九月の閑話休題です。
2023年9月のテーマ
「月といえば…な本」
でおすすめしてまいりました。
一言で"月"といっても、連想する作品は様々でした。
作品の象徴であったり、SFの舞台としてそこに住むという疑似体験ができたり、子供たちのイマジネーションを掻き立てる冒険の地であったり…。
改めて"月"は地球から肉眼で見える親しみ深い衛星(ほし)なんだなあと感じました。
お月見という文化?風習?何と言ったらいいかわかりませんが、そういう風流な行動が古くからあるのも、人々の親しみの表れではないでしょうか。
個人的にはたまに空を見上げる程度でお月見などという風流な催しを行ったことはなく、マクドナルドで月見バーガーが発売され始めると秋を感じる食いしん坊なので、風流を語れる身分ではないのですが…。
それでは、タイトルの話題とまいりましょう。
映画「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」を観てきました。
ケネス・ブラナーがポアロを演じるシリーズの第三弾。
第二弾の「ナイル殺人事件」がコロナの影響でなかなか劇場公開されず、待ちに待って観に行った私としては、第三弾の公開が早くてウキウキで観に行ってきました。
相変わらずの型破りなカッコいいポアロを、"もう、そういうもの"として受け入れている自分がおり、今回も面白く鑑賞できました。実際に、映画の出来としてはとてもよかったと思います。
ただ、ご存じの方も多いと思いますが、クリスティーのポアロ物に「ベネチアの亡霊」という作品はありません。
この映画の原作は「ハロウィーンパーティ」となっています。
では、「ハロウィーンパーティ」の舞台をベネチアに移した作品かというと、それだけでもない。
ストーリーの下敷きにはしているけれど、「ハロウィーンパーティ」とは別物の新作と言っていいと思います。
登場人物の名前は「ハロウィーンパーティ」からとってあります。
が、キャラクターの造形もだいぶ違っていて、性格だとか職業だとかにちょっと元のキャラクターの要素を取り入れてはあるけど、基本的に別人。
事件自体も原作とは全然違う。共通点としては"ハロウィーンパーティ"の招待客が死んでしまうというところくらい。
全くのポアロの新作でした。
あまりにも原作と違いすぎてびっくりしたんですが、不思議なことに不満ではなかったんです。
なぜなら、これって、BBCの「シャーロック」みたいなもので、ポアロ物をリスペクトした新作を作ったってえことじゃあないですか!(JOJO風に言ってみた!!)
やった!ついにポアロにもチャンスが来た!と思いました。
「ベネチアの亡霊」が評価されれば、今後、ポアロ物をリスペクトした新作が続々と出るかもしれないし、そうなると現在あふれているホームズ物みたいに、ポアロ物を楽しむことができるようになるかも…と夢は膨らむばかりです。
ところで、これまでの二作はポアロ物としては新しさがあったものの、原作とそうかけ離れてはいませんでした。
三作目で思い切ったな~という気もしましたが、原作と別物というところはさておいて、これまでの二作と共通しているところがいくつかありました。
まず、舞台が閉じられた空間でのお話になっていること。
これまでの二作も、"止まった列車の中"(「オリエント急行殺人事件」)、"運行中の豪華客船"(「ナイル殺人事件」)で、登場人物も行動範囲も限定されていました。
「ベネチアの亡霊」も嵐で帰れなくなった招待者たちが、パーティ会場となった館で夜を明かすという設定になっていて、前の二作と同じです。
それから、ポアロは一人で事件を解決するということ。
これはちょっとわかりにくいかと思いますが、ヘイスティングス大尉みたいなポアロの相棒が登場しないという点が共通しています。
「オリエント急行殺人事件」でも「ナイル殺人事件」でもブークというポアロの友達が登場しますが、相棒かと言われるとちょっと違う。その人の立場としての役割を持っていて、ポアロと常に行動を共にするわけではないし、ポアロが彼を100%容疑者の対象から外しているかというと、そうとも見えない。
「ベネチアの亡霊」では、アリアドニ・オリヴァ夫人が登場しますが、この人のキャラクターが原作とだいぶ違っていて、ポアロに対して挑戦的というかちょっと野心的というか、私としてはポアロの相棒とは認められなかったので、やはりこのシリーズでは推理しているポアロは常にたった一人という印象です。
小説でのポアロはいつもヘイスティング大尉にすら自分の推理を途中で明かすことはしませんが、相棒としてよく語らい相手の意見を聞きます。そして、「君の考えは違うよ」とにおわすようなことも言ったりして、"自慢したがり"というポアロの性格を垣間見ることができます。
ケネス・ブラナーのポアロは自尊心の高さをうかがわせますが、"自慢したがり"という風には見えないので、敢えて相棒キャラを排除しているのかもしれません。
ところで、この作品で唯一私が不満だったのが、アリアドニ・オリヴァ夫人のキャラクター造詣です。
アリアドニ・オリヴァといえば、クリスティーの分身ともいわれているキャラクター。
(荒木飛呂彦における岸部露伴のようなキャラ)
なので、もちろんそのキャラ自身が本人に似ているとは限らないのですが、私にとっては、それでも大事に扱ってほしいキャラなのです。
あんまり変えてほしくない。
原作では、大柄でいつもりんごを食べていて、しょっちゅう髪形を変えている、ちょっと変わった女性です。
一度に何通りもの筋を考え付いて、辻褄を合わせて1つの物語にするのに四苦八苦しています。
非常に個性的な女性ですが、美しいと形容されることはありません。
ポアロとは絶妙に会話がかみ合わないところがあり、いつも直感で犯人を当てようとします。
彼女にとってはアイデアがどんどんわくので、動機も方法も"あとで検討すればいい"のです。
映画のアリアドニ・オリヴァは知的で野心的。大柄でもないし、髪形も別に奇抜ではないし、むしろ美人。
一日にりんご1つで食事は事足りるというセリフがあったので、違いは決定的でした。
アリアドニ・オリヴァ夫人はポアロ作品での登場回数がまあまあ多いキャラクターなので、今後もこの映画シリーズが続いていくのなら、もうちょっと慎重にキャラクター造詣をしてほしかったです。
わがままなのはわかっておりますが…。
とまあ、私的にはいろいろと思うところがありながらも、満足できた作品でした。
シリーズ続編の制作に期待です。
さて、来月のテーマなんですが、
2023年10月のテーマ
「映画を観て連想したクリスティー作品」
でおすすめしてみたいと思います。
この場合の映画はもちろん「ベネチアの亡霊」です。
全くの新作と言いつつも、「ハロウィーンパーティ」の要素はもちろん入っていたし、映画を観ながら他のクリスティー作品の要素も感じたので、気になった作品を書いてしまおうと思います。
いつもは12月に「クリスマスにはクリスティーを!」をやっているので、10月にこのテーマをやるのはどうかと思いますし、12月どうしようかなあという思いもよぎりましたが、映画を観て思い浮かんだ作品がいろいろあったので、やっぱり今書きたいと思います。よろしければのぞいていただけると幸いです。(*^▽^*)