2023年10月のテーマ

「映画を観て連想したクリスティー作品」

 

第一回は、

「ハロウィーン・パーティ」

アガサ・クリスティー 著、中村能三 訳、

早川クリスティー文庫、 2003年 発行(2023年 新訳版発行)

 

 

 

 

です。

 

今月のテーマでいうところの"映画"とは、先月公開された、「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」です。

 

「ハロウィーン・パーティ」はこの映画の原作ということになっていますが、内容は全く別物…という話は前回書きました。

 

 

では原作の方ってどんな作品なのか、ということで、あらすじとまいりましょう。

推理小説家のアリアドニ・オリヴァ夫人が友人の家に滞在中、地元のハロウィーンパーティに参加した際、パーティの最中に少女が殺害されます。りんご食い競争用のバケツで溺死させられていたことから、自殺でも事故でもないことは明らかでした。自分の身近で子供が殺されてしまったことがショックで、彼女はポアロに事件を解明してほしいと頼みます。

生前の少女の言動から、原因は村で起こった過去の犯罪に関係があるとにらんだポアロは、過去へ遡って調査を開始します。

 

映画をご覧になった方には言うまでもないことですが、事件の舞台も背景も登場人物たちでさえ全くの別物になっています。

それでも、登場人物の名前はこの作品からとってありますし、アリアドニ・オリヴァ夫人も出てきます。

ハロウィーンパーティの会場で人が死ぬという設定も関連付けてあるなと感じます。

劇中でりんご食い競争のバケツ?で人が襲われるシーンがあって、原作を知っている人にはニヤリポイント(思わずニヤリとしてしまうポイントという意味でつかってる私の造語です。)かもしれません。

もはや原作との違いではなく共通点を探すという映画でした。それもまた楽し。

 

それはともかく、原作の方の話に戻りましょう。

この作品では少女が被害者という痛ましい事件が起点となって過去の事件の真相が暴かれていきます。

基本的に地味な聞き込み捜査のシーンばかりですが、会話によって情報の真偽をより分けていくポアロの手腕が光ります。

全く関係がないと思われていたばらばらの事件が微妙に関係していたりして、ストーリーとしては複雑にも感じますが、面白い作品です。

 

あと、イギリスのハロウィーンパーティで一般的なゲームというのが面白いです。

りんご食い競争はバケツにりんごを浮かべて手を使わずに口でりんごをつかむ速さを競うゲーム。

スナップドラゴンは、トレイの上にブランデーを流し火をつけ、その中に置いてある干しブドウをつまんで取る遊び。(火傷しそう)

小麦粉ゲームは、コップに小麦粉を入れて固め、コップをひっくり返して作った小麦粉の山の上にコインを置いて順番に小麦粉を削っていくというもの。コインを落とした人から脱落して、最後に残った人はコインをもらえるというもの。

魔女の占いとかもあったりして、日本のハロウィンでは見たことないゲームばかりです。

 

それから、舞台がハロウィーンパーティということもあり、作品を通してちょっと神秘的な雰囲気を感じさせる仕掛けがちりばめられています。精霊が住んでいそうな庭園を歩いていたら美しい少女と出くわした、とか。願い事の井戸があるけれど場所が不明だとか、ちょっと幻想的な言い伝えなんかが飛び出してきます。

そういう雰囲気の中でもポアロの推理は論理的。

不思議なものは無視するというわけではなく、言い伝えの意味を考えて現実と結びつけたりするところが、ポアロらしいと思います。

 

とはいえ、他のポアロ物と比べると、神秘的・幻想的な雰囲気が漂っている作品であることは間違いないと思います。その意味でちょっと珍しい作品だと私は思っています。「ベネチアの亡霊」はストーリーこそ別物だけれども、そういった作品の雰囲気を受け継ごうとしてあったと感じます。

 

別々の作品として全く別のタイミングで楽しむもよし、どちらも同じタイミングで楽しんで映画と小説を比べてみるもよし。

ですが…私としては、どちらも近いタイミングで楽しんで比較してみるのがより面白いかなと思っています。

映画もですが、小説もぜひおすすめいたします。(*^▽^*)