小心者異聞 |  お転婆山姥今日もゆく

 お転婆山姥今日もゆく

 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

夕食はほんの少し窓を開け、換気扇を回しつつ、エアコンもガンガンかけ、その中で卓上コンロにジンギスカン鍋を乗せるというエコに逆行する体であったが致し方ない。

娘が買ってきてくれたのは、ラム肩ロース1キロ、厚切りロース6枚、ラムソーセージだった。野菜は家にあるのを切って出し、テンション高めが続いた。

 

 

     

 
勢い込んで次々焼いては食べる。
ちゃんとしたジンギスカンは久しぶりで、暑いけれども実に美味しい。
 
夫が
「で、どうなの?結婚生活は。仲良くやってるの?」
問うと
「とにかく平和、とにかく楽しくやってます~」
と嬉しそうだ。
まさか娘の口からノロケみたいなことを聞くとは!
 
私ら夫婦はもうお腹いっぱいで、箸を置いたが
「もう食べないの?じゃ一人焼き肉させてもらいます~」
とまだ食べる気である。
 
以前嫁のYちゃんとラム肩ロースを買いに行ったときも1キロだったが、3人では食べきれず半分残った。今回は他の肉やソーセージもあるのに、気が付くと残りは少なく、やはり娘は食いしん坊なのだと思う。
 
食後、私はYちゃんに届け物があるので出かけると言った。
娘も付いてきた。
Yちゃんの誕生日が数日後で、暑い時期でもあるし、サーティワンアイスクリームをいろいろ買って届けるのがここ数年の慣例になっている。
この日は娘もいたので
「若い人の好み」
を参考にあれこれ選んだ。
 
息子夫婦は帰宅して間もなかったようだ。
 
娘は犬が苦手で、歓迎してグイグイ迫ってくるおはぎから必死で逃れようとし、ドタドタと中に入った。
私は、
「少し早いけど、誕生日おめでとう、いつものだけど良かったら食べて」
と差し出す。
Yちゃんはいつも通り穏やかに
「ありがとうございます」
とニコニコしている。
 
それにしても娘がうるさい。
とろ(猫)を撫でながら
「それにしても何、この子、胴長いし、デカいし」
と口が悪い。
 
「父猫に似たんだ」
「そうなのー、で、黒いの(もう一匹の飼い猫ツナ)は相変わらず隠れてて、愛想無いのね」
とまた口が悪い。
 
「それにしても無駄なものもなくて片付いてて、いつも綺麗だよね~」
とまるで嫌な姑みたいな言い方をする。
そして
「あのさ、ウチら、マンション買うんだー」
 
「え? そうなの?」
兄夫婦が驚いている。
「ウン、ほらあそこのアレの・・・」
とキイキイと説明し、落ち着きがない。
 
「帰ったばかりのところにごめんね、暑いから気を付けてね」
と娘を引っ張って帰途に着いた。
 
車中、突然娘が正気に戻ったように言う。
 
「・・・ちょっと・・・私まずかったかな、失礼したよね」
「ウン」
「え、やっぱり?」
「ウン」
「おはぎにうるさい来るなって言ってみたり、おはぎが蹴とばして足にかかった水もろくに拭かないでリビングにはいって・・・」
「ウン」
「猫の見た目をバカにした挙句、義理の姉には『誕生日おめでとうございます』も言わないで、いきなり『マンション買うんだ』なんて自慢始めて・・・」
「ウン」
 
「え゛ー、どうしよう、物凄い失礼だよね」
「うん、でも止められなかったし、アンタも兄の家だからという緩さ全開だった」
「いやー、何と申し訳ないことを、しかも母はYちゃんにプレゼント持ってったというのに、私は手ぶらのくせにドタドタ・・・」
「プレゼントはともかく、テンションおかしかった」
「・・・Yちゃんどんな顔してた?」
「Yちゃんはニコニコしてたけど、あんたのテンションにはついてこれていなかった」
「い゛ゃー・・・申し訳ないことしたよ」
「あとで失礼しましたってLINEでもするんだね」
「だって、LINE交換してないもの」
「してないの? 義理のきょうだいってそんなものなの?」
「だってお互いに直接用事ってないじゃん、何かあれば兄に連絡すれば済むし」
「そんなものなの? に、しても、アンタ、子供じゃないんだから少し落ち着きなさいよ」
 
そういうものの、私も強く言えない。
 
「この子のこういうアホなところは、私にそっくりだ・・・・」
と思っているからである。
 
「YちゃんのLINE知ってる?」
「当たり前でしょ」
「よくよく謝っといてくれない?」
「私がかい」
「おねがひ・・・」
 
娘は平常時はごくごく真っ当で、周りをよく見て余計な事は一切言わないのだが、時々狂う。
それは兄の前でのことで、ヘラヘラと何をしても許されるという甘えがあるのだ。
そして我に返りいきなり小心者のようになり、不安と後悔に苛まれるのである。
 
「きょうだいってそんなもんなんだろうね、私はいないから生涯わからないけれども」
 
娘は反省しきりであったが、反省を口にするほど別の意味でうるさいのであった。