試練の時に噛み締めたい安岡正篤の哲学:「死」と「活」は一なるもの ~2011年7月号 ~ | 致知出版社公式アメーバブログ

 

 

 

 

 

昭和の歴代総理、財界トップを中心に、‶人間いかに生きるべきか〟を説いた安岡正篤師。その安岡師が、「平生窃(ひそ)かにこの観をなして、いかなる場合も決して絶望したり、仕事に負けたり、屈託したり、精神的空虚に陥らないよう心がけている」と記していたのが、本記事で語り合われる「六中観(りくちゅうかん)」です。生前の安岡師に師事し、2016年に101歳で逝去された伊與田覺(いよた・さとる)さんが、在りし日の師を偲び、その教えを紐解きます。対談のお相手は安岡正篤記念館の所長を務めた荒井桂さんです。

 

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■古の教えを凝縮した6つの寸鉄

 

六中観(りくちゅうかん)

 

 死中・活有り

 

 苦中・楽有り

 

 忙中・閑有り

 

 壺中・天有り

 

 意中・人有り

 

 腹中・書有り

 

 

【表記は掲載ママ】 

 

〈伊與田〉
先生が著された『百朝集』には心の糧とされた先人の言葉が紹介されていますが、ご自分の意見として出されたのは、この「六中観」(りくちゅうかん)だけなんですね。 

 

「死中・活有り」とあるように、絶体絶命の状態の中でも必ず活きる道がある。死と活は二にして実は一なるものだ。「苦中・楽有り」は苦しみの中に実は楽しみがある、ということです。どんなに忙しい人でも自分の時間をつくることができる。これが「忙中・閑有り」。そして「壺中・天有り」とは壺の中に自由の天地があるという意味ですね。 

 

〈荒井〉
『百朝集』では「壺中・天有り」について「世俗的生活にあって、それに限定されず、独自の世界、別天地を持つこと」と説明されています。日頃の生活とはまったく違う心の開拓に努めなくてはいけない、ということでしょう。 

 

〈伊與田〉
次の「意中・人有り」とは、心の中に人物を持つこと。その意味で、先生は各界のいろいろな人たちを実によくご存じでした。先生を尊敬する人たちが何かあるたびに喜んで協力されましたからね。最後の「腹中・書有り」は腹の中に納まる哲学を持つことです。 

 

〈荒井〉
伊與田先生のお話のように、『百朝集』は戦中戦後の激動の中で、安岡先生が心の支えにされた古典や歴史書の名言をまとめられたもので、「六中観」だけが先生のオリジナルとされています。 

 

先生は、註の後に書き添えられて 

「私は平生窃(ひそ)かにこの観をなして、いかなる場合も決して絶望したり、仕事に負けたり、屈託したり、精神的空虚に陥らないよう心がけている・心中の秘事を一寸」 

ともおっしゃっていますね。 

 

「死中・活有り」にしても「忙中・閑有り」にしても、一つ一つは古典や歴史書にある言葉ですが、六つを合わせられたところに素晴らしさがあると私は感じています。 

 

〈伊與田〉
そうですね。この「六中観」は先生の品格を網羅したような言葉で、決して借り物ではありません。

 

■忘れがたい思い出

〈伊與田〉
余談だけれども、僕は「壺中の天」という言葉に忘れがたい思い出があるんです。 

 

〈荒井〉
どのような思い出でございますか。 

 

〈伊與田〉
昭和33年、京都の宇治で全国師道研修会という、志ある学校の教師が安岡先生の教えを受ける会が開かれました。ところが、下駄を履いて歩かれていた先生が、ふとした拍子に捻挫をされたんです。僕は東京に帰ろうとされるのを引き止めて、大阪のホテルに一泊していただきました。

 

先生がお風呂に入られた後、ふと見たら胴巻きに何かを縫い込んである。「何ですか」とお聞きしたら「これは僕が生まれた時から、今日までずっと持っている観音様だよ」と。 

 

というのは、先生がまだお母さんのお腹の中にいる時に、姫路の名刹・書写山円教寺にお父さんがお参りをされたんですね。祈りを込めておるとバーンと眉間に当たったものがある。ふと見たら小さな観音像だ。住職に話すと「それはあなたに与えられたものだろう」というので、お父さんはそのまま持ち帰られた。 

 

〈荒井〉
安岡先生は生まれてから肌身離さず、その観音像を持ち続けていらっしゃったのでしょうか。 

 

〈伊與田〉
亡くなる時も身につけておられましたから、きっとそうだと思います。 

 

そんなこともあって、僕は一度、先生と二人で書写山にお参りに行ったことがある。本堂の真ん中に座って「父はここでお祈りを捧げたのだろうね」と実に感慨深くおっしゃったことが、いまでも懐かしく思い出されます。 

 

〈荒井〉
感動的なお話です。 

 

〈伊與田〉
山を下りた時、先生がお見えになったからというので姫路の有志が懇談会の場を持ってくれました。僕は急用ができ中座しましたが、宴が終わって皆さんが揮毫をお願いされたそうです。 

 

その時、先生が僕にもと言って、お銚子に書いてくださった言葉が、この「壺中の天」なんです。盃には「天下を大笑す」とありました。どちらも大切に持っています。 

 

〈荒井〉
これも面受のお弟子さんである伊與田先生からでなくては聞けないお話です。

 

 


(本記事は月刊『致知』2011年7月号 特集「試練を越える」より一部を抜粋・編集したものです)

 

 

 

 

◇伊與田覺(いよた・さとる)
大正5年高知県生まれ。学生時代から安岡正篤師に師事。昭和15年青少年の学塾・有源舎発足。21年太平思想研究所設立。28年大学生の精神道場有源学院を創立。32年関西師友協会設立に参与し理事・事務局長に就任。その教学道場として成人教学研修所の設立に携わり、常務理事、所長に就任。62年論語普及会を設立。著書に『「人に長たる者」の人間学』『「大学」を素読する』『人物を創る人間学』『安岡正篤先生からの手紙』、編著に『論語一日一言』(いずれも致知出版社)など。

 

 ◇荒井桂(あらい・かつら)
昭和10年埼玉県生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)文学部卒業(東洋史学専攻)。以来40年間、埼玉県で高校教育、教育行政に従事。平成5年から10年まで埼玉県教育長。在任中、国の教育課程審議会委員並びに経済審議会特別委員等を歴任。16年6月以来現職。安岡教学を次世代に伝える活動に従事。著書に『安岡教学の淵源』(致知出版社)『新・立志ノススメ』(邑心文庫)。

 

 

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