「褒める人間は敵と思え」落語家・桂歌丸師匠が貫いた生き方 ~2014年4月号~ | 致知出版社公式アメーバブログ

 

 

 

 

 

2018年7月2日に逝去された落語家、桂歌丸さん(享年81)。人気番組『笑点』などで長くお茶の間に愛され、いまなおその姿は視聴者の心に残っているようです。そんな人気者の歌丸さんが生前語っていた哲学が「褒める人間は敵と思え」。落語家として63年を歩まれた生粋の噺家が遺した金言をお届けします。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

■小学4年生で落語家になる決心

――歌丸師匠が落語の道に進まれたきっかけは何ですか。

〈桂(歌丸)〉
皆さんそういう質問をなさるんですけどね、私たちは落語が好きで落語家になっているんです。だからそれ以外、何にもないんですよね。

 

私が噺家になったのは昭和26年、戦後すぐですからね、もう笑いのうんと少ない時代ですわ。それで、うちは祖母が水商売を経営していたもんですから、陽気な面もあったわけですね。

 

私は一人っ子で、3歳の時に父親を亡くして、母親とも離れて暮らしていましたから、祖母が育ての親だったんです。祖母はよく演芸場に連れて行ってくれました。子供ですから芝居のことは分かりませんけれども、幕間にやる漫才を見るのが楽しみでね。そういう中で、「笑いの少ない時代に、人を笑わせる商売をしたい」と思うようになりました。

 

 

――時代背景や家庭環境が大きく影響しているのですね。

〈桂〉
それからラジオで週に2回、寄席の番組がありましてね。そこで昭和の名人たちが聴衆を笑わせているわけですよ。それを聴いて、「俺の進む道は落語家以外にない」と思ったんです。小学4年生の時でした。

――10歳にして将来のビジョンを定められた。

〈桂〉
迷いはなかったですね。だから私は中学も高校も行かないって言ったんです。そうしたら祖母に「みっともないから中学だけは行ってくれ」と言われたんで、嫌々中学に行っていた。宿題もやらなかったし、先生に「落語と勉強、どっちが大事だ」と怒られて「落語のほうが大事だ」って(笑)。

 

それでもう卒業を待ちきれなくて中学3年の11月に古今亭今輔師匠のもとに飛び込んじゃったんですからね。

 

私が入門した頃は、新しい寄席がいろんなところにできて、かといって、噺家の数は変わりませんから、とにかく忙しかったですよ。昼は東京の新宿、夜は千葉の市川と、前座の私ですら掛け持ちをしていましたから。それが終わってから横浜の自宅まで帰っていましたので、深夜になることもあった。それでも祖母はご飯の支度をして待っていてくれました。

 

ところが、噺家になって1年後に祖母が亡くなってしまったんです。64歳でした。

 

 

――ああ、そうでしたか……。

〈桂〉
家は一軒残してくれましたけど、夜遅く帰ってきて、自分で鍵を開けて真っ暗な中へ入っていって電気をつける。こんな寂しいことはないですよね。

 

でも、それからは今輔師匠が親代わりになってくださった。あと祖母と長年付き合っていた近所の方もいろいろと面倒を見てくれた。だからそこなんですよ、さっき言った周りの人に支えられたっていうのは。

 

その頃、今輔師匠からこう言われたことがあるんです。

 

「苦労しなさい。ただ、何年かして振り返ってみた時に、その苦労を笑い話にできるように努力しなさい」

苦労の壁をどう乗り越えるか、どう突き破るか、それも一つの勉強だと。若い時には師匠の言葉の真意は分かりませんでしたけど、いまになってみると大変有り難い言葉だと思います。

 

■褒める人間は敵と思え

――これまで数多くのお弟子さんを育ててこられたと思いますが、指導するにあたって心掛けていることはありますか。

〈桂〉
これは今輔師匠から言われた言葉なんですが、「褒める人間は敵と思え。教えてくれる人、注意してくれる人は味方と思え」という教えは大切にしています。

 

普通、人間っていうのは褒められれば嬉しいですよね。怒られたら「畜生」と思いますよね。それは逆だって言うんですよ。

 

若いうちに褒められると、そこで成長は止まっちゃう。木に例えれば、出てきた木の芽をパチンと摘んじゃうことになる。で、教えてくれる人、注意してくれる人、叱ってくれる人は、足元へ水をやり、肥料をやり、大木にし、花を咲かせ、実を結ばせようとしてくれている人間だって。

 

これは噺家になってすぐ言われたんです。私の高座を聞いた人が今輔師匠に「彼は子供だけど噺がしっかりしてる」って言ったそうなんです。それを受けて、私に注意してくれたんでしょうね。いまから褒められていたんじゃ、えらいことになるって。

 

 

――含蓄に富んだお話ですね。

〈桂〉
それと、「噺を教わった人よりも受けて、初めてその人への恩返しになる」っていうのが私の持論なんです。教わった人より受けなかったら恩返しにも何にもなりません。私は若い時から師匠や先輩の前でも「なぁに、負けるもんか!」ってやりましたよ。

 

だから、私より受けなきゃダメだって弟子には言うんです。私のところにもずいぶん後輩たちが「教えてください」って来ます。で、教えますよ。「ああしろ、こうしろ」「ここが違う」とね。

 

そういうふうに噺を教えることはできるんです。ただ、間を教えることはできない。

 

私たちの商売は、早く自分の間を拵(こしら)えた人間が勝ちです。いつまで経っても間のできない噺家がいる。もっと極端に言うと、生涯間のできない噺家がいる。間抜けって言葉があるじゃないですか。それと同じですよ。だから、自分の間を拵えた人間が勝ち。それは自分で研究し、掴むしかないんです。

 

 

――人から教わるのではなく自分で掴むしかないのですね。

〈桂〉
それから、私が大切にしている言葉に「芸は人なり」というのがあります。薄情な人間には薄情な芸、嫌らしい人間には嫌らしい芸しかできないんです。だから、なるたけ清楚な、正直な人間にならなきゃダメだって。それが芸に出てくる。

 

 

――常日頃、自分を磨いていないとよい芸も生まれないと。

〈桂〉
これは噺家ばかりじゃないですよ。ビジネスマンの方でもそうだと思うんです。だからこういう言葉があるじゃないですか。「品物を売るんじゃなくて自分を売れ」。それと同じですよ。

 

 


(本記事は月刊『致知』2014年4月号 特集 「少年老い易く学成り難し」より一部を抜粋・編集したものです)

 

 

◇桂歌丸(かつら・うたまる)
本名・椎名巌。昭和11年神奈川県生まれ。26年11月、5代目古今亭今輔に入門。後に4代目桂米丸門下となる。41年5月の日本テレビ『笑点』放送スタート時から出演。43年3月、真打昇進。平成16年2月、落語芸術協会会長に就任。18年5月、『笑点』5代目司会者となる。平成30年7月2日逝去。

 


…………………………………………………………

 


プレゼントにもおすすめです

【予約受付中】

 稲盛和夫日めくりカレンダー
 「心を高め、運命を伸ばす言葉」



   稲盛和夫・著

 

ご予約はこちらからどうぞ

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

★特集「追悼 稲盛和夫」発刊決定!
~稲盛流成功哲学が凝縮された永久保存版~★

追悼号を組むことが決まったのは8月末。稲盛氏の訃報に接した直後でした。
稲盛和夫氏からいただいた数々のご恩をお返ししたいとの思いで、弊誌主幹・編集長が中心となり約2か月にわたって企画を練りに練り、2022年12月号(11月1日発行)での発刊が決定しました。

〇お申し込みはこちらからどうぞ〇

 



 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

10月1日発刊

~『致知』最新刊2022年11月号「運鈍根」

 

 

『致知』最新号(特集、連載)の主な読みどころ

 

『致知』最新号「運鈍根」の特集ラインナップ
 

対談「医の一道を歩み続けて掴んだ仕事の要諦

佐野公俊(総合新川橋病院副院長)

上山博康(禎心会脳疾患研究所所長)


明治の実業家たちの気概に学ぶ

宮本又郎(大阪大学名誉教授)

北 康利(作家)

 


永続する企業は何が違うのか

~1300年続く老舗温泉旅館に聞く〉​​​​​​~

田中真澄(社会教育家)

川野健治郎(西山温泉慶雲館社長)


「365人の生き方」のドラマが教えるもの


国分秀男(東北福祉大学元特任教授)

中 博 (「中塾」代表)

 



その他 


 

 


 

 

お申し込みはこちらからどうぞ

 

 

 

★★『致知』ってこんな雑誌です★★

 

本あなたの人生、仕事の糧になる言葉、

教えが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

 

 

 

お申し込みはこちらからどうぞ

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

今話題の書籍のご案内

 

ベストセラー書籍、待望の第2弾!!

 

『1日1話、読めば心が熱くなる
 365人の生き方の教科書』

 

藤尾秀昭・監修
 

 

本書では、『致知』創刊20周年以前
(1978~1998年)の記事にも思いを馳せ、
名経営者や名指導者など、
各界の“レジェンド"と呼ばれる人物の逸話
多数収録されている
のもポイントのひとつ。~

◆ 収録記事の一部 ◆

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

      ※肩書は『致知』掲載当時


「人生の闇を照らしてくれる光」
 五木寛之(作家)

「人生で一番大事なもの」
 稲盛和夫(京セラ名誉会長)

「十年間辛抱できますか」
 浅利慶太(劇団四季芸術総監督)

「一期一会」
 瀬戸内寂聴(作家)

「独立自尊の商売人になれ」
 柳井 正(ファーストリテイリング社長)

「人間の力は出し切らないと増えない」
 平尾誠二(神戸製鋼ラグビー部ゼネラルマネージャー)

「会社がおかしくなる6つの要因」
 永守重信(日本電産社長)

「自分の限界を超える条件
 長渕 剛(シンガーソングライター)

「逆算式目標設定術」
 岸田周三(レストラン カンテサンスシェフ)

「忍耐は練達を生じ、練達は希望を生ず」
 加藤一二三(将棋棋士)

「“なぜ?”を5回繰り返せ」
 張 富士夫(トヨタ自動車相談役)

「仲間を信じ、童心を忘れず、科学に徹する」
津田雄一(「はやぶさ2」プロジェクトマネージャ)

「金メダル獲得の原動力」
 古賀稔彦(柔道家)

「決勝戦直前の姉のひと言」
 伊調 馨(ALSOL所属レスリング選手)

「一流プレーヤーに共通したもの」
 岡本綾子(プロゴルファー)

「ジャニー喜多川さんの褒め方・叱り方」
 村上信五(関ジャニ∞)

「人は負けるとわかっていても」
 佐藤愛子(作家)

「世界に挑戦する上で影響を受けた人」
 宇津木麗華(女子ソフトボール日本代表監督)

「人の痛みを知る人間になれ」
 村田諒太(WBA世界ミドル級スーパー王者)

「会社経営は常に全力疾走である」
 山中伸弥(京都大学iPS細胞研究財団理事長)


            ……全365篇

オリンピック史にその名を残す伝説の水泳選手、
「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャ、
庵野秀明氏が尊敬する映画監督……など、
時代や職業のジャンルを超越した方々の話から、
自らの仕事や人生に生かせる教訓が
得られるのも、本書ならではの魅力です。

 

☆お求めはこちらからどうぞ★

 

 

***

 

 

 

 

      『稲盛和夫 一日一言』

 

 

※詳細はこちらからどうぞ!

 

 

 

 


★『1日1話、読めば心が熱くなる
 365人の仕事の教科書』


 藤尾秀昭・監修

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆ 収録記事の一部 ◆

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「知恵の蔵をひらく」
 京セラ名誉会長・稲盛和夫

「現場には仕事と無駄の二つしかないと思え」
 トヨタ自動車相談役・張富士夫

「プロは絶対ミスをしてはいけない」
 福岡ソフトバンクホークス球団会長・王貞治

「一度は物事に死に物狂いで打ち込んでみる
 建築家・安藤忠雄

「人を育てる十の心得――加賀屋の流儀」
 加賀屋女将・小田真弓

「ヒット商品を生み出す秘訣」
 デザイナー・佐藤可士和

「嫌いな上司を好きになる方法」
 救命医療のエキスパート・林成之

「準備、実行、後始末」
 20年間無敗の雀鬼・桜井章一

「公私混同が組織を強くする」
 神戸製鋼ゼネラルマネージャー・平尾誠二

「一番よい会社の条件」
 ファーストリテイリング会長兼社長・柳井正

「仕事にも人生にも締切がある」
 料理の鉄人・道場六三郎

「脳みそがちぎれるほど考えろ」
 日本ソフトバンク社長・孫正義

「奇跡を起こす方程式」
 指揮者・佐渡裕

「10、10、10(テン・テン・テン)の法則」
 帝国ホテル顧問・藤居寛

「自分を測るリトマス試験紙」
 将棋棋士・羽生善治

「負けて泣いているだけでは強くならない」
 囲碁棋士・井山裕太

……全365篇
 

 

…………………………………………………………

☆お求めはこちら。

 

 

 

 

★人間学を学ぶ月刊誌『致知(ちち)』ってどんな雑誌?

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

一冊の本が人生を変えることがある
  その本に巡り合えた人は幸せである

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・