裁判事例   自殺物件の価額と瑕疵担保責任 |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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裁判事例
自殺物件の価額と瑕疵担保責任
     

浦和地裁川越支部判決 平成9年8月19日
(判例タイムズ 960号 189頁)

《要旨》
 建物価額を加味しないで売買価額が定められ、建物の瑕疵担保責任の免責特約がある場合でも、同物件で縊首自殺のあったときは、売主は瑕疵担保責任を負うとされた事例

 

(1) 事案の概要
 買主Xは、平成6年12月、売主Y1から土地を、Y2(Y1の母)から建物を、総額7,100万円で買い受け、代金を完済して、平成7年4月に引渡しを受けた。
 しかし、引渡しを受けてから5日後、本件建物でA(Y1の父、Y2の夫)が平成6年7月に首吊り自殺をしていたことが判明した。
 Xは、平成8年1月、Bに対し、本件建物を撤去して、本件土地を6,300万円で売却した。
 Xは、Yら(Y1及びY2)に対し、不動産に隠れた瑕疵があったとして、売買契約を解除して損害賠償を請求し、Yらは、あえて本件不動産を土地だけの価額相当額で売却し、特約として「売主は、本件建物の老朽化等のため、本件建物の隠れた瑕疵につき一切の担保責任を負わないとする」を付したものであると主張した。

(2) 判決の要旨
 (ア)本件売買契約締結にあたっては、土地建物は一体として目的物件とされ、その代金額も全体として取り決められ、本件建物で自殺のあったことは交渉過程で隠されたまま契約が成立したのであって、同事実が明らかになれば、価格の低下が予想され、かつ、本件建物が居住用で最近の出来事であったことからすると、民法570条にいう隠れた瑕疵に該当し、かつ、このような瑕疵は特約の予想しないものとして、Yらの責任を免れさせるものではない。


 (イ)Yは、Xに対し、本件売買契約における同不動産の代金額と瑕疵の存在を前提とした適正価格との差額893万円余を損害賠償として支払え。

 

(3) まとめ
 本件は、Aの自殺後5ヵ月経過した時点での売買であり、自殺に係る建物は、その価額を考慮されなかったが、撤去することなく、そのままで売却されたものである。
 過去においても、自殺のあった物件そのままでは、隠れたる瑕疵があるとされた裁判例があり、心理的影響からすれば、建物価額を加味しなくても、土地建物が一体として売買の目的とされた以上、責任を免れないということであろう。