「最後まで幸せだったと思える人を増やしたい」──閉鎖寸前の志摩市民病院を救った若き医師の〝原点〟 | 致知出版社公式アメーバブログ

 

 

 

 

毎年流れる億単位の赤字、医師の一斉退職……閉鎖やむなしと思われた志摩市民病院を救ったのは、一人の若き医師でした。「世界平和」という壮大な夢を真剣に描き、地域医療に身を投じた志摩市民病院院長・江角悠太さん。「すべての人を幸せにしたい」との思いを胸に困難を乗り越え続けてきた江角さんに、その原点となった出来事について語っていただきました。

 

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■人生の「最後の10年」を 診る理由

〈江角〉
ある日、70代の女性患者さんが肺炎で入院してきたのですが、重症で今晩にも亡くなるかもしれないという状態でした。既に心臓が2回止まってマッサージで何とか延命していたんです。

 

だけど、これ以上マッサージをすれば肋骨が折れて肺に刺さって吐血することになる。医療処置が相手を傷つけることほどしんどいことはなかったのですが、「それでもいいからやってください」と息子さんに懇願されました。

 

ところが、数時間後病室に行くと息子さんがいない。パチンコをしていたんです。私は「母親の命を何だと思っているのですか」と思わず叱りつけました。すると今度は「奄美大島にいる妹に最後に会わせたい」と言うわけです。

 

妹さんに電話をすると「娘のピアノの発表会があるから行けません」とそっけない返事がかえってきましたが、それでも息子さんは「妹が来るまでマッサージを続けていてほしい」と、聞き入れようとしませんでした。

 

夜行の船でようやく妹さんが駆けつけてきたのは翌朝の6時。すぐに病室に通して、お母さんに会ってもらいました。

 

驚いたことに、妹さんが「お母さん、お母さん」と呼ぶと、それまで全く反応しなかったお母さんが、両目から涙を流しました。そして、その10秒後に心臓が止まって亡くなられたんです。それを見て私は、大きな間違いをしたなと思いました。

 

 

──間違いを?

〈江角〉
ええ。こちらが正しいと思う医療をずっと押しつけていたことに気づいたんですね。

 

母親が最後に娘に会いたいと願うのも、それまで何とか生きていてほしいという息子の願いに応えようとするのも母親として当然です。しかし、そんな患者本人の気持ちを私は考えませんでした。

 

いくら寝たきりで意思疎通が図れなくても、本人の思いを推測しようと努力すべきでした。私たちの経験や理論を押しつけ、挙げ句の果てに怒鳴り声まで上げてしまった。これは医療人として最悪だなと思いました。

 

80代、90代の高齢の患者さんは医学だけでは太刀打ちできない様々な問題を抱えています。この人生最後の10年、医者が積極的に介入することで、最後まで幸せだったと思える人を増やしたいと、この時から思うようになりました。

 

 

 


(本記事は月刊『致知』2021年12月号 特集「死中活あり」より一部抜粋したものです)

 

 

 

◇江角悠太(えすみ・ゆうた)
昭和56年東京都生まれ。平成21年三重大学医学部卒業。沖縄県中部徳洲会病院での初期研修を修了後、23年より後期研修医として三重県内の地域基幹病院、大学病院で研修。26年12月より国民健康保険 志摩市民病院に着任、28年4月より同病院院長に就任。全国自治体病院協議会三重県支部長。地域包括ケア病棟協会理事、TAO(地域創生医師団)団長、未来の大人応援プロジェクト理事、東京医科歯科大学臨床准教授、三重大学医学部臨床講師。

 

 

 

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