いつの何を思い出しているのかはわからない。
音楽を聴いた時、ふと見た風景や光の加減、その空気だったり。そんな何気ない瞬間に、胸が締め付けられることがある。
何かを思い出しているような気がする。
けれど、それが何なのかはわからない。
映像として浮かぶわけでもなく、言葉として説明できるわけでもない。ただ、どこかに置いてきた感情だけが突然現れる。
人は出来事そのものよりも、その時に感じた感情を長く記憶していることがあるらしい。
だから音楽や匂い、風景などをきっかけに、記憶の詳細ではなく、その時の感情だけが呼び起こされることがあるという。
年齢を重ねるほど、このような感覚は増える。記憶が増える一方で、もう戻れない時間も増えていくから。
その言葉に妙に引っ掛かった。
戻れない時間。
記憶の中には、鮮明に残っているのに既に20年、30年前のことだったりする。
ついこの前のことのように思えるのに、実際には途方もない時間が過ぎている。
当時の景色も空気も覚えている。
その頃の自分も、自分の中では今の自分と地続きだ。
遠い過去の誰かではない。
それなのに現実を見ると、30年、あるいは40年近い時間が流れている。
その落差に愕然とする。
若い頃、30年後というのは想像もつかないほど遠い未来だった。
しかし気がつけば、自分はその未来の側に立っている。
そして時折、音楽や風景に触れた瞬間、その事実を突きつけられる。
胸が詰まるのは、何か特定の出来事を思い出しているからではないのかもしれない。
ただ、過ぎ去った時間の長さだけが、突然現実味を持って迫ってくる。
そんな気がする。