ええ大人になってから着付け教室に通い始めたのですが、
特になんの目標もなくダラダラしていたら、ついに資格を取るように仰せつかりました。
金だけ払えばいいのかと思っていたら、テストと作文がありました。
400字詰め手書き原稿用紙と向き合って書いた作文をここにデジタル化して残しておきます。
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「着物がようけ出てきた」
母が祖母の持ち物から見つけた“箪笥の肥やし”が、私が着付けを習うきっかけだった。
祖母の着物姿は見たことがないが、母や叔母は着物が入ったたとう紙を開けながら
「お正月に着とったね」「これ私に作ってくれたのだわ」と記憶をたどる。
やっと着られるようになり、度々、介護施設に見せに行った。
「この着物覚えとる?」と聞くと、認知症の祖母はにこにこしながら「わからん」と答えた。
祖母の葬儀は着物の喪服で出席した。
紋からすると少なくとも曾祖母以前の年代物。
丈が短くて、着るのはひと苦労だった。
昔の人は小さいんだなあ。
和やかな雰囲気の葬儀も、お別れが近づくと涙があふれ
拭ったティッシュを丸めて袖に入れた。
おや、何か入っている。
取り出すとそれは、黄色く変色したゴワゴワのちり紙。
何十年前も同じように泣いたのかあ。
入れっぱなしのずぼらさに血縁を実感した。
着物は家族の記憶が宿る。
きっとこれからも、祖母や母の新しい思い出を知るだろう。
まるで着るタイムマシンのように。