2025年1月のテーマ

「新年にもクリスティーを!」

 

第一回は、

「書斎の死体」

アガサ・クリスティー 作、山本やよい 訳、

早川クリスティー文庫 2004年発行

 

 

 

 

です。

 

 

前回の記事で宣言したとおり、今月はミス・マープルしばりです。

まずはあらすじから・・・。

退役大佐で地方行政官のバントリー大佐の書斎で、見知らぬ女性の遺体が見つかります。バントリー夫人はすぐさま友達のミス・マープルに連絡し、事件の謎を解いてほしいと頼みます。程なくして女性は30キロも離れたところにある<マジェスティック・ホテル>と関係があると判明しますが、なぜそんなに遠くのホテルの見たこともない女性がセント・メアリ・ミード村の名士である大佐の書斎で遺体となって見つかったのか…。華やかなホテルとセント・メアリ・ミード村でミス・マープルの推理が冴えわたります。

 

「書斎の死体」は、ミス・マープルの長編第一作目「牧師館の殺人」から十二年後に書かれた長編第二作目です。

ミス・マープルと言えば老嬢…すなわち、オールド・ミスのおばあちゃん(ミス・マープル物の作中でこのような説明になっています。今の時代だとオールド・ミスという表現自体問題ありだと思いますけど…。)なのですが、シリーズの前半頃はまだまだ元気いっぱいで、「書斎の死体」ではバントリー夫人と一緒に<マジェスティック・ホテル>に滞在して直に聞き込みをしたり、村でもあちこち出かけて行ってます。

 

この作品では何といっても冒頭のインパクトが強いです。

朝目覚めたら、書斎に知らない女性の遺体があって、発見したメイドは泣き出すわ警察には質問されるわバントリー大佐夫妻にはとびっきりのトラブルが降りかかるわけです。

 

そのうえ、死んだ女性と大佐の関係を疑うような噂話や憶測があっという間に広まっていきます。

自宅に知らない人間の死体が出現しただけでも訳が分からないのに、このままでは大佐の名誉まで地に落ちてしまう…。そんなことは絶対に許さない、とミス・マープルに助力を願うバントリー夫人の決意が見事というほかありません。

 

ホテルにいた女性の関係者たちは皆それぞれに怪しく、アリバイ崩しも難しいですが、いつもながら些細なことに対するミス・マープルの気づきが真相解明に生かされていて、ミステリーとしてとても面白いです。

ちょっと脱線しますが…この些細なことへの気づきが事件解決に役立つというのが、かつて人気を博した市原悦子さん主演の二時間ドラマ「おばさんデカ 桜乙女の事件帖」シリーズでもよく見られ、私は好きでした。(わかる方いらっしゃいますかね?)そもそも市原悦子さんが好き。桜乙女のかわいらしさはミス・マープルと通じるものがあります。

 

また、死んだ女性に対する登場人物それぞれの気持ちの描写や、ミス・マープルが下す人物評などが読んでいて面白く、ドラマとしても興味深いし、割と軽くすいすい読めてしまいます。あと、1940年代のリゾートホテルの雰囲気が感じられるのもいいです。夕食の後はバーで一杯やったりブリッジ(カードゲームの一種)をしたり、ダンスを踊ったり…ブリッジやダンスの相手をするスタッフがいたというのも、私の知っているホテルにはない事だったので、新鮮でした。(時代に関係なく高級リゾートホテルではそういうものなのかもしれませんが、私は旅行といえば日本の温泉という人生を歩んできたのでそういう場所には縁がありませんで・・・。)

 

ミス・マープル物では、ミス・マープル自身はアドバイザーとして事件を解決する作品も多いんですが、最初に書いたように、この作品では彼女自身が動き回って捜査しているところが私としては楽しいです。

あっと驚く事件と、鮮やかな解決。「書斎の死体」にはその両方がそろっています。おすすめいたします。(*^▽^*)