一本一本をすべて出し切る——柔道五輪メダリスト・野村忠宏に学ぶ「本当に強くなるための練習」 | 致知出版社公式アメーバブログ

 

 

 

 

 

男子柔道60キロ級で前人未到のオリンピック3連覇を成し遂げた野村忠宏さん

3連覇はもちろんのこと、40歳を超えてもなお、柔道に打ち込み続けた姿は、多

くの人たちに感動と希望を与えました。その野村さんに「本当に強くなるための

練習」についてお話いただきました。

 

 

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■一本一本が勝負

〈野村〉
……その後高校、大学と柔道に打ち込んでいく中で、細川伸二先生との出逢いは

僕にとって大きな転機となった。細川先生はロサンゼルスオリンピックの金メダリス

トで、当時は天理大学で師範として生徒指導に当たられていた。

 

伝統ある天理大学の柔道部には多くの人材が集まってくるため、トップ集団に交じっ

ての練習は当然辛く厳しいものとなった。練習前になると憂鬱になることもしばしば

だったが、日々厳しい練習を積み重ねなければ、試合で勝つことは到底できない。

 

例えば「乱取り」といって、試合形式で6分×12本を行う実戦的な練習がある。実

際の試合時間は5分間だが、緊張感や恐怖感、そしてプレッシャーを感じつつ戦う

だけに、試合後の疲労感たるや相当のものだ。それだけに、乱取りにおいても一本

一本を本番の如く臨めば、その疲労感たるや言語を絶するものとなる。

 

ところが毎日のように厳しい練習を課されていると、強くなるための練習をしている

はずが、いつの間にか練習をこなすための練習になっていく。自分では追い込んで

いるつもりが、「あと何分で終わるか、あと何本残っているか」ということを常に計算

しながら、淡々と頑張るようになる。乱取りについて言えば、6分×12本ができる

練習をするようになるということだ。

 

大学2年生の時に、細川先生に突かれたのはまさにそこだった。

 

「そんなもん、ほんまに強くなる練習じゃないぞ」


「おまえがもし本当に上を目指すのであれば、残り時間のことを気にするな」

 

そして細川先生は、こう付け加えられた。

 

「1本目から試合のことを念頭に行け。もし途中で苦しくなって、もう動けない、これ

以上できないと思ったら休んでもいい。だから最初から試合をするつもりで集中し

てやれ」と。

 

オリンピックチャンピオンから直々に言葉をいただけたことは、僕にとって大きな

喜びとなる。そしてその喜びは、練習の取り組み姿勢まで大きく変えていった。

 

それまでの僕は、やる気の出ない日や気分が何となく乗らない日には、先生から

一番遠いところで練習をしていた。少しでも先生の目の届かないところでと思うの

だが、サボって先生の顔色を窺う選手ほど、広い視野で道場を見ている先生と目

が合う。そういった経験は誰にでもあるのではないだろうか。

 

細川先生からアドバイスをいただいたことを機に、僕はその姿勢を一変させた。そ

の日を境に常に先生の目の前で練習をすることにしたのだ。それは単に先生に見

てもらおうというのではなく、自分の練習を見せつけてやろうと思ったからに他なら

ない。

 

次の乱取り練習の日には、1本目から飛ばしていった。試合と全く同じ状況をつくる

のは難しいが、試合のつもりで1本1本すべてを出し切ろうと必死に臨んだ。当然、

体にかかる負荷も相当なものとなる。とにかく先のことは考えずに続けていくと、早

くも5本目か6本目あたりで「もうこれ以上無理だ」という瞬間が訪れた。もうすべて

出し切った、やり切ったと。

 

「もうこれ以上できません」

 

そう訴え出た。先生は僕の練習状況を目の前で見てくれているわけだから、当然

聞き入れてくれるだろう。ちょっと休ませてくれるだろう。僕はそう信じて疑わなかっ

た。

 

ところが返ってきた答えは「なんやおまえは。おまえはそんなもんか」という厳しい

ひと言だった。

 

一瞬動揺が走ったが、次の瞬間には「なにくそ」という意地で僕は練習を続けた。

 

するとどうだろう。体はふらふらだったが、まだ練習を続けられるではないか。自分

が限界だと思っていたものは、あくまで自分でつくったものにすぎなかったのだ。

 

自分の中に残された、自分でも気づかないような微かなエネルギーを振り絞って

やる練習、それこそが強くなるための練習であり、試合に勝つための練習なのだ

ということを、僕はこの時に細川先生との短いやり取りの中で教えていただいた

のだった。

 

そしてこの教えが僕の競技者としてのステージを大きく押し上げてくれたことは間

違いない。その半年後に全日本の学生チャンピオンに勝ち上がれたばかりか、大

学4年でオリンピック代表の座を射止めたからだ。

 

誰もが努力をする。しかし、その努力がやらされている努力なのか、それとも強くな

るために意味のある努力なのかを考える必要がある。

 

やらされている努力というのは、意味のある努力を探し出す過程においては大事

だと思う。しかし、何年、何十年経っても何も気づかぬようではいけない。強くなる

ためには努力が必要だが、それはあくまで最低条件でしかないことを知るべきだ

ろう。

 

 


(本記事は月刊『致知』2015年9月号 特集「百術は一誠に如かず」より

一部抜粋・編集したものです)

 

 

 

◇野村忠宏(のむら・ただひろ)
昭和49年奈良県生まれ。3歳から柔道を始める。平成9年天理大学卒業。11年

奈良教育大学大学院卒業後、ミキハウスに入社。競技においては男子柔道60㌔

級でアトランタ、シドニー、アテネの三大会で、日本、アジアの全競技を通じて初と

なるオリンピック三連覇を達成。その後も現役選手として数々の大会に出場。25

年弘前大学大学院医学研究科修了、医学博士号取得。

 

 

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