小心者 2 |  お転婆山姥今日もゆく

 お転婆山姥今日もゆく

 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

昼食後、ペットシーツやらペットフードを買いに行くので、娘と出かけた。

 

買い物を終え、娘はまた

「ジェラート」

と言う。

他に行くところもないので、従う。

 

道すがら娘が言う。

 

「あー、田園風景、いいねぇ。

 緑がこんなに立ち上がって、風に吹かれていいねぇ」

 

「ウン」

 

「田植えした頃は、水が張ったところに残雪の山が映ってさ・・・」

 

「ウン」

 

「こういうのは癒されるねぇ」

 

毎度毎度同じことを言うのは、娘が心からそう思っているし、感じているからでもあるが、毎度同じ場所を走るからでもある。

田舎の商業地をちょっと外れればなにも無いからでもある。

 

「アンタ毎年同じこと言うよね」

「ウン、去年も言った」

「覚えてるのか」

「そりゃそうだよ、年寄りの繰り言とは違うよ」

 

( ̄▽ ̄;)。

 

私は私で、娘が毎回同じことを言うのをちゃんと覚えているので

「まだダイジョウブ」

と自分を心強く思うのであった。

 

話は途切れないのだが、小心者の私が、今なら良いかなとかねてよりの疑問を口にした。

 

「アンタがさ、どんな彼を連れてくるか全く想像が出来なかったけど、アンタが言わないだけで、ずっとH君が彼だと思っ・・・」

 

皆まで言わせず娘が

「H? はぁ? あるわけないじゃん」

「だってさ、ギター教えてもらったとか、初詣一緒に行ったとか・・・」

「面倒くさいからHの名前を出しただけで、常にいつものメンバーで集まってただけだよ」

「年越しの時も、H君がわざわざ迎えに来てくれたじゃん」

「車持ってて家が近いからだよ」

「だって、中学の時から仲良かったじゃないの」

「だかーらー」

 

娘はうんざりしたように

 

「とにかくあの人たちは友達なの、男とか女とか関係ないの。それにしてもHなんて、やめて、絶対あり得ない、考えたこともないし、大体アイツ、遠い親戚にあたるし、性格も結婚向きじゃないと思うよ・・・」

 

無理という理由は書かぬが、娘が言うくらいだからそうなのかも知れぬ。

 

「直前まで、H君が来ると思っていたから、Sさん(娘の夫)が現れたときはびっくりしたよ」

 

「アハハ、そうだったのか」 

 

私は長年の疑問が解け、気が抜けた。

 

娘はそれこそ子供の頃から全く変わらず(随分でかくはなってしまったが)、一度気に入ったものは外さず、この時もジェラート屋で「ダブル」を頼み、機嫌が良い。私の夫が好きな「ラムレーズン」をお土産に買ってくれたのであった。

 

 

帰宅後まもなく夫も帰り、暑さで疲労困憊の夫を娘が労いながら、疲れた時は甘いもの!! と、ジェラートとフルーツ大福を食べろ食べろと勧める。

フルーツ大福は沢山種類が有るそうだが、一番人気はキウイだそうだ。

 

「すぐ売り切れになるんだって。今日も11時前に行ったのに売り切れ。これはシャインマスカットだよ」

 

ナカミがシャインマスカットと聞き、値段を聞くのが躊躇われたので黙っていた。

小心者の私は、恐る恐る食べたが実に美味しい。

ボソッと

「良い値段だろうねぇ」

「それなりにね。良いのよ昨日は給料日だし、アハハー」

 

      

 
どうも何だかいつもよりテンションが高い。
ムシャムシャと食べていると突然
 
「マンション買うんだ~」
 
言うや否や、
「これ見て」
と次々にマンションの写真を見せてよこす。
 
私はそこを知っている。
盛岡に居た頃冷やかし半分にモデルルームを見に行ったところだ。
立地・クォリティなど見るだけで
「こういうのを買える人達とは一体何ぞや?」
と場違いな気持ちでいたのを思い出した。
 
「こっ・・・ココ買うの?」
「うん」
マンションの選び方、ここに決めた理由、その他いやぁ喋ること喋ること。
 
「新築がいいというのは普通の事なんだけど、今は建築単価よりも材料費が高騰してるから、新築でも作りや内装はこの時(買うらしい中古マンション)よりもチャチなんだよ。ここは・・・」
 
立地条件、財産としての価値、なんだかんだと実に詳しい。
 
私は胸がつぶれる思いで聞いている。
「ローンがよぉ・・・」
 
お金の話を私は一切しないのだが、心配でならない。私の顔を見て娘はすぐ察し、
 
「私もS(ムコ殿)も、どんな仕事してると思ってるの?」
と余裕である。
 
「無理も無茶もしてませんから、大丈夫だよ」
と心強い。
 
力杖にはもうなれない自分に縮こまる思いで、私は殆ど呆然として聞いていた。