2025年5月のテーマ

「私のあこがれの女性」

 

第二回は、

「パディントン発4時50分」

アガサ・クリスティー 作、松下祥子 訳

早川クリスティー文庫 2003年発行

 

に登場する、

 

ルーシー・アイルズバロウ

 

です。

 

 

 

ミス・マープルで、クリスティー作品の中でも屈指の名作の一つと言っていいでしょう。

日本でも2018年に二夜連続ドラマが放送されました。

ミス・マープル役(…と言っても現代の日本に置き換えたドラマなので、このドラマでは元敏腕刑事の妙齢の女性・天野瞳子)は天海祐希さん。素晴らしい女優さんだと思いますが、ミス・マープルというキャラクターを無視して美しい女性に変更してあったことが、クリスティーファンの私にとっては残念ながら許容範囲外でした。

で、ルーシー・アイルズバロウ役は確か前田敦子さんだったと思います。(調べてみたけど役名を見つけられず…。)

こちらもキャラクターが全然違っていたので、ストーリーがほぼ同じでも私には全く別のドラマに見えました。

別物としてみれば特に不満を抱かずに楽しめました。

 

前置きが長くなりましたがあらすじを。

マギリカディ夫人は友人のミス・マープルを訪ねるために乗ったパディントン発4時50分の列車で、窓越しに殺人事件を目撃します。折しも大きなカーブに差し掛かり、隣の線路を走っていた列車と自身の列車がちょうど並んだ瞬間のことでした。

やがて二台の列車は離れてゆきますが、マギリカディ夫人は自分の目撃した出来事を黙殺するような人物ではなかったので、停まった駅の鉄道関係者や警察に自分が見たことを伝えます。もちろん、ミス・マープルにも。

ところが列車の中で遺体が発見されることはなく、ミス・マープルは殺人犯がどこかの地点で遺体を列車から投げ落としたに違いないと思い、その地点を見つけ出します。

大きな敷地に建つ古いお屋敷の関係者が怪しいとにらんだミス・マープルは、自分の代わりに事件を調べてくれるようルーシー・アイルズバロウという凄腕の家政婦に頼み、彼女はお屋敷に潜入することになります。

 

この、ミス・マープルの手足となって情報を集める凄腕家政婦さんが、私のあこがれの女性の一人です。

情報を補足しますと、ルーシー・アイルズバロウは32歳。オックスフォード大学の数学科を一級で卒業した才女で将来は学者になるだろうと思われていましたが、本人は人間に興味があり、人と接する仕事がしたかった。また、熟練した家事労働者が不足しているという現状も見抜いていた。そこで彼女は素晴らしい家事労働者になる道を選んだ、というわけ。

彼女は成功し、法外な給料をとるかわりに家事采配において必ず雇い主を満足させるハウスキーパーとして有名になります。客を選べる身分になってからは、長くても2週間から1か月しか同じ所には勤めず、仕事と仕事の間には必ずバカンスの期間を設けます。

ミス・マープルは病気になった際に甥のレイモンドがルーシーを雇ってくれたことで彼女と知り合いになりました。

頭が良くて、好奇心も旺盛なルーシーはバカンス返上でこの事件に取り組むことにするのでした。

 

彼女の何にあこがれるって、まずは家事の腕前です。

雇われた先で使用人に采配を振るうのみならず、人手が足りない時は自らすすんで家事をします。料理上手で、台所の手伝いに来ている気難しい女性とも仲良くなってしまうコミュニケーション力。仕事が早いので、余暇の時間を使って調べものもできちゃう。

現実にはこんな人いないんじゃないかと思うほどのスーパーウーマンです。

でも、そう思うのは私が家事の手際が良くないからかもしれません。料理上手な人は尊敬します。几帳面な人もすごいと思う。

ともかく、お屋敷に雇われたルーシーが能力を遺憾なく発揮する様子が書かれているので、人から感謝されるほど手際よく家事を片づけてみたいもんだわ~と思うのです。

 

次に、頭が切れるところ。

事件の調査をしながら、大勢の客が滞在するお屋敷の家事の段取りを楽々こなしちゃう。

複数のことを同時に進めていけるマルチタスクな頭脳は私にはありません。

ミス・マープル物では、他の人が主人公でミス・マープルが助言して最後には事件が解決するという作品がいくつかありますが、"ミス・マープルと共同で捜査に当たる探偵"というのはこの人だけかもしれません。それだけでもう、うらやましい。

「書斎の死体」「鏡は横にひび割れて」バントリー夫人もミス・マープルと一緒に捜査しますが、情報を持ってきて「さあ、あとは頼んだわよ、ジェーン。」というタイプなので、探偵ではないんですよね。

 

あと、ルーシーは作中でモテモテなんですけど、人間的にも魅力があるので、さもあらんという感じです。

もっとも、モテモテなのはルーシーを懐柔しようという思惑からかもしれないので、彼女自身は警戒しています。

中学生くらいの少年二人が作中に登場しますが、彼らにも優しい。

好物を作ってあげたり、手伝いをさせたり、母親か姉のように接しています。

 

ただ、スーパーウーマンな彼女もミス・マープルにはかないません。二人の会話では、リードしているのはミス・マープル。そういう場面では彼女に人間味を感じて、それもまた良かったりします。

 

ルーシー・アイルズバロウは、頭が切れて家事の腕前が一級品、気難しい人ともうまく付き合えて、お金も稼いじゃってるスーパーウーマンです。しかも、自分の仕事に満足しています。

こういう人になりたいなーと思います。

あ、そうか。自分と真逆だから憧れるのか。

それとも、"ミス・マープルに認められた女性探偵"というのが大きいかもしれませんね。

小説自体が有名すぎて、アニメ化やドラマ化、映画化とたくさん作られているので、作品ごとにルーシーのキャラクターはちょっとずつ違うと思います。

私があこがれているのは原作小説のルーシー。

話はもう知っているという方でも、ルーシーのキャラクターに注目して原作をチェックしてみてはいかがでしょうか。

「パディントン発4時50分」おすすめいたします。(*^▽^*)