赤い鍋 2 |  お転婆山姥今日もゆく

 お転婆山姥今日もゆく

 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

鍋が届いた翌日、娘から電話が来た。

 

その数日前から、

「土曜日何してるの」

と連絡が来ていた。

 

昨冬の豪雪と極寒で屋根の雪がこれでもかと思うほど積もり、融け落ちることもないでいるうちに家の裏側の屋根が折れ曲がり、そこだけ見ると空き家の廃屋と言った佇まいで非常に残念な事になっていた。

もともとは親が死んで空き家になっていた期間に、一度昨冬のような大変な豪雪があり、それでダメージを喰らっていたのだが、修繕費用など聞くのも恐ろしく、見ないふりをしていた。

表側なら無理してでも直したと思うが、この件についてはあとで書く。

 

この秋は好天が続くということが一切なく、修理に来る大工さんたちもタイミングを計りかねていた。天気予報は一切アテにならず、毎日というより、刻々変わりそれが当たらない。いきなり雲がムクムクと雲が湧き雨が落ちてくることが続いた。

しかしこれ以上伸ばせないというので、「週末と来週初めでやります」と言ってきていたのだ。

 

「週末は屋根の修理の大工さんが来るから、家にいます」

と返事をすると

「えー・・・」

で終わっていた。

 

電話が来たのは土曜日の10時半過ぎで

「今日何してるの?」

と、また同じことをドロドロした声で聴いてくる。

 

「今日晴れ予報なのにここらだけ雨降ってて、大工さんは結局来ないみたいだ」

というと

「あ゛ー、そうなの・・・」

「アンタ、何してんの?今起きたの?」

「違います、とっくに起きてます!!! 一時間くらい前に・・・」

「Sさんは仕事でしょ?」

「うん」

「アンタは二度寝するにしても、一旦起きてちゃんと行ってらっしゃいって見送らないのか?」

 

娘はそれには答えず

 

「うーん・・・どうしよっかなぁ・・・」

 

のっぺりぬったりもったりという風情で、いかにも重たくだらけている。

 

「なんなのよ」

「誕生日祝いにさ・・・」

「いいよ、疲れているのに無理しなくても。お気持ちだけで充分だし」

「え゛ー・・・んー・・・お昼何食べるの?」

「Tさんは仕事でいないから、残り物よ」

「んー・・・」

「なんなの、気が向かない時は動かない方が良いのよ。こっちも晴れたら午後から大工さんが来るかもしれないし、天気次第なんだ」

「夜何食べるの?」

「豚汁でも煮ようと思ってる」

「豚汁・・・あとは?」

「ああ、鳥の手羽のから揚げ仕込んであるから・・・」

「行く」

「は?」

「行きます、から揚げなんでしょ」

「・・・なんなのアンタ・・・」

 

で、15時過ぎに娘が来た。ドタドタと来た。

 

「どもー」

といつも通り入って来て

「ハイ、誕生日おめでとう」

とニヤニヤしている。

 

      

 

箱は大好きな例のロールケーキなのだが、娘はまたしても

「ジェラートに行こう」

 

「寒いし病みあがってないからヤダ」

「外の空気吸うのも大事だよ」

なんだかんだそそのかされて、ドロドロと出かけた。

 

「こんな冷え込んでるのに客なんかいるもんか」

と言うと

「密にならなくて最高じゃないの」

なんて言うのだ。

 

道すがら

「いつもと景観が違う」

と言う。

 

「今年は暑くて育ちが良かったのか、9月のうちに殆どが稲刈り終わってしまったのよ。いつもだとまだ半分くらい残ってるのに」

「ふーん」

「この前来たときは、まだ稲が伸び初めで青々としていのに早いよねぇ」

「年も取るわけだよねぇ、ハハハ」

なんて笑うのだ。

 

寒くて誰もいないと思っていたジェラート屋さんは、駐車場が全部埋まっていた。

「どういう事よ、もうこんな時間なのに」

 

入店は二組ずつと制限されているので、外で待つ。

「美味しいけどさ、寒さに耐えてまで食べなくても」

という私を無視し

「何食べよっかなー」

と貼り出してあるメニューを見ている。

 

中に入ると、先客は

「カボチャ」

「サツマイモ」

と言っている。

 

持ち帰りの人もいたが、店の人に帰宅までの時間を聞かれると

「町内で、すぐだから」

と保冷材は要らないと言ったりしている。

 

娘はカシスヨーグルトとチョコチップを頼み、私はとても食べる気にならないので、夫の分と一緒に持ち帰りにした。

 

車に乗り込みヒーターを強くした中で娘が食べながら言う。

 

「なんでこんな町内に住んでて、わざわざカボチャだのサツマイモだの頼むかね」

「ここのは自家製野菜使ってるから美味しいんでしょ」

「美味しいのはわかるけど、この時期カボチャもサツマイモも白菜も大根もゴロゴロあるじゃないの・・・」

 

娘はそこで変な事を思い出し、この母をこき下ろすのである。

 

鍋の話にならない・・・つづく。