2022年5月のテーマ
「神話の本」
第二回は、
「絵物語 古事記」
富安陽子 文、山村浩二 絵、
三浦佑之 監修、
2017年発行、偕成社
です。
実は、今年1月に、「古典が楽しくなるかもな本」というテーマで
『五月女ケイ子のレッツ!!古事記』という本をおすすめいたしました。
ですので、また古事記か~と思われるかもしれません。
今回ご紹介する『絵物語 古事記』は、児童書の棚で見つけたものなんですが、物語の文章に味のあるイラストが全ページにわたってついているものになります。
まず、今回は漫画ではなく文章で物語が語られているところがいい。
なぜなら、漫画はイメージを膨らませてくれる手助けになるし、ビジョンとして頭に残りやすいという利点がある一方で、そのビジョンは書き手の想像で描かれているものを共有しているわけで、読み手の解釈の余地が少ないように思います。
作者オリジナルの漫画なら書き手のイメージを共有して読むのが作品を読み込むことになると思いますが、古典作品の漫画化の場合は、作者のオリジナリティを出すのは難しいというか、オリジナリティを出したことで原作から遠ざかってしまうところがあると思います。
『五月女ケイ子のレッツ!!古事記』の場合、作者の五月女ケイ子ワールド全開で面白おかしく強烈なインパクトで語られる古事記の物語はエピソードとして頭に残りやすく、娯楽としても楽しめて私としては非常にいい本だと思います。
しかしながら、原典の物語がこの本の通りだったとは思っていません。
オオナムジがメガネかけてるわけないし。
それがわかっているうえで読者に楽しみながら古事記の全体像をつかめるようになっている、というのがこの本の優れたところだと思っています。
エピソードとしては同じでも受ける印象が書き手の個性で変わる。
それは文章よりも漫画の方が影響が大きいのではないかなと思うのです。
そこで、今回おすすめする『絵物語 古事記』なんですが、イラストが多くてかつ物語も難しすぎず易しすぎず…読みやすい文章で書いてあります。
そして、エピソードとしてはほぼ『五月女ケイ子のレッツ!!古事記』とかぶっているのですが、そちらの本には書いてなかった神様が出てきたり、エピソードも詳細に書いてあったりしています。
例えば、一寸法師の原型ともいわれているスクナビコナという神様は、"ガガイモの実の船に乗り、蛾の皮をはいで作った服を着て海のかなたから来た"とあり、蛾の羽のようなマントを羽織った小さな神様のイラストが添えてあります。
他にも高天原には動物の姿をした神様がいたということがわかったり、以前読んだ本にはなかった発見があります。
原典から何を割愛して何を重点的に語るかという選択が本によって違うので、同じ原典の本を読み比べるとこういう発見があるのが楽しいです。
また、『五月女ケイ子のレッツ!!古事記』を読んだ後にこの本を読んだので気づいたのですが、時系列でエピソードが書いてある!(『レッツ!!古事記』では、古事記の全体の流れがわかるように解説してありました。)
多分今まで読んだことのある古事記の物語も原典に沿って大体同じ順番で書いてあったのに、登場人物がころころ変わるので物語に順番があると思っていなかったんだなということに気づかされました。
ギリシャ神話をまとめた本を読んだ時、いろんな神のエピソードがあるけど時系列とかでは全然なくて、いつ頃の話かも分からないし、アルテミスの物語でアポロンが出てきたら次はアポロンの話・・・みたいな感じで連想ゲームみたいにつながっていっていたイメージしかなく、古事記も同じような感覚で長年読んでいたんだと気づいた時のショックったら…。
何事も思い込みって怖いですね。
我ながら頭カタイなー。
今まで古事記関連の本を読み比べることってほとんどなかったので、気づかないまま来てしまったんでしょうね。
興味が出た時がチャンスだなって改めて思います。
あと、文章ではうまく説明できないんですけど、この本のイラストがすっごくいいです。
絵物語、というだけあって、イラストや挿絵ではないんですよね。(私の説明ではイラストって書いてしまっていますが、絵物語というにふさわしいです。)
本の装丁デザインも素敵です。
Pickの写真ではわからないんですが、背表紙のところに、記事で書いたスクナビコナのイラストが載っています。
機会がありましたら、ぜひ紙の本を手に取ってご確認ください。
おすすめいたします。(*^▽^*)