2023年9月のテーマ

「月といえば…な本」

 

第二回は、

「アルテミス(上)(下)」

アンディ・ウィアー 著、小野田和子 訳、

早川書房、 2018年 電子書籍版発行

 

 

 

 

 

 

 

です。

 

Pickではハヤカワ文庫SF版を載せてますが、私が読んだのは珍しく電子書籍版!

個人的には紙の本大好きなので、Pickで貼るのも紙の本です。

以前、記事で書いたことがある、「火星の人」の作者が書いた第二作目がこの「アルテミス」

 

 

「火星の人」を読んだのがコロナ禍初期で、すぐに読みたくて電子書籍版を入手したのと同じで、その頃すでに出版されていた第二作の「アルテミス」もその後割とすぐ読み始めたというわけです。

ですが、この「アルテミス」、「火星の人」と違って上巻の途中で止まってしまい、ずいぶんと間をあけてから続きを読んだ本です。その理由はこの後の感想の中で…。

 

まずは、あらすじからまいりましょう。

今から100年後くらいの未来、人類が月面都市アルテミスを築いてから20年ほど経過しています。

主人公のジャスミン・バシャラ(通称 : ジャズ)は、サウジアラビア生まれで6歳の時から移民としてアルテミスで育った26歳の女性です。一流の腕を持つ溶接工の父に厳しく育てられ、技術を仕込まれるが、移り気な性格で、仕事を転々とした後に運び屋として密輸業に手を出しています。家を飛び出しており、お金を貯める必要があって、少々危険(+非合法)な仕事を受けた結果、殺し屋に狙われる羽目に…。

次から次へと難題が降りかかるものの、知恵と技術、そして仲間(?)の協力で事態の収拾に奮闘する…という物語です。

 

ハリウッド映画なんかでもよくある、「ちょっとした犯罪で生計を立てている主人公が、大きなトラブルに巻き込まれて絶体絶命…仲間と協力して困難なミッションに立ち向かう」といったストーリーなんですが、映画の場合、アクションやカーチェイスで盛り上げるところを、この小説では"宇宙空間でミッション上の問題をどう解決するかというところで知恵と技術を駆使する"のが面白いと思います。

 

主人公のジャズはどんな時でもユーモアを忘れないし、感情が豊か。

この辺りは「火星の人」の主人公マークと共通していて読みやすかったです。

 

ではなぜ止まってしまったのかというと、ジャズが報酬に目がくらんで引き受けた"少々危険(+非合法)な仕事"を実行しているあたりを読んでいて、なぜかいたたまれなくなってしまったんです。

場面としては緊張感があり、盛り上がりどころだったと思います。

でも、私の気持ちとしては、「そんな仕事してほしくない!」というのが強くて、直視したくなくなってしまいました。

ジャズは26歳という年齢ですが、はねっ返りで無鉄砲なところがあり、あまり落ち着きがありません。

父親に反発し家を飛び出して、絶縁してはいませんが両者の間は気まずい空気が流れています。

まだティーンエイジャーみたいなところがあります。

そんな女の子(実年齢では成人してますが)が、軽い気持ちで犯罪の片棒を担いでトラブルに巻き込まれるというのは、バカな事だし見たくない…みたいな気持ちになってしまったというわけです。

 

時間をおいて続きを読んでみれば、読みやすいしお話のテンポもよくて面白く読めたので、あの時何が私の心に作用して読むのをやめてしまったのか、今となってはわかりません。

 

ところで、今回、"月といえば…な本"で「アルテミス」をおすすめしたいと思ったのは、お話の面白さと私の個人的な読書経験からというだけではありません。

このお話の舞台が月面都市で、その都市の構造がどうなっているか、詳しく描かれているからです。

アルテミスは人口2000人、住んでいる人々はほぼ移民で観光産業で生計を立てています。

いくつかの"バブル"という半球形のドームがくっついた外観をしており、火気厳禁(火事は何よりも怖い)。

重力は6分の1なので、幼少期からここで生活して育った者は地球に行くと"重力症"という病気になってしまう。

などなど…。

日常生活の描写から、ジャズが手掛けるミッションまで、"月面都市"ならではの問題を解決していった結果こうなっているんだなというのが分かります。

私は物理や化学の分野に暗いので、読んでいて「なるほど!」とはならず「そうなんだー」という感じで読み進めていましたが、それで十分楽しめました。

 

これまでアニメの「機動戦士ガンダム」シリーズなんかでの月のコロニーの様子を見たことがありますが、月で生活するということのイメージはおぼろげでした。

「アルテミス」を読んだことによって、月面都市の生活というのがある程度リアルにイメージできるようになったのです。

「アルテミス」もSFだしフィクションなのでリアルという表現はおかしいかもですが…。

 

そういった意味で、「月に住む」という疑似体験をさせてもらえるこの作品をおすすめいたします。(*^▽^*)