息子夫婦と、広がる家族 |  お転婆山姥今日もゆく

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 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

コロナ禍以来、来客がぱったり減り、LINEなどで連絡を取るのみになってかれこれ4年目である。

一昨年、昨年と喪中だったため欠礼のハガキを出したので、年賀状書きの忙しさからは解放されていた。そんなだから今年は年賀状のことはすっかり頭から消えていて、この前

「来年から郵便料金が値上がり」というニュースを見て「ハガキが85円で、封書が110円? このご時世、ますます便りを出す人が減り、年賀状など家計の負担じゃないか」と殺風景な感想で思い出した次第だ。

 

近年の傾向は、律義に年賀状をくれるのは現役子育て世代の人たちが一番多い。子供さんの写真をプリントしてあるのが常で、それを見るたび

「よその家の子供さんは成長が早い」

と感慨にふける。私の世代はきっぱり二つに分かれていて、LINEやメールで済ます人と、印刷した型通りの年賀状に、近況すら添えない人。子供は大きくなり、現実は親世代が高齢化し、その介護やらなにやら、あとは自身の不調など書きたいような出来事もないのだろう。それは私も同様である。

この冬は11月に相当量の積雪があり暗澹とし、「天気予報は嘘ばかりつく」と呪ったが、今現在雪はなく実にホッとする。雪かきのストレスは本当に半端ない。

ストレスと言えば、バカが権利ばかり主張し、ズルいこと、悪いことをしてもデカい顔した奴がまかり通るような世の中である。そういう件はこれ以上は書かないが。

 

鬱屈する日々であるが、楽しいことも当然ある。

山へ行かなくなって久しいが、今年はとうとう「神様の山」にも行かず、遠く山容を眺めるのみだ。

時は過ぎたな・・・と感じるが夫は異様な酷暑の夏ですっかり狂った秋でも、きちんと獲るものを獲た。彼の日々の奮闘は傍で見ているとなぜそうまでに・・・と思うのだが、あれが生き方なのだ。

 

この夏、これまで無事だった嫁さんと、娘夫婦が同じころについにコロナに罹り、Yちゃんはごく軽かったが、娘夫婦は酷かった。

親しい友人も二人も罹り、一人はいまだ後遺症が酷くコロナを呪っている。

連絡は来ても愚痴を聞いたり、励ますのが関の山で、何もしてやれないのが一番もどかしい。

 

10月。息子夫婦から誘いがあり、5月の伯父伯母の納骨以来、久しぶりに顔を合わせた。

私の誕生日祝いになんと割烹料亭を予約したという。

私があれこれ食べられなくなったのを慮ってのこと、そして店側にその旨伝えたようで、出された料理は肉っけは「芋の子汁」の鶏肉のみだった。しかし、とりどりの品があり、どれから箸をつけるか迷うことの楽しさといったらない。

 

 

    

 

   

 

Yちゃんと私はともかく、夫と息子には物足りないかと思ったが全くそうではなく、下の写真の四角いのは

「カリフラワーの寄せ豆腐」

とあったが、これがホワイトソースベースで、男二人が大騒ぎで食べていたりした。

普通だと、揚げ物や鍋ものは銘々につくがそれはなく、吟味された食材が丁寧に味付けしてある。ミズの実やキノコ類も豊富で、山菜キノコの処理にはついつい口うるさくなる私たちも、「なんて見事な!!」と感動した。

最後に出てきた小丼ぶりの蓋を取ると、あああ・・・鰻だ・・・ここの鰻は美味しいのよ・・・。

 

「このくらいのサイズなら大丈夫」

と嬉しくなった。

 

この店には父が生きていたころ、父の奢りで一度だけ来たことがある。息子がみっつかよっつの頃。娘はよちよち歩きだったろうか。それくらい遠い過去。息子は覚えていない思い出話などをし、その時の店が続いていること、たまたまであれここを選んで誘ってくれたこと、感慨深いものがあった。

息子夫婦からは毎年必ず、母の日と誕生日には何かしら心遣いがあり、今回の件については

「ありがたいけどさ・・・あそこは味は本当に確かなんだけど高いのよ…いつもこういうことをする息子ってどうよ…Yちゃんにも気を使わせて悪くて・・・」

と夫にはチラリと言った。

「俺なんか親にそんなことしたことないぞ、大したもんだよ」

「そうじゃなくてさ・・・」

 

食事しながら思い切ってYちゃんに聞いた。

「毎年いちいち母親のためにこういうことする夫って・・・」

と言うと、息子が思いがけないことを言った。

「俺じゃなくてYちゃんがこういうこと好きなの、こういうことしたい人なの」

Yちゃんはウンウンとうなずいてニコニコしていた。

 

 

そんなことがあってからの2ヶ月あまりが過ぎた昨日。

また息子夫婦に誘われて、隣県に買い物に出かけた。

海産物目当てである。

私たち夫婦が今年の春からハマった場所があり、週末のたびに通い詰めたがまだ止まない。

以前私が語るのを聞いていたYちゃんが、ふむふむと聞いて、答えた。

なんでも彼女の実家からそこらへんはごく近くて、買い物といえば

「○○が良いですよ、うちの親もよく行きます」

 

なんと羨ましい、確かに地図を見ると県内の一番近い市街地に行くよりもずっと近く、隣県でもあるから旅心も満たされる気になるではないか。

冬は雪はほとんど積もらない、温暖な地。

この夏の酷暑でも内陸より気温が低く、37度38度という当地からそこへ行くと「涼しい」と声が出た。海風が心地よいのだ。

真剣に妄想した。

「ここらに引っ越したい」

 

そんなところへ息子夫婦と出かける私はキィキィと嬉しくてたまらないのだった。目指す場所は買い物客でごった返していたが、さっさと買い揃え、早めの昼にする。

連れ出してくれた夫婦に海鮮をご馳走し、帰途はYちゃんが

「今日は店内は混んでると思うので、テイクアウトで」

と、そのあたりでは大変評価の高いカフェのコーヒーをご馳走してくれた。

 

時間は戻るが、今月はじめに創立〇〇周年の社内旅行で沖縄へ行ってきた息子夫婦が、買い物に行く前に、お土産を置きに先にYちゃんの実家に寄ると言う。

 

10日前にYちゃんの妹さんに男の子が生まれたと聞いていたので、私は少しばかりのお祝いをYちゃんに言づけていたのだったが、思いがけない訪問となった。

Yちゃんのご家族には、結婚前の顔合わせと、おばあちゃんおじいちゃんの葬儀、そして2年前、屋根の普請の打ち合わせの際に会ったきりである。

まだ少し早い時間だったがどうぞどうぞと仰っていただいた。

 

昨日退院したばかりという妹さんと赤ちゃんは健やかで、女の子ばかり生まれる家系というから、

「男の子ってどうやって育てるんですか?」

と聞かれ

「男も女も育てましたが、同じですよ」

と答える。答えになっていないが。

 

久しぶりに赤ちゃんを見たが

「こんなに小さかったっけ?」

と、今はデカくなった横にいる息子を見て感慨深い。

 

皆ニコニコと話が弾む。Yちゃんのご両親も大の猫好きで、気がつくと猫が入れ代わり立ち代わり現れ、その都度全部違う名前で、4匹も飼っている。

「猫は赤ちゃんくらいの大きさだから、そこも可愛いですよねぇ」

となんだか失礼なことを言ったが、「そうそう」と盛り上がる。息子など自分の実家のように寛いでいる。

息子が結婚する際、「先方のご家族と仲良くなりなさい」と言った。

息子は妹さんだけでなく、Yちゃん姉妹の従妹さんたちからも「お兄さん」と呼ばれている。

妹さんの旦那さんとも仲良くしている。つまりは息子は「良くしてもらっている」のだ。

 

「そうか、あなたたちはとうとう『おじちゃんおばちゃん』になったのね」

と言うと、まだまだ若い二人は大笑いし、

「おじいちゃんおばあちゃん」

になったばかりの、Yちゃんのご両親も笑った。

家族はこうして広がっていくんだな・・・私が心配することはもう何もないのだ。

昨年とはまた違った、良い年の暮れになったとつくづく感謝している。