妖怪長持オバハン |  お転婆山姥今日もゆく

 お転婆山姥今日もゆく

 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

片付けは続く。昨日は敷地境界確認の立ち会いもあり気ぜわしく過ごした。
昨日も揃って休みを取った若夫婦はとっくに来ていた。
昨日は自家水道が使えたので、いろいろと捗った。何より、手や顔を洗える。水は有難い。


母屋にはベッドが3つある。
ふたり暮らしなのに3つ。
冷蔵庫も、壊れたものは物入れになっていた。

書きだすときりがないのだが、とにかくどんな隙間にも何か詰まっている。
今のように、隙間風を防ぐイイモノがあるわけでもない時代に生まれ育ち生きてきた世代だ。
とてつもなく古い新聞紙だの、布だの。
片付けても片付けてもやっぱり出てくる。


昨日は大きいものを粗大ごみとして出した。
息子夫婦がテキパキと動く。
チョー細くて色白のYちゃんが、実は力持ちで驚く。


「見かけ倒しの筋肉馬鹿と違うな」
と感心する。
彼女が通った学校は、山の向こうにあったそうで、
「同級生はみんなアッチに帰るのに、私は先輩たちと山のコッチ側に帰るんです」



「途中で道草本当に食べたり」


「ほー」

ワタシは嬉しくなる。
「アカツメクサとか、花びら毟ってチュッてすすると甘いんだよね」
「そうそう、よくやりましたー」


家に着くまで長い道のり、歩きに歩いてお腹も空くので木の実などもつまんで食べたという。
そういう何げないけど、今誰もしなくなったようにことを知っているのは頼もしい!!!

昨日私は離れの担当で(最近は息子が仕切る)、彼等とは離れてやっていたが、しょっちゅう笑い声が聞こえる。
ボソボソと息子の声は聞き取りにくいが、Yちゃんがキャッキャと笑っている。


このクソ蒸し暑い時期、毎度毎度休み潰して、ちっとも楽しい作業なんかじゃないのに彼らはふたりで笑っている。
ふたりとも、愚痴や苦情めいたことを一切言わない。げんなりしているに違いないのに、言わない。言わないで笑って一生懸命だ。


離れに、デーンと長持が鎮座していた。(画像はお借りしたものです)

 

 

私はそれを開けるのが嫌だった。

「舌切り雀」
みたいに、なにかオソロシイものが出てきたらどうしよう。
自分が、舌切りババアだと断罪されそうで恐れおののく(ウソ)。


ええい!!!!
と開けると、
「やっぱりここにも・・・」

古布団が3組出てきた。

布団は済のはずだったが、また出てきたことに私は結構な衝撃を受けた。
そこに息子たちがやってきた。
ベッドをみっつ片付けてスッキリした顔であるのに、布団がまた出てきたことを伝えるのが忍びない。

が、二人ともテキパキと運び、あっという間に長持は空になった。

「頭でごちゃごちゃ考えていると体が動かぬ」

私は彼らを心から頼もしく見ていた。


5時を知らせる
「遠き山に日は落ちて―」
のメロディーが流れ、息子が
「よし、今日はやめっか」
と、お茶を片手に座った。


「なんかワタシ今日は長持ショックでさ」
「どうしてですか?」
「なにか出てきたらどうしようって」
「出てきたじゃん」
「でも、お化けじゃなくて良かった」

昔はアレを担いで花嫁道中だ。未だにこちらの結婚披露宴は、
「長持歌」

での入場だったリする。
あの長持は伯母のだろうか。伯母は箪笥もひと棹と葛篭も持ち込んできているから、伯父の母親の代からのものかもしれない。

昔の人はとにかく物を大事にしたんだなぁ、と思いつつ、使わなくなったものが劣化していく時間の狭間で、若夫婦と私が仲良く笑っているのが嬉しくも切ないのであった。