2024年6月のテーマ

「暮らしを見直したくなる本」

 

第三回は、

「ダイエットクラブ5 とんでもないパティシエ」

J・B・スタンリー 作、武藤崇恵 訳、

RHブックスプラス、2011年発行

 

 

です。

 

このダイエットクラブシリーズは、アメリカで大人気のコージーミステリーシリーズだそうです。

それを言うと、前回のお茶と探偵シリーズもそうなんですが…。

他のコージーミステリーの作品を読んでいるときに、その作品の主人公がダイエットクラブシリーズを読んでいるシーンが描かれていたこともあります。作者は別の方なので、多分このシリーズが好きなんだろうなと思い、勝手ながらシンパシーを感じました。

私も大好きなので、これまでにも何度かシリーズの作品をブログに書いたことがあります。

 

 

 

 

それはさておき、あらすじとまいりましょう。

まず、シリーズの前提から。

主人公のジェームズ・ヘンリーは小さな町の図書館の館長をしています。

都会の大学で教授として働いていたジェームズは、妻の裏切りで離婚を経験。程なく母が亡くなり、一人暮らしになった父親の面倒を見るために故郷に帰ってきます。父親は体が悪いわけではないのですが、優しかった母が亡くなってから気難し屋に拍車がかかり、誰にも会わずに家に閉じこもりきりになってしまったので、一人息子のジェームズはほっておけなかったのです。

シリーズ第一作目の物語はここから始まるのですが、この時点で様々なストレスからジェームズの体重は人生史上最高値を記録。それまでの人生で獲得してきたすべてのものを手放した状態で昔の子供部屋に戻ってきた彼は自分を負け犬と思っていました。そんな彼がダイエットをしたいという仲間たちとサパークラブの活動に参加。サパークラブとは、料理をしながらおしゃべりを楽しむクラブのことで、ワインを楽しむクラブだとか、特定の目的に絞ったものもあるそうです。彼らの場合は、ダイエットに役立つ料理を持ち寄って一緒に痩せようというわけ。

そのサパークラブの仲間同士のことを自分たちで<デブ・ファイブ>と名付けて親交を深めるうちに、殺人事件に関わってしまい、みんなで協力して事件を解決に導く…というシリーズです。

 

今作品は、そのシリーズの第五弾。

<デブ・ファイブ>のメンバーたちの状況も第一作目からは大分変化があり、ジェームズは父親の再婚に伴い、家を出ることにします。ジェームズの父親たちは、クリスマスに結婚式を挙げる予定で町に新婦の親戚たちが集まることになります。

新婦の妹が有名なパティシエ…というか日本でいうところの料理研究家で、テレビでお菓子作りの番組を持ち、レシピ本も出版しているという、マーサ・スチュアートばりのセレブで別名"お菓子の女王"。"姉の結婚式でウエディングケーキを焼くためにわざわざこんな田舎町に来てあげた"という態度の高慢な女性で、彼女の周りは敵だらけ。"お菓子の女王"の変死により、またもや<デブ・ファイブ>が力を合わせて犯人捜しをする…というお話です。

 

このシリーズでは毎回、前作からジェームズを取り巻く人間関係が変化していって、彼の周囲がにぎやかに、しかも居心地よくなっていくので、読んでいてとても前向きな気持ちになれる作品です。

 

<デブ・ファイブ>のメンバーたちも、郵便配達人のベネットは長年の夢であった"ジョパティ(アメリカのクイズ番組で優勝すると賞金がもらえる)"に今作で出場しますし、高校の美術教師であるリンディは恋人(一作目ではいなかった)との関係に悩み中。ナチュラルなものやスピリチュアルなものが大好きな動物愛護家のジリアンは作品を重ねるごとにビジネスの才能を発揮してきましたが、今作では意外な方向で人生が充実しそうな流れが来ます。ジェームズが一作目で心を奪われた保安官事務所の事務方で働いていたルーシーは試験に合格して事務方を卒業し、今では現場で働いています。ルーシーが正式に法執行機関の人間になったことで、これまでのように何でも<デブ・ファイブ>のみんなと情報共有するわけにはいかなくなってしまったことも、<デブ・ファイブ>にこれまでにない変化をもたらします。

最後にジェームズは、これまでに恋愛もうまくいったりいかなかったりと、読んでいる方からするとやきもきさせられてきましたが、今作では実家を出て自分の家を手に入れるという大きな生活の変化とともに、もっとビックリなビッグサプライズもあって、本当に人生が一変します。

 

というわけで、この本がなぜ"暮らしを見直したくなる本"なのかと言いますと、ジェームズの生活が一変する作品であり、ジェームズ自身がその大きな変化をとてもポジティブにとらえているので、なんだか変化というものが楽しく感じられるからです。

 

家を買う、というのも、前回書いた記事のセオドシアのように理想の家にほれ込んで、買えるかどうかは別として自分ならではのインテリアとは…と夢想するのではなく、とても現実的。

引っ越すことは決まっていて、新しい住まいを探している。古くてもいいから、できれば一軒家で家庭菜園とかしてみたい。予算の範囲内で買えるところ。両親に新婚旅行をプレゼントしたいし、家を買ったら貯金はほぼなくなってしまう。

などなど…前提条件があって、不動産屋さんの売り上げナンバーワン営業だという担当者が不本意な物件を提示してきてもそれはNO!と妥協はしない。

たまたま持ってきてくれた物件が気に入って、買うことを決断。手に入ってからは懐は寂しいながらも自分で壁の色を塗り替え、必要な家具を買い、友達からは新居に必要なものをプレゼントとしてもらい、とりあえず生活できそうに整った家に引っ越すところまでこまごまとしたことが描かれています。

 

本筋の事件も新しい母親の親族が被害者ということで、ジェームズにとってはいつも以上に身近なところでおきた殺人事件ですし、彼の人生も大きな転機を迎えていて、大忙しだなあという感じではありますが、<デブ・ファイブ>の面々や図書館で働く双子のスコットとフランシス、街の住民たちとのやり取りにいつもながらほっこりさせられます。

この作品を読むと、第一作目でジェームズが自分を負け犬だなんて考えていたことが嘘のようです。

ただ、ダイエットに関しては大成功とはいかないようですが…。

私にとって、"暮らしを見直す"ということは、"日常に何かポジティブな変化をもたらしたい"ということに近いようです。

 

健康診断なんかで、あまり良くない数値が出た項目があったりすると、「生活を見直す」必要が出てきます。

そういう時の「生活を見直す」というのは、「悪しき習慣をなるべく排除し、健康に良い習慣を取り入れよう」というような習慣の改善を求める言葉であり、"悪しき習慣"が自分にとって魅力的であれば、この言葉はネガティブに聞こえてしまうと思います。

今回のテーマでいうところの"暮らしを見直す"、というのは、そういうこととはちょっと違うな、と書いていて思いました。

 

あと、この作品のことを書くなら是非とも書いておかなくてはいけないのが、作品に登場する食べ物の数々がおいしそうなこと。

と言っても、前回の"お茶と探偵シリーズ"みたいにお店で出されるスイーツやキッシュ、スープといったメニューとはちょっと違います。

ジェームズが日常生活の中で口にするごく普通の食べ物…サパークラブで持ち寄るダイエットにいいとされる食べ物から、新しく母親になるミラお手製の家庭料理、アイスクリーム屋さんの新作メニューに、近所のご婦人たちが持ってきてくれたキャセロール、我慢できずに自動販売機で買ったスナック(チートス)、そして今回はお菓子の女王の作ったケーキまで。

おいしい物大好きなジェームズですから、それこそ食べ物の描写はたくさんあります。

ちなみに各章のタイトルはその章に出てくる食べ物の名前(カロリー付き)になっているのもこのシリーズらしくていいです。

 

食べ物の誘惑と戦いながら、殺人事件を解決し、作品が進むごとに登場人物にも変化が感じられるダイエットクラブシリーズは本当に面白いです。

ミステリーとしても面白いし、登場人物の会話や日常描写も読んでいて楽しい。

ダイエットクラブシリーズをもっと皆さんに知ってほしいです。おすすめいたします。(*^▽^*)