らない。そう決めた途端に、痛むなら肩を貸そうなどと近づいて来るので、後ろを見ずに思い切り足を踏んでやった。( 2009・10,30 NEW )リクエストを頂いておりました。すっごく悩んで時間が掛かってしまいました。Y様、遅くなりまして申し訳ございません。何に悩んだかって、そりゃもうあれだよ。バルフレアが痛い思いをすんのは可哀想…ってそれで話が進まなかったんだよ…。でもしょうがないんで最後にバッシュにも痛い思いをして頂きました。バッシュが踏まれるのは駄目だった、話にならん。だってバルフレアに踏まれたら、こいつ喜ぶだけだもん…。