チビスケのまなざし |  お転婆山姥今日もゆく

 お転婆山姥今日もゆく

 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

「何かあればご連絡しますが、そうでなければ夕方にはお返しできます」

 

信頼して託したのだ、電話など来るはずがない。

後は夕方、迎える準備をしておくだけだ。

 

それまでの間、ささみと静かに過ごす。

ささみは何もかも分かった顔をしていた。

キャリーに入れられるということは、どこかに連れて行かれ、なにかをされること。

 

それにチビスケが入れられ、私だけ帰ってきたのだから。

 

「ささ・・・ チビスケもお腹切ったんだ」

「ささ・・・ 痛いだろうから、帰ってきたら傍にいてあげてね」

 

私が話しかけるたび、目を瞑って応える。

ささみは私の膝にポンと乗り、額を擦り付けてきた。

 

夫の帰宅を待って、チビスケを迎えに行った。

チビスケは数時間前と変わらぬように見えた。

急いで帰宅する。

玄関で

「ささみ、帰ってきたよ」

と言うと、ささみが出てきた。

キャリーからチビスケを出すと、すぐ駆け寄ってきてそっと鼻を付け、顔を少し舐めてやっていた。

 

チビスケの歩き方がぎこちない。

奥の部屋のソファに行き、横になった。

ささみはそれ以上構うことはせず、傍らにいる。

 

      

 

 

「今日はこのままそっとしておこう」

 

そっと頭を撫でてやると、チビスケが目を開けた。

 

不信感を持った、野良猫のような目。

 

一瞬だが、私に向けたその目。

私は胸を突かれた。

 

同じ時系列。

あの日の私も、麻酔が覚めた時間だ。

声が出るだろうか。

出そうとして

「今、何時?」

 

自分の耳にさえ届かない声。囁きにもならない、ただ口を動かしただけの、届かない声。

 

朦朧とした頭で、何かを悟り諦めた瞬間だった。

 

 

あれからの歳月、生きてこれたから出会えた命に、私は謙虚に対峙してきただろうか。

 

ささみは病気、チビスケも放置すればささみと同じように悪化させてしまう。

 

 

野良猫はどうだろう。

地域差はあるが

「卑劣な人間の毒牙にかかり」

惨たらしく、それは、

「殺すことを楽しむ」輩により、命を絶たれる例は、おぞましいほど多く、絶えることがない。

 

「犠牲になる猫を増やさないように」

野良猫を捕まえ、去勢して、野に放つ・・・。

猫に手術を受けさせる。

 

彼らはどうして、その痛みに耐えねばならぬのだろう。

 

不幸な猫を増やさないため。

確かにそうなのだろうが、不幸を強いているのは

「人間」

なのだ。

 

「なにするんだ」

「勝手なことばかりしやがって」

「頼んでねぇよ」

「構うなよ」

 

私が猫なら、そういう叫ぶかもしれない。

 

チビスケはソファから下り、ぶら下がっている衣類の陰に隠れるようにして一晩身じろぎもしなかった

 

一夜明けて、夫が

「野良たちが数日姿が見えない時は、怪我とか体調が悪いとかで、ああやってじっと耐えているんだろうな」

と、しみじみ言っていた。

 

そうだ、猫は何も言わない。じっと、じっと耐えている。

 

だから余計に愛しい。

 

チビスケは子宮蓄膿症悪化予防のため、結果として去勢。

私はがん摘出手術から生還して13年。

 

ふと気が付くと、チビスケが

トトト・・・と現れた。

ささみがすぐさま駆け寄る。

 

    

 

 

ほんの少しだが、ウエットフードを舐め、

 

  

高さのある引き出しの上に上がったり、陽が高くなると、網戸越しに風の匂いを嗅いでいた。

 

更に一日が過ぎ、流水を要求して飲んだ。

 

    

 

 

 

声をかけると、以前のチビスケのまなざしだった。

 

愛しい命。

縁あって、ウチに来た命。

 

大事に大事にするからね。

 

ごめんな・・・