ずいぶんと賑やかな笑い声がひとしきり起こる。
数人の男達が店の一番奥の席に陣取ってから、かれこれ1時間は経っただろうか。
皆良く飲み良く喋る陽気な集団の中、一人だけあまり話をしなかった男が立ち上がった途端、
それまでの和やかな雰囲気が一変した。
全員がお互いの顔色を窺うような視線を交わす。
中の一人がさりげなさを装って
「なんだよバルフレア、もう帰るのか?」と、立ちあがった彼の手を軽く引きとめるように触れる。
バルフレアと呼ばれた男はおずおずといった調子で自分に触れてきた男の手を軽く叩いて
「トイレ。一人じゃ出来ない。
誰か手伝ってくれるか?」
妖艶な笑みを浮かべて自分を見上げる男達に公平に視線を配った。
どっと笑い声が上がり、俺が行くと全員が腰を浮かせたが、
「ばーか、冗談だよ」とちょっと眉を顰めて見せ、つ、と席を離れた。
「失礼、トイレに行って来る」
いかにも会社帰りといった集団の席から、上背のある男が立ち上がる。
脇に座っていた数名の若者が慌てたように立ち上がるのを、もう一度すまない、と断って、
ダイニング・バーの店の奥へと男が消える。
「いつから見てた?」
「最初から。店に入って来た瞬間から」
「黙って見ていたのか、悪趣味だな」
「ならば、あの場で挨拶でもすれば良かったか?
いつもお世話になっています、わたしが…」
「わたしが?なんだよ続けろよ。
正直に高校ん時の教生です、って?
教生の癖に高校生に手を出して、こっそり4年も付き合ってましたって。
それとももっと正直に、2年前別れた元カレ?」
「更に正直に付け加えれば、
振られた相手を今でも想う馬鹿な男、と」
「振られた?よく言うぜ。
もう逢わない。
そう言ってメールにも電話にも出なかったのはアンタだろ?」
「何を言う!
年上振るな、束縛するな。
そう言ってわたしの携帯を、邪魔だと車の窓から放り投げたのは誰だ?」
どうやってその携帯に出られるのだ」
「逢いに…来れば良かった」
「引っ越しただろう、すぐに」
「捜せよ」
「捜したよ、捜した結果が今日だと思わないか、バルフレア」
「無理」
「では…今日初めて逢った事にしてくれ。
あらためて、キミが店に入って来た時から眼を奪われた。
ずっと見ていた、仕草が声が、呼吸のタイミングまでもがまさに理想のタイプだ。
一緒にいた仲間の中に、恋人がいても構わない。付き合って欲し…」
「あ、全員」
「へ?」
「今オレみんなと付き合ってんだけど?
どーする?やめとくか?」
( 2009・11.14 再録…なのは上13行目まで )
もちろん嘘である。
バッシュが捜したとか言ってんのが嘘。速攻バレたが。
バルフレアのみんなと付き合ってる、ってのも嘘かも。
ま、バッシュはそんな事は気にせず何度でもバルフレアにアタック(←死語)だな。