浅草で見た喜劇で脳に浮かんだあれこれ【観劇・浅草21世紀】 | おたるつ

おたるつ

モノホンのおたくにジャンルは関係ねえはずだ!
ってわけで、おたくのるつぼ。略しておたるつ

 

浅草にある寄席「木馬亭」へ足を運ぶのは3度目。

いずれも劇団「浅草21世紀」の喜劇を見るのが目的だった。

推しグループが歌のステージに出るから、というのもあるが、昨年初めて見て以来

体全部を使うパワフルな役者さんたちと、爆笑の中にある優しさや温かさに心つかまれとりこになった。

 

毎回、物語はいたってシンプルで分かりやすい。

そこにガンガン笑いを詰め込み、アドリブで変化をつけてくるのだが、

今回は登場人物たちの動機づけがあまりに素晴らしく、ガッツリ感情移入。

2公演見て2公演とも大笑いのち最後は泣いてしまった。

 

今日で観劇から5日経っているのにまだ頭の中で「あれがよかったよなあ~」と

ひとりごちるので、いっそ書き出しておくことにした。

 

タイトルは「てんてこ舞い物語」。あんまり内容と関係なかった。

父親の7回忌に久しぶりに東京から実家に帰った長男のケンイチと次男のユウジロウは、

それぞれの活躍を母に自慢するが、田舎で暮らす妹のミカには冷たい態度をとる。

そこへケンイチを訪ねて男がやって来る。男の正体は借金取り。

東京で成功しているというのは嘘で、ケンイチは豪農だった父の遺産で借金を工面しようと考えていた。

次男のユウジロウも金に困っていることを明かすが、母は父の遺産はないと2人を突き放す。

そんな兄2人に手を差し伸べたのはミカ。

地道に貯めた花嫁貯金を「きょうだいが幸せになるなら」と快く差し出す。

きょうだい仲もよくなりそうでめでたしめでたし。

 

という話なのだが、いや、全然よくない。

兄2人勝手すぎだし、ミカお金とられてかわいそうすぎる。

途中までなんでミカにこんな冷たいんだよ、納得いかね~と思って見ていた。

ところがこれが兄嫁・コミチがうまい役どころになっていて、不仲の理由や納得いかないポイントで

うまいこと質問したり怒ったりしてくれる。

きょうだいたちがいない時を見計らい、母に尋ねる。

 

コミチ「どうしてミカさんをいじめるようなことをするのでしょう」

わたし(本当だよ、全然納得いかね~わ!)

母「父がミカをかわいがったから」

わたし(な、なんと……)

この3きょうだいの不仲の背景には、強烈な田舎あるあるがあったのかー!!

きょうだいの垣間見える背景をくみとると、言動・行動への動機付けが素晴らしくて唸ってしまう。

それはそうなりますわ!! 納得!!と。

 

ここからはわたしの脳が想像したことです。

 

じいやもいるほど豪農だった3きょうだいの家。

跡継ぎとしてきっと、長男ケンイチは父に厳しく育てられたのだろう。

そして次男ユウジロウ。何かと長男と比べられることも多かったのではないだろうか。

跡継ぎじゃない、でも劣っているわけじゃない。

ユウジロウがそんなふうに感じていたなら、東京で出世した輝かしい自分を見せようと

兄と張り合うように嘘を重ねてしまうのも納得がいく。

 

妹ばかりかわいがる父への反発もあり、家を出たケンイチではあるが

“よくできた跡取り息子”という期待を受けての上京だったと想像する。

亡き父は「東京へ勉強しに行かせている」などと自慢げに周囲に話したかもしれない。

「東京へ行ったんだってね、すごいねえ」「さすがアダチさんとこの跡取りだねえ」なんて

田舎に帰ってくるたび言われたら、本当のことが言えずに見栄を張ってしまう気持ちも分かる。

 

わたしは田舎から進学を機に上京し、その後なんやかんや都落ちして来た身なのだが

田舎における「東京へ行った」パワーはものすごい。

誰が広めているんだかよく知らない人にまで「東京の大学へ行ったんでしょ、すごいわ~」と言われ

田舎で働こうと履歴書持って面接へ行けば「東京で働いてた人はうちじゃ物足りないんじゃないの」と

言われる。

ケンイチの嫌味な物言いも、うまくいかなさ必死に隠して“東京から帰ってきた長男”でいようとする

ものだとしたらいじらしい。

 

そしてミカ。亡き父は末娘がかわいかった。

ミカはお嫁さんになることに憧れ、それが幸せだと信じている。

これが育った環境に影響しているとしたら、ミカはこんなふうに言われて育ったのではないか。

「ミカはいつかお嫁さんになって、この家を出ていくのよ」

長男が家を継ぎ、他のきょうだいは家を出ていく。女は嫁に行く。THE田舎。

父はいずれ出て行ってしまうミカを、自分のもとにいる間は…と、ことさらかわいがったのかもしれない。

 

そんな思いを知る由もないケンイチには、自分に厳しく妹に甘い不平等な父親だと感じただろう。

ミカに対して「おまえは関係ない」と言い切れるのも、この家はいずれおれのものだが

おまえはこの家の者じゃなくなるだろう、という意識があってこそな気がする。

東京に出てもマインドは田舎者なんだよな、ケンイチ…。

 

しかしせつないのが、兄2人が「俺の実家は豪農だZE~」を誇りにし、遺産をあてにしているのに

冒頭のミカは「お嬢様なんて、今は普通の農村だよ」と言う。

田舎に残ったミカだけが、実家の状況を的確につかんでいる。

そうそうそうそう、田舎にいないと分かんないことってあるよね~~~~!!!!

と、ここでもまた田舎あるあるが発動してもだえた。

 

ユウジロウが「お金がなくて結婚できない」と言うのに対し、花嫁貯金を渡したミカが

式は家で、花嫁衣装は貸衣装にすると軽々と決めていくのも地に足がついた強さがあっていい。

それを恋人のカンイチが「地味婚にするんだね!」とあっさり受け入れたのが気持ちよかった。

田舎で生きると決めた2人が、実は一番、家とか田舎って呪いから解放されている。

そう気づいた時、なんて清々しいハッピーエンドだろうと思って感動した。

 

さらに救いがある。

父が遺した土地を売って残ったお金で、母は家を直したと言う。

なんのために家を直したのだろう。

老いていく自分のためにバリアフリーにした? もともと家が古くて直す必要があった?

いや、ミカが出ていく前提なら、老い先短い自分がひとり住む家を遺産を使ってまで

長く住めるようにしないのでは…。

 

母(両親)は兄2人の嘘を見抜いていたのではないか。

家を直したのは、2人が戻ってきてもいいように、という親心じゃないだろうか。

あんたたち…お母ちゃんとお父ちゃんにようお礼言うんやで!!!(あんた誰)

もうこれ涙が止まりませんよ。

 

喜劇で笑いがメインではあるんだけど、屋台骨となる筋がこれだけテーマを持っていて

セリフひとつひとつ全部繋がっていて重要なこと言っていて、す、すごい。

物語を説明するセリフは決して多くはないからさらにすごい。

こりゃもうどれだけアドリブ盛っても、おもしろメイクしてきても根っこが揺るぎないですわ。

本に凄まじい力がある。マジすげえ、浅草21世紀。

 

毎回、役者さんたちに圧倒されて見終わると「筋トレしよ…」って思うんですけど

わたくし今回、リストウェイト買いました。

手首につける重りですね。消費カロリーアップと上半身の筋肉を付けようと思いまして…。

パワーのもらい方が独特で申し訳ないんですけど、負けらんねえ~となりました。

 

欲を言えば今回、新型コロナ感染状況から昨年大病を患った大上座長が断腸の思いでお休みに。

見たかった…! この役がもともとこうでああでそうでしょ、うわ~座長いるバージョンだったら

どんないじり方するんだろ~見たい~~キーッ!!コロナのバカ!!

頭の中では座長いるバージョンの妄想公演が同時上演ですよ。

借金取りとケンイチのシーン全然違っただろうなあ…いじくり倒される借金取りも見たかった!!

そんなわけでまた見に行きたいと思います。