2023年8月のテーマ

「熱い勝負を体験できる本」

 

第三回は、

「狩りのとき(上)(下)」

スティーヴン・ハンター 著、公手成幸 訳、

扶桑社ミステリー文庫 1999年発行

 

 

 

 

 

 

 

です。

 

以前にハードボイルド小説がテーマのときにおすすめした、「極大射程」のシリーズ続編です。

 

 

あらすじはというと、上巻では「極大射程」の主人公ボブ・リー・スワガーとベトナム戦争で狙撃チームの相棒だったダニー・フェンを主人公としたベトナム戦争時代の二人の物語、下巻では一変して現代のアメリカ(時間軸としては「極大射程」を間に挟んでさらに数年たったころ)を舞台にボブ・リー・スワガーとその家族が狙撃手に狙われるお話になっています。

ベトナム戦争時代に北ベトナム軍を支援するソ連が送り込んだ超人的技術のスナイパー、ソララトフがボブ・リーとその家族に迫り、過去に因縁がある二人の超人スナイパーが再び相まみえる…というストーリーです。

 

ベトナム戦争のパートは、「極大射程」で登場した戦友ダニーの目線でボブ・リーとの友情が深まっていく過程が描かれているので、シリーズのファンには、きゅんと来るんじゃないかと思います。

それと、以前はベトナム戦争を舞台とした戦争映画なんかがたくさんあった印象があるのですが、2000年代に入ってからはそういった作品の数はものすごく減っていると感じます。(あくまで主観です。)

「地獄の黙示録」「フルメタル・ジャケット」「フォレスト・ガンプ 一期一会」みたいな大ヒット映画になった作品が少ないというだけかもしれません。

かつてのベトナム戦争映画でみてきた、熱帯のジャングルで泥だらけになりながら感染症とも戦いつつ敵の奇襲に悩まされる戦場の描写は、文字通り泥臭く、化学兵器が使われたりもしていますが、基本は人間対人間の生々しい命の奪い合いを感じさせられたものでした。

時代が下り、戦争をテーマにした映画では中東の砂漠を舞台にしたものも増え、それはそれで灼熱の砂漠の世界の過酷さを描いていると思います。

何が言いたかったかというと、文章で表現されるベトナム戦争はまさに蒸し暑いジャングルでのべたついた空気感を描いてあって、そのジャングルのどこかに潜む凄腕スナイパーの脅威は不気味で恐ろしい、ということです。

私の場合は、かつてみたベトナム戦争の映画が情景描写のイメージを補強してくれたので、余計にそのように感じたのかもしれない、ということを合わせてお伝えしたかった次第です。

 

しかし、お話としては過去の物語よりも、現在の脅威の方がスリリングで面白いと思います。

過去からやってきた因縁の相手が、自分の愛する家族の命を奪おうとしている…緊迫感が半端ないですし、"因縁の相手"のすごさを際立たせるためにも前半のベトナム戦争パートは重要かなと思いました。

スナイパー同士の対決は静かで忍耐強く、"熱い勝負"とは言い難いかもしれません。

しかしこの作品の、ベトナムのジャングルで感じる蒸し暑さや、スナイパーという人々の、常人とは違う忍耐力と集中力を駆使した暗殺技術のぶつかり合いは、私の中では熱い塊のようにも感じられるのです。

 

スナイパー同士の因縁の対決、「狩りのとき」をおすすめいたします。(*^▽^*)